歯の外傷
学校で、体育の時間や遊び時間に子供同士でぶつかって、あるいは転んで歯をぶつけた。
ぶつけたら歯茎から血が出て歯が欠けた、折れた。噛んだら、歯が痛い、ズキズキする、と時折学校から連絡があります。
大人でも貧血や暗がりで転倒したということもあります。子供の頭が下から当たってグラグラするなど。もちろん交通事故などもあります。
交通事故の場合は命にかかわる治療が優先になり、そちらの治療が終わってからになりますから、来院までに時間が空く場合が多いです。
対応に時間はかかります。ご容赦ください。
突発的な事象なので十分な時間をお取りすることができません。都合よく予約がキャンセルされたなら対応できますが、そんなことは滅多にありません。元から予約していただいた方の治療時間は確保しつつ、外傷の処置が必要なので時間的にも対応できることが限られます。緊急患者さんに寛容な方ばかりならよいのですが、昨今は時間にシビアな方が多いので、ご容赦ください。
症状
歯が完全に飛び出てしまって、手に持っている
歯が完全に抜けてはいないがかなり飛び出ている
歯が欠ける(大きく/少し)
歯が折れる(一部/ほとんど)
歯がグラグラする(少し/かなり)
歯が滲みる(少し/かなり)
歯がズキズキする
歯の位置が前か後ろにずれて居る(噛めない)
噛むと痛い (噛めないくらい/当たると少し痛い)
歯ぐきから血が出る
などがあります。
歯の破折
歯が折れたり割れたりしている場合、どのくらい割れているかで処置が変わってきます。
エナメル質内
エナメル質にとどまる歯の破折であれば、“少し欠けた”くらいなので、症状もさほどありません。エナメル質には神経が通っていません。詰めて治せますが、詰める部分が小さすぎてすぐ取れてしまうこともあります。
象牙質が露出
象牙質まで破折していると、知覚があるので滲みたりズキズキすることもあります。神経(歯髄)が出ていなくても近くまで欠けていたりすると、神経処置することもあります。できれば神経を取りたくないので保護する薬を詰めたうえで最終詰め物をしていきます。大きく欠けてしまうと大きく削って、被せ物にしないといけません。
歯髄が出てしまっている
神経処置をしないといけません。ズキズキ感もあります。神経が口腔内に露出してしまっていると麻酔が効かないので、頑張ってもらわないと処置できません。悪しからずご容赦ください。
折れた歯が残っていると、リスクを伴いますがそれを付けることもあります。
神経が見えないくらいの折れ方だと、折れた部分を一旦元に戻して接着させることもあります。
かみあわせの問題や痛みがあると、結局それを取ったり、取れてしまったりすることもありますが、できるだけ使うように私はしていますので来院時にあれば、牛乳(あるいは歯牙保存液というものがあれば)にかけらを入れた上でお持ちください。その後万一取れてしまうこともありますがお含みおきください。
歯の揺れ具合
歯の脱臼 亜脱臼
脱臼、亜脱臼は、歯が歯槽骨から飛び出てしまったか(脱臼)、飛び出てはいないがほとんど出かかっているか(亜脱臼)の状態です。元の位置に歯そのものを戻すのが第一選択になります。噛み合わせのことを考えて元に戻しますが、麻酔も効きづらい中で治療になりますから痛みます。(炎症のある時は麻酔をしても効果があまりないからです。)
神経が切れてしまっている可能性が高い
骨から飛び出ているような状態ですから、神経が切れています。元の位置に戻し固定期間に歯の揺れが収まってきたら、神経処置することになります。稀に神経が再生することもありますから(特に乳歯は)、数カ月痛みが無ければ様子をみます。
打撲
骨から飛び出てはいないものの、外傷により歯が揺れることを打撲と診断します。衝撃具合により神経が切れることもあります。その場合数日から数カ月で歯の色が茶色くなったり、歯茎に腫れが出てきます。その場合もやはり神経処置になります。
処置
ワイヤー固定
基本的に歯をワイヤーで固定します。歯の並びにあわせてワイヤーを曲げて、揺れている歯を中心に何本か接着材料で固定します。基本的には一か月。その後ワイヤーを撤去します。歯列に合わせてワイヤーを曲げるのに時間かかります。緊急に来られてそこまでできれば良いのですが、難しいこともよくあります。
咬合調整
歯が揺れているので、顎を前後左右に歯ぎしりしてもらって、揺れている歯が反対の歯と当たらないように削って調整します。
抜歯
歯周病で元から揺れていた場合
乳歯の生え代わりが近い歯(元々グラグラしていた歯)
の場合は固定をせずに抜歯します。
口腔外科の受診をしてもらう
出血が著しい
多数の歯が著しく揺れている
歯を元の位置に戻すことが痛みなどもあり困難
骨折
などの場合、ご紹介状を用意し近隣の病院歯科口腔外科を受診していただきます。
後遺症
内部吸収の可能性
ぶつけた歯を残せても(神経を残した歯)時間の経過と共に歯の内側から溶けていくことがあります。その場合抜歯になります。
経過を追っていき、その兆候が確認できた時には痛みがなくても神経処置することになります。
歯が茶色くなる
詰めたり被せたりして神経を残した歯の色が時間の経過と共に茶色くなることがあります。
神経が残っていて、痛みがなければそのままにしますが、歯グキが腫れたり、噛んで痛むようなら神経治療が必要になります。神経が残せても色がきになれば、歯を削ってかぶせることになります。
親御様へ
出っ歯だったり、 受け身を取れない、などの運動能力の低下などで、前歯からこけてしまう傾向にあります。哺乳の時期から続く上顎骨の劣成長が原因であることも一因ですので、食育や歯並びに関心を持たれて改善のための治療をするべきだと思います。
意図的移植
意図的移植とはお口の中の治療のため、一度歯を抜いて再度治療箇所に埋め込む治療です。
歯の根に細菌感染した箇所がある場合や、通常の方法では治療が難しい場合に用いられます。
また、歯の治療箇所が歯肉深くにある場合に一度歯を抜き回転させて治療箇所をより上に移動させる再植という治療法もあります。
歯牙移植
虫歯や歯周病、事故による外傷で失ってしまった歯は元に戻ることはありません。通常失ってしまった歯はブリッジや義歯、インプラントなどの治療を行うことで機能を補いますが、以前の自分の歯のような噛み心地を味わうことはできません。インプラントは元の自分の歯に近い噛み心地とされてはいますが全く同じというわけではないのです。
しかし、条件さえ揃えば「歯牙移植」という選択があります。
歯牙移植は文字通り歯を移植する治療法で、可能であれば自分の歯を移植することにより失った歯の機能を補うことができます。
「可能な限り自分の歯を残したい」「以前の歯と同じような感覚で噛みたい」という患者様の願いをかなえる治療法といえます。
歯牙移植とインプラント治療の違い
インプラントで使用する歯は人工物ですが、歯牙移植では自分の歯を使うため、天然の歯とほぼ変わらない機能・感触と言われるインプラントでも天然の歯にはかないません。
天然の歯を移植するので、他の歯と同じように年を重ねることで衰え、ケアを怠れば虫歯にもなりますが、歯牙移植では歯根膜を活用することが可能です。
歯根膜は歯の根と歯を支える骨の間にある薄い膜で、ものを噛む力を支えるためのクッションになる他、噛む感触を脳に伝えるという役割があります。
人の噛む力は非常に強く、それを受け止める歯は実は噛むたびに大きなダメージを受けているのです。そうした噛む力で歯や骨が傷付かないように噛む力を調整することで力を和らげるのが歯根膜です。
インプラントは歯根膜がつかないので、噛む力はインプラントを通じてダイレクトに顎の骨に伝わってしまいます。
移植可能な歯の条件
親知らず全体の噛み合わせに影響しない歯があることが第一の条件になります。
また、移植しても歯の大きさや形に問題がないか、他の歯を傷つけないかどうかも重要な条件となります。
また、移植する先の歯槽骨が健康であることも大切です。
歯牙移植が可能なケース
歯牙移植が可能なのは以下のようなケースです。
ただし、条件によって歯牙移植を断念していただく場合もあります。
- 元の歯の虫歯が進行していたり、歯が破折していて奥歯の抜歯が必要な場合
- 既に奥歯が失われており、親知らずが残っている場合
- 歯を抜いた後にインプラントをいれるか、ブリッジにするか迷っている場合
- 歯を抜いた後にインプラントを1本のみ検討している場合
移植が可能になる条件
移植を行う場合いくつかの条件があります。
当然ですが、ドナーとなる歯は虫歯などがない健康な歯である必要があります。
- ドナー歯とすることができ、不必要な歯がある
- 移植する歯が歯周病に罹患しておらず、歯根膜がしっかりしている
- 移植する歯の根が複雑な形状ではない
- 移植する場所と歯の大きさが合致している
- 移植を受ける患者様の年齢が若い(移植が可能となるのは40歳くらいまで)
歯牙移植のメリットとデメリット
メリット
- 歯根膜を一緒に移植するため、噛んだときに噛み応えを保つことが可能
- インプラントに比べて費用を抑え、成長期の方でも治療を受けられる
- 周囲の健康な歯を削らず、自然な噛み合わせになる
- 条件によって健康保険が適用される
- アレルギー等の心配がない
デメリット
- インプラントに比べて手術が難しく、術者(歯科医師)の技能に左右される
- 成功するかどうか見極めが困難
- 抜歯ができ、移植可能な健康な歯が必要になる
- 治療できる条件があり、全ての人が受けられるわけではない(移植した歯の神経治療が必要)
- 大がかりな外科手術が必要になる
- 移植成功率が低い
歯牙移植のQ&A
健康保険は適用されますか?
適用には条件があります。
移植するドナー歯が「親しらず」であり、抜歯をしたその日のうちに移植することが条件になります。既に親知らずを抜いてしまっていて、元々歯がない場合は保険対象外となります。
保険治療では移植のハードルが高くなっています。
抜いた歯はどの歯にも移植できますか?
移植をする歯の根と、移植する場所の骨の幅が合致していることが必要です。
基本的にどの歯・どの場所でも移植は可能ですが、歯の根が大きすぎたり小さすぎたりする場合は移植ができないため、前歯への移植はあまり行われません。
抜いた歯の上部部分(歯冠)もそのまま使えますか?
歯の移植治療は「歯根」を移植する治療法です。歯根が安定した場合、基本的に被せ物を装着します。その前に術後2週間から神経治療を行います。一度抜歯しているので神経治療に麻酔は必要ありません。
手術中は痛みを感じますか?
手術は麻酔を使って行います。
麻酔からさめた後、術野に腫れや痛みを感じる場合がありますが、当院で痛み止め等を処方します。通常の抜歯と同じですが、1日で2か所の抜歯にすることもあるので術後2か所痛みが出る可能性があります。
再植
根管治療で症状が改善しない場合、一度抜いて処置した後、歯を同じ箇所に戻すことを指します。
怪我や事故で歯が抜けたり、抜けかかっている場合一旦抜いてから同じ場所に戻す処置を再植と言います。
再植する箇所が損傷していない、汚染されていないなどのいくつか条件が揃わないと成功率がかなり下がります。