出っ歯、受け口、開咬、八重歯、ガタガタな歯並び、色々な歯列不正があります。歯列不正は見た目だけではなく健康に直結しています。脳への刺激、呼吸のしやすさ・しにくさ、姿勢の保持に噛み合わせが大きく関わっています。脳を最大に機能させるために、酸素をしっかり送る、脳が過熱しないよう冷やす、適切な刺激を伝える、ために正しい噛み合わせを獲得しなければなりません。正しい噛み合わせを得ることで正しい姿勢が保たれ、筋肉が正しく使われ運動能力が上がります。もちろん生まれてずっと正しい噛み合わせであれば問題はありません。問題があれば小さいうちに取り組むことが必要です。できることなら成長期までにすべてクリアしたいところです。
目次
成人するまでの噛み合わせの問題は上顎の成長に問題がある
受け口、と言えばしゃくれていることが頭に浮かびますね。下顎が出ているように思いますが、日本人では多くの場合下が出ているのではなくて、上顎の成長が小さくて引っ込んでいて、相対的に下顎が出ているように見えるのです。(遺伝的な傾向もありますのですべてではありません。)ですから治療としては下顎を引っ込めるのではなくて上顎を大きく成長させることを目指します。
出っ歯も上顎が小さいからそう見えます。
上顎の歯の並びよりも下顎の歯の並びが内側にあります。(これが全く逆になっていれば先ほど述べた遺伝的な可能性が高く、早期に専門の矯正医の受診をお勧めします。)上顎の歯並びがよくない場合正しく顎が成長していません。上顎の劣成長だと考えられます。下顎は上顎よりも内側に通常は歯が並ぶとお話しましたが、上顎が小さいと下顎も成長できません。だから出っ歯になります。出っ歯の場合も取り組むべきは下顎ではなくて上顎になります。
上顎と下顎で成長のピークとスピードは違う
上顎は頭蓋、脳に極めて近いので、脳に近い成長曲線になります。赤ちゃんから3歳くらいまですごい勢いで頭は成長します。6歳くらいになると9割くらい成長が進みます。上顎もそれに少し遅れ10歳くらいにはほぼ成長のピークを迎えます。一方下顎は身体、首から下の成長に近い成長曲線になります。女の子だと15歳くらい、男の子だと18歳くらいがピークになります。個人差があるので早かったり遅かったりします。
八重歯や歯並びガタガタなのも顎の成長不足が原因
発掘される古代人では親知らずまできちんと真っすぐ生えていりことが多いです。噛み切り、噛み砕くような食事をしていたのでしょう。近年では親知らずが真っすぐ生えない人、埋まっている人、一部ない人がいらっしゃいます。軟食など色々なことが原因で、親知らずが真っすぐ生えきらないようになっているようです。顎が小さくなっているということです。親知らずは別にしても、それ以外の歯がきちんと並ばないのは、更に顎が正しく成長せず小さくなっているということです。歯は顎の中にしか並びません。
上顎が正しく大きくならないと鼻にも影響します。
上顎が正しく大きくならないと歯並びだけではなく、その上に位置する鼻の成長や外見、さらには鼻の機能に影響を及ぼすことがあります。上顎(上顎骨)は顔面骨格の中心的な構造であり、鼻腔や鼻の形態を支える重要な骨です。そのため、上顎の成長が不十分で起こりうる影響を記載します。
顔のバランス
上顎の成長不足により、顔全体が平坦に見えることがあります。横顔で鼻の高さが相対的に低く見えたりします。また上顎の前方への成長が不足すると、鼻先がやや下に向きやすくなり、全体的に短鼻の印象を与えることがあります。
呼吸への影響
上顎骨が鼻腔の一部を形成しているため、成長不足により鼻腔が狭くなり、空気の通り道が狭くなって呼吸に影響を及ぼすことがあります。口呼吸や睡眠時無呼吸症候群などの原因になることもあるということです。
鼻づまり
上顎骨内に含まれる上顎洞(副鼻腔の一部)の発育が不十分になることで、鼻腔全体の容量が減少し、鼻詰まりや慢性副鼻腔炎の原因になることがあります。
口呼吸になる可能性が高まる
鼻腔が狭いと口呼吸が習慣化します。口腔内が乾燥し、むし歯や歯周病のリスクが高まりますし、舌の位置が下がり、さらに上顎の成長を妨げる悪循環を引き起こしたりします。鼻腔が狭いことで気道が部分的に閉塞し、睡眠中に呼吸停止が起こることがあります。いわゆる睡眠時無呼吸症候群の原因になります。(睡眠の質が低下し、日中の眠気や倦怠感が生じる。)また口呼吸が増えることで、鼻のフィルター機能(異物や病原菌を除去する役割)が低下します。ですから風邪やインフルエンザなどの気道感染症にかかりやすくなります。呼吸がしっかりできないで酸素供給が不十分になると、子どもの成長や発達に悪影響を及ぼす可能性があります。
歯を抜かないで並べるのがモアベター
上顎の成長不足があれば、口呼吸、舌の位置、姿勢などにも影響を及ぼしますから、上顎骨を成長させなければなりません。上顎を大きくしながら歯並びを改善することが成長期の治療目標となります。成長期のガタガタな歯並びに対してのアプローチは、顎を大きくして歯を抜かずに並べることになります。あまりないのですが、日本人の平均に比べて顎がとても小さい場合や歯がとても大きい場合、やむを得ず抜歯により顎や顔の調和を取ることになります。
歯の数に合っただけ成長する
2つの模型があります。どちらも成人男性の方の上顎です。左側はおそらく成長期に抜歯矯正されたのだろうと思われます。右側は矯正治療していない方だろうと思います。歯並びの大きさ、これを歯列弓といいますがそのアーチはどちらが大きいでしょうか?身長、骨格など違うとは思いますから一概に言えないのですが、顎は歯の有る数だけの成長になるのではないかと私は思っています。ですから極端なケースでない限り、成長期においては抜歯することなく上顎を大きくする矯正治療が望ましく、そのようにしたいと思っています。分析の結果、抜歯しないために歯と歯の間を一部削合することがあります。抜歯をどう考えるかにもよるのですが、抜歯するよりも削合で済ませられるなら非抜歯の方がよいと私は思っています。
下顎は後から成長する
上顎の成長を正しいところまで戻すことができれば、下顎は後から成長するので正しく成長しやすくなります。上顎の成長の方がタイムリミット早いので、まずは上顎の劣成長の改善に取り組みましょう。同時に歯並びのガタガタを上下治していきます。下顎は成長と共に前方に出てきます。それで正しい噛み合わせを獲得します。ただし前方に成長しなかったり、少ししか出ないことがあります。経過観察を続け、下顎の成長が足らない時は前方に成長させる治療に進みます。
成長期はやや出っ歯の状態で見守る
きちんと歯が並ぶように上顎を成長させる(劣成長を改善する)ことと、それに合わせてガタガタな歯並びを改善し下顎の成長を見守る。それがティーンまでのうちに行っておくことです。経過観察を半年おきくらいで続けて必要に応じ治療を再開することになります。
アライナー矯正が向いていると思う理由
ワイヤー矯正に比べると、着脱を行うなど規律をもって取り組まないと治療効果が出ないというデメリットもありますが、多感な時期で見た目を気にしなくてよいことや、歯ブラシのしやすさなど口腔内の清掃性を保ちやすさなどのメリットが上回るのでマウスピース矯正が向いていると思います。マウスピースの持つ軟らかさ、しなやかさなどの材料特性が顎を拡げるに向いていると思っています。矯正治療に限らず、私の意見だけでなく色々な先生の意見をお聞きになった上で、納得された上で治療に取り組まれてくださいね。