口が開けづらい、顎が鳴るのは顎関節症の可能性があります。
口を開けようとしたときに顎が痛いとか、カクカク音がする、大きく開けれない、など違和感を覚えたことはありませんか?また、口を開ける時に引っかかる感じがしたり、食事中にあごが疲れたりすることはないでしょうか。こうした症状は、もしかすると顎関節症のサインかもしれません。顎関節症は誰にでも起こりうる身近な病気です。放置すると慢性化し、日常生活に支障をきたすこともあります。
顎関節症とはどんな症状があるのか
顎関節症は、顎の関節やその周囲にある筋肉、靭帯、関節円板などに問題が起きることで発生する症候群の総称です。片側だけでなく、両側のこともあります。主に次のような症状が見られます。
・口を開けるときや閉じるときに顎に痛みを感じる。
・口を大きく開けられない(開口障害)
・口を開け閉めする際に「カクカク」や「ポキポキ」「ジャリジャリ」といった音がする。(関節雑音)
・顎がだるい、疲れる、重いといった不快感
・頭痛や肩こり、耳鳴りなどが生じることがある。
原因はひとつではない
顎関節症は特定の要因が単独で引き起こすこともありますが、複数の因子が絡み合って発症するケースが多いです。主な原因として、以下のものが挙げられます。
歯ぎしり・くいしばり
無意識のうちに顎に強い負担がかけているとされています。顎関節症の6割が噛みしめ癖という論文もあります。自覚のある人、無い人それぞれです。
ストレス
知らず知らずの精神的な緊張が筋肉を硬直させ、顎の関節への圧力が増すとされています。
かみ合わせの不良
歯並びや噛み合わせのズレ、噛み合わせの高さの低下が顎の関節に負担をかけます。
外傷
事故やスポーツなどであごを打った経験などがきっかけになることもあります。
体癖
頬杖、うつ伏せ寝などの習慣も、長期的に顎に慢性的な負担をかけます。顎をゆがめる原因となります。本人は気づかないことがほとんどです。些細な生活習慣でも顎の歪みとなります。
噛み合わせから起こる顎関節症のメカニズム
近年、咬合高径の低下や下顎後退が顎関節症の発症に関与していることが明らかになってきました。咬合高径の低下と下顎後退が顎関節症を引き起こすメカニズム、症状、不快症状、そしてその治療法について解説します。
咬合高径とは?
咬合高径(こうごうこうけい)とは、上下の歯が噛み合ったときの上下の歯列の高さのことを指します。正常な咬合高径は、顎の関節や筋肉に適切な負荷をかけ、咀嚼機能を円滑に保つ役割を果たしています。しかし、咬合高径が低くなると、下顎の位置が後退し、関節や筋肉に不均衡な負荷がかかることになります。正しい位置ではないので、加齢や歯の喪失、歯周病などにより、咬合高径が低下すると、下顎が後退する傾向があります。下顎後退は、顎関節に不均衡な負荷をかけ、顎関節症の原因となることがあります。顔貌の変化や咀嚼機能の低下を引き起こします。
下顎後退とは?
下顎が正常な位置より後ろにある状態を指します。横顔で見ると、あごが引っ込んでいるように見えます。下唇の下に影ができたり、凹んでいるように見えます。また下顎が下がると、相対的に上の歯が前に出て、出っ歯に見えることもあります。下の前歯が上の前歯の付け根付近に噛んでいて突き上げる形になります。下顎が下がると気道を狭くするので、呼吸しづらくなり猫背やいびきの原因になります。
咬合高径の低下や下顎後退になると、何がよくないのか。
顎関節が定位置よりも後ろに下がることになるので次のような影響が生じます。
・関節円板のズレ
咬合高径の低下により、関節円板が正常な位置からずれて外れるので関節の動きが制限されます。開け閉めで顎が鳴る原因になります。
・筋肉の過緊張
下顎後退により、咀嚼筋が過度に緊張し、常に食いしばった状況になるので噛む筋肉の痛みや不快感を引き起こします。
・関節の摩耗
不均衡な負荷により、関節の軟骨が摩耗し、炎症や痛みを引き起こします。
・偏頭痛や肩こりなどの原因
咬合高径が低下すると、下顎が後方に引かれ、顎関節(特に関節円板)に過度な負荷がかかります。その付近を走行する神経を圧迫することもあるので、顎関節のズレや摩耗、咀嚼筋の緊張、さらには頭痛・肩こり・耳鳴りなど全身症状にもつながることがあります。これらの要因が組み合わさることで、顎関節症が発症すると言われています。
主な顎関節症の改善方法
1.スプリント療法
就寝時や日中にマウスピースを装着し、咬合高径を一時的に適正化。下顎の位置を安定させ、関節への負担を軽減します。噛み合わせが原因かどうかの診断にも使われます。根本的な治療ではありません。
2.補綴治療
失った歯を差し歯や入れ歯、インプラントなどで補い、咬合高径を回復します。咬合が原因で顎関節に無理がかかっている場合、歯の高さを挙上したり、適正な顎の位置を探って咬み合わせの位置を決める必要があります。失った期間が長ければ長いほど高さを戻すのは難しくなります。1本2本ではなく、奥歯全体など治療する範囲はほぼ全部の部位と認識しておく方がよいでしょう。
3.矯正治療
歯列不正や不適切な咬合位置が下顎後退を招いている場合、矯正治療で咬合関係を整えます。顎の位置を正しく導くことで、筋肉の緊張を解放し顎関節への負担を軽減します。下顎を前方に誘導することが多く、その結果咬合高径は挙上されるのです。マウスピース矯正は、マウスピースを上下に装着することで噛み合わせの高さが上がりますから、ワイヤーに比べるとアプローチしやすいです。
4.薬物療法
痛みや炎症を抑えるために、鎮痛剤や抗炎症薬を使用します。対症療法になります。
5.理学療法・筋機能療法
顎や咀嚼筋をほぐすストレッチ・マッサージ・温熱療法。筋肉のアンバランスや過緊張を改善し、顎の動きのスムーズさを取り戻します。
6.生活習慣の見直し
頬杖、うつ伏せ寝、歯ぎしり・くいしばりなど、気づかない内に顎に負担をかける癖をやめましょう。
・長時間のスマホやパソコン作業時の姿勢に注意する
・頬杖やうつ伏せ寝を避ける
・片側ばかりで噛む癖をなくす
・無意識の食いしばりを意識して緩める
・猫背や前かがみの姿勢を避け、正しい姿勢を保つよう心がける
・硬い食べ物を避け、バランスの取れた食事を摂るようにする
7.ストレスの管理
リラクゼーション法や趣味の時間を持つことで、ストレスを軽減しましょう。(深呼吸、趣味、軽い運動など)
当院ではどのように取り組んでいるか
診査診断は行った上で1~7の治療となりますが、5~7はご自身でのセルフケアになります。まずマウスピースの装着を行うことが多いです。症状が改善すれば噛み合わせの可能性が高いので、補綴か矯正治療を検討していくことになります。一般歯科では咬合高径の低下や下顎後退に対しての処置が主になります。そこまで踏み込みたくないならマウスピースの装着とセルフケアで対応することになります。マウスピースでの効果が得られない場合や、口腔外科を受診していただき、症状によってはMRIでの診断になることもあります。外科的な治療の検討になることもあるようです。
顎は身体のバランサー
顎は、話す、食べる、笑うなど、人間の生活の質を左右する大切な機能を担っています。その動きに違和感があると言うことは、顎の位置に問題があると考えられます。下顎は頭や首、全身のバランスに密接に関係しています。単なる「顎の問題」にとどまらず、慢性の肩こりや頭痛、姿勢の悪化まで引き起こしかねないので、不調を感じたら歯科や口腔外科の専門医相談してみるとよいでしょう。咬合高径の低下や下顎後退は、顎関節症の発症に関与する重要な要因です。
顎関節症と長く付き合っていく
治療で症状が改善されたとしても、顎関節症は生活習慣に密接に関わっているため、再発しやすい側面もあります。そのため、症状がなくなった後も、予防とセルフケアがとても大切です。また、様々な原因が複合して発症していますから、一つの治療では改善しないこともあります。長く付き合っていかなければならない疾病と理解していただけると幸いです。