答えはイエス!です。
適切な哺乳、適切な離乳、適切な食事ができていれば顎は適切に大きくなり、きちんと歯はならんでいきます。どこかが上手くいっていないと乳歯のうちにもキチキチな歯並びになったり、すきっぱにならなかったり、噛み合わせると下の前歯がみえないような出っ歯になります。口がきちんと成長出来ていないと、お口ポカンになってしまいます。歯がきちんと並んでいるということは、舌、唇、頬などの筋肉が適切に働いているということです。鼻呼吸ができるということは、空気の流れで頭を冷やし、脳を活性化させますし、鼻というフィルターを通すことで体内への細菌・ウィルスに侵入を防ぎ免疫力を上げるという効果もあります。きちんと歯が並ぶくらいの大きさに顎を大きくするのには様々なメリットがあるのです。
受け口にも3種類ある。
アントニオ猪木さんを思い出すと、下顎が前に出ていますよね。その状態を受け口と言います。話し方も、受け口の方は少し特徴があります。原因には遺伝的なものもありますし、そうでないこともあります。末端肥大症というホルモンの関係で下顎が成長している可能性もあります。3種類あると書きましたが、上が正常・下が出ている、上が引っ込んで・下が正常、上が引っ込んで・下が出ている、の3パターンがあります。骨格の問題で言えば、受け口の治療で難しいのは最後の上が引っ込み下が出ているという上下両方に問題のある場合です。骨格的には上下普通で、歯だけが上下逆になっているパターンも存在します。部分的に上下の歯並びが逆転している場合は比較的治療はスムースに進みます。下が普通で上が引っ込んでいることが多いパターンのようです。この場合下が普通ですから、歯に傾きを加えて直すというよりは、上顎を拡げてあげれば受け口を解消することに寄与します。その場合、前にも拡げないといけないのですが、大きな装置を用いなければならないのが難しい所ではあります。
上顎が狭いなら、上を拡げるのが理にかなっている。
噛んで前歯を見てもらうと、普通は上の歯が下の歯より外側にあります。奥歯もやはり上の歯が下よりも外側にあります。歯は骨から真っすぐ生えていますから顎の大きさも、下顎よりも上顎の方が大きいのが普通です。上顎の右と左の6歳臼歯の幅でいうと42㎜が普通です。下顎はそれより15㎜くらい小さいのが普通です。それくらいの差があって上下の歯の並びは普通の噛み合わせになります。大きさには個人差がありますから必ずこれと言う訳ではありません。バランス的にはこれくらいがちょうどよいのです。ただ小さくなると歯がきちんと並ばなくなる可能性が高まりますし、鼻の通り道も狭くなり、口呼吸の原因にもなります。上に合わせてしか普通下顎は大きくなれないことが多いですから、下顎も歯が並ばない、ということになります。ですから歯並びを治すには上顎の大きさがどうなっているかをまず見なければなりません。
上顎骨と下顎骨の違い
上顎は左右一対の骨で、くっついて1つの形を作っています。くっついた部分のなごりが前後にあって正中口蓋縫合と言われます。また前歯あたりの部分に切歯縫合という左右の骨の継ぎ目があります。だんだん目立たなくなっていきますが、成長期にはこの縫合が開いていることが多いのです。成人になると癒合が進み開かなくなります。下顎は発生初期(胎児期)では左右一対に分かれている状態で発生するのですが、真ん中で癒合し成人では1つの骨になります。通常、2歳前後までに骨癒合が完了し、目立たなくなります。成人になると、縫合線としては見られなくなることがほとんどです。この縫合にアプローチをかけて顎を広げることができるのですが下顎は縫合がほぼ無くなってしまいますからアプローチできません。下顎を拡げることはほぼできません。
上顎は基本的に大きくできますが、できないこともある。
縫合が閉まって、癒合しきっていない時期、成長期であればそこに力をかけて側方に広げることができるのです。前方向へは切歯縫合、横方向へは正中口蓋縫合に力を加え、顎を大きくしていくことができます。ただし切歯縫合は10歳くらい、正中口蓋縫合はティーンの時期がラストチャンスです。前方向への拡大できる期間はとても短いのです。あれこれ考えている暇がありません。ですから10歳になっても八重歯をそのままにしておくと上顎は、歯を綺麗に並べるだけの大きさになりませんから抜歯して矯正治療しなくてはならなくなります。早期に顎を大きくする取り組みをしましょう。
マウスピース(アライナー)を使用して上顎の幅を広げる治療(成長期)
上顎の歯列や骨の幅を広げる治療を口蓋拡大(Palatal Expansion)と言います。通常のマウスピース矯正と同じで、食事・歯磨き時以外は1日20~22時間装着します。顎をどれだけ大きくするかは診断によりますが、数十枚のマウスピースを作成し毎日交換します。1枚ごとにわずかに外側へ広がったマウスピースで少しずつ拡大させながら歯列の幅を広げていきます。骨の成長のある年齢なので、上顎の骨自体も広がるのです。さきほど述べた正中口蓋縫合に軽い力を継続的に加えることで少しずつ広げるというイメージですね。ですから痛みも少ないです。最大48枚なのでひと月半といった期間です。拡大後は元に戻らないようにリテーナーという装置で安定させます。通常のマウスピースに比べて少し大きくなるという欠点はありますが、期間的には短いですからここは頑張ってもらいます。もちろん取り外し出来ますから食事や歯磨きもしやすく、発音にも影響しにくいです。マウスピースによる骨の拡大は成長期の子どものみとなります。
大人はMSEという手立て
MSE(Maxillary Skeletal Expansionの略)は、上顎(口の上側)を骨ごと横に広げる治療法です。これはマウスピースで拡げるものではありません。通常、上顎の成長は10代前半までにほぼ終わるため、大人になると歯列矯正だけでは上顎の幅を広げるのが非常に難しくなります。軟らかい成長期の骨はマウスピースで縫合を拡げることが出来ますが、縫合が閉じた大人は言わば機械的な力を加えて強引に縫合を広げる、といったイメージでしょうか。特殊な装置を使って骨をゆっくり拡大し、上顎全体を広げます。車を持ち上げるジャッキという道具があります。タイヤがパンクした時に車を一部持ち上げてタイヤ交換するときなどに用います。地面と車の間に入れて少しづつ高くしていくと車の一部が持ち上がります。上顎の真ん中にジャッキみたいな材料をほんの小さなインプラントでねじ止めして固定します。局所麻酔下で行います。その材料を1日1~2回ほどスクリューを使って自分で回してもらいます。数週間から数ヶ月かけて横方向に上顎を拡大していきます。目的の大きさまでなれば、拡大は終了です。その後拡大した上顎を安定させるため、材料は上顎に留めておきます。
MSEの治療のリスク
治療できるかどうかを、歯科用CTスキャン、口腔内スキャン、X線を撮影し、上顎の状態を確認。MSEが適用できるか診断します。上顎の骨が薄いとMSEを取り付けても効果が出ないことがあります。また30歳を越えた男性の方は縫合を開くことが出来ないことがほとんどです。その場合は対象外です。治療中に違和感や圧迫感があったりしますが、数日で慣れることが多いようです。ただ発音や食事で違和感が多少あったりします。まれに思うように縫合が開かないこともあります。
上顎の骨を拡大するメリット
上顎が狭く、歯が並ぶスペースが足りなかったり(叢生・ガタガタの歯並び)上顎が狭く、下顎の歯が上顎の内側に入っていたり(交叉咬合・クロスバイト)している場合、治療していくにおいて上下の歯並びのみならず顎骨の関係を正していくことが治療の永続性と健康につながります、自然な歯並びを取り戻すため顎にアプローチすることも必要になっているのです。