今回は永久歯の前歯が曲がって生えている歯の治療についてどのように改善していったかを説明していきたいと思います。前歯の4本と6歳臼歯以外は乳歯で、永久歯と乳歯が混在している状態です。同じようなお口の方の治療を考えていらっしゃる方の参考になればと、患者さんとそのご家族から同意の上、お写真を使用させていただいています。感謝致します!
目次
初診時
お見えになった時は8歳4か月の女のお子さん。下の前歯が上の前歯の裏側の歯茎に当たって痛みがあるということでご来院されました。正面から見ると下の前歯が半分くらい隠れています。上の前歯が少し回転して生えています。前歯が全部きちんと並ぶだけのスペースが無かったので回転して4本萌出しています。真ん中から2番目の歯が内側にあります。下顎は上顎の内側に入って噛むのですが、上の2番目の歯が内側に入っているので、下あごは更にその内側に入らないと噛むことができません。それで下の前歯が上の前歯の裏側の歯肉に当たっていると診断しました。
この時期の歯列不正は上顎の劣成長が原因です。
小学生くらいのお子さんの歯列不正の原因は上顎の劣成長と言えます。上の歯が綺麗に並ぶだけの大きさに上顎が成長していないのです。(下顎は上顎より少し遅れて成長します。)上顎が成長しないと、対になっている下顎が上顎に規制されて大きくなれません。下の前歯がガタつくのは、歯が並ぶだけのスペースに顎が成長していないと言えます。前歯の幅は、大人の歯の方が子供の歯よりも大きいです。だから乳歯の時にすきっ歯でないと永久歯になった時、きれいに並びません。年齢が上がれば、成長するから隙間ができるでしょう、と思うかもしれませんが、乳歯の歯並びの時でキチキチな生え方だと、すべて永久歯になってもその部分のスペースに変化がなくキチキチになることがほとんどです。
成長空隙と霊長空隙
どれくらいすきっ歯であった方がよいかは上顎と下顎で異なります。上の前歯の場合、糸切り歯(犬歯)から反対の糸切り歯までで隙間の総計が7㎜、下の前歯だと犬歯間で5㎜以上ないと永久歯はきれいに並びません。3歳のときにキチキチだと6歳になってもキチキチなままです。では就学前に何かできることはあるのか気になりますよね。あります。それは食育と筋機能訓練です。それで必ず隙間ができる、ということは言えません。年齢的に自我も芽生え、装置を口の中に入れるということも難しいと思います。前歯に負荷をかけ、刺激を与えることで、顎を大きく前方へ成長させるきっかけを与える。それができること、になります。毎日続けていくことがカギになります。
小児マウスピース矯正で治療開始
前歯4本、6歳臼歯が萌出しているので小児マウスピース矯正という装置を用いて治療しました。今回の治療のゴールは永久歯が適切に並ぶように顎を成長させること。そうすることで上顎と下顎の関係が良くなり、歯茎の痛みは改善されるであろうこと、歯並びも治療に伴い改善されることを保護者の方にお伝えし、同意を得たので治療を開始することになりました。前歯の歯並びも少し気にされていました。
治療の前提の守っていただくルール
食事と歯ブラシ以外の時間はずっと装着していただくことが前提の治療法になります。ですから学校に行っている間もマウスピースを装着してもらわないといけません。小学生にとってはちょっとハードルが高いかもしれません。給食の時には外してもらわないといけませんし、それだけに本人のモチベーションが大切で、保護者だけが乗り気でも治療はできません。
治療開始4か月後
揺れている乳歯が何本か抜けていますが、随分歯並びがよくなりました。並ぶということはそれだけ顎も大きくなっているということです。顎が大きくなったからといって出っ歯にはなりません。もともと歯が並ばないくらい上顎が小さかったのですから、本来の大きさになったということです。歯に出っ張りが付いていますが、これをアタッチメントといいます。マウスピースだけでは歯に矯正力を伝えられないのでアタッチメントを歯の面に設置します。どの歯に付けるかは症例によって異なります。必ず必要になります。歯に力を伝えて、その力が顎を大きくする働きになるように設計しています。治療終了と共に撤去します。ワイヤー矯正のブラケットに相当するもの、とお考えください。さほど目立ってないと思います。目立たずに治療できるのもマウスピース矯正の強みです。
治療開始8か月
乳歯の奥歯は永久歯よりも幅が大きいので、乳歯が早期に抜けない限り、永久歯の萌出するスペースが足らないことはありません。以前より更に乳歯の永久歯への交換が進んでいます。前歯が永久歯に交換して、それが綺麗に並んでいれば、顎が適切な大きさまで成長したということになります。ご本人、ご家族の取り組む姿勢、努力に感謝です!治療の目的はほぼ達成できたといえます。萌出途中の永久歯が完全に萌出してきたら保定装置と呼ばれる装置に切り替える予定です。すべての乳歯が永久歯に生え変わるまで経過観察していきます。
治療中に起こったトラブル
アタッチメントの脱落
子どもさんによくあるのですが、着脱の取り扱いが雑になって、アタッチメントが脱落することがあります。アタッチメントがないと歯に力を伝えられないので脱落した時には来院していただかなければなりません。医院で本人に着脱の方法はお伝えしますが、ご家族の方からも気を付けるようご指導ください。舌を動かして遊び感覚で外そう、なんてことも聞いたことがあります。原因が何かはわかりませんが、今回アタッチメントの脱落が1回ありました。
マウスピースの破損
今回の場合、治療初期の頃にマウスピースの破損がありました。元々上の2番目の前歯が内側に入っていることで下顎が前に動かしにくかったと思われます。マウスピースを装着することで噛み合わせの規制が無くなり、顎が自由に動かせることで特定の部位に力がかかった、ということだと考えました。前歯の歯並びの改善と共にそのようなことは無くなりました。矯正治療用のマウスピースは軟らかい素材で、噛みしめ用のマウスピースほど強度はありません。
マウスピースが破損した場合どうすればよいのか
マウスピースは5~7日毎に交換していきます。マウスピースが破損した、あるいは紛失した場合の対処です法についてお話します。マウスピースを交換して数日経っているようなら、次のマウスピースに交換します。特にお子さんの場合成長もありますから、適合が悪くなく、遵守事項を守っていただいていれば先に進みます。前に使っていたのに戻る必要ありません。交換してすぐだと困りますが、基本的に交換してすぐだと材料の劣化はないと思います。マウスピースの交換直後の取り外しの時の取り扱いにはくれぐれも気をつけてください。
治療の概要
治療内容
混合歯列期の永久歯が回転している歯(叢生状態)をマウスピースによる矯正治療で改善しました。治療を行ったことで永久歯に全て生え変わった時に、永久歯がきちんと並ぶだけの大きさに上下の顎を拡大することができました。
治療期間
約6か月間、15回(アライナー破損対応、アタッチメント脱落対応、乳歯の抜歯 の回数含む)
費用(自由診療になります。)
522,500円(税込)
診査・診断料、検査費、材料費、経過観察費用(今回は5回分)、保定装置費用、等含む
(原材料費の変更があったため現在の治療費用では 総額 税込577,500円になります。)
リスク・副作用
マウスピース矯正における注意事項(治療開始に先立ち同意書を記載していただきます。詳細を記述していますのでご確認ください。)を守っていただけない場合、歯列不正は改善しません。治療方法の特性上、ご本人とご家族の協力がないと十分な治療効果は得られません。また治療中、アタッチメントの脱落、マウスピースの咬合力による破損の可能性があります。その場合新たな装置ができるまで治療が進まないので、治療期間が延びます。