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上の前歯が少し捻って生えている歯の矯正治療
歯が回転していて歯並びがガタガタしている大人の症例をどう治していき、体にとっても身体の歪みも取れたかを解説していきます。患者様より承諾を得ています。
初診
49歳男性 正面から向かって正面の歯が回転しているのが気になるとのことでした。その隣の2番目の歯も少し内側に入っています。よく診ると下の前歯もガタガタしています。下の前歯はあまり気にならないとのことでした。正面から見ると下の前歯が半分以上隠れています。咬み合わせた時、下顎前歯のほとんど見えて先端が2㎜程度隠れるのが普通です。少し咬み込みがきついといえます。咬み込みがきついと良くないことが起こります。咬み込みがきついと、下顎が後ろに後退していき、気道が狭くなる傾向にあります。舌が奥にいき、気道を狭くします。気道が狭くなると呼吸しにくいので、気道を拡げるために下顎を前に出そうとします。でも下顎を前に出すと奥歯で噛めません。体の中のせめぎあいが噛みしめ、歯ぎしり、を引き起こします。それがきつくなるといびきを掻きます。睡眠時無呼吸症候群の原因となることもあります。
TCHサイン(Tooth Contact Habit)
咬み合わせの面からみてください。犬歯(真ん中から3番目の歯)の先端が着色しています。これは虫歯ではなく、歯の先端同士が削れて歯の一番外側のエナメル質が削れて、その中の象牙質が見えてきている尾です。真ん中の前歯4本もよく見ると削れているのがわかります。加齢と共に同じ硬さの歯を擦り合わせていますから、削れるのは当然と言えば当然です。人生100年を考えても少し早く削れているように思います。この部分を詰めれば良いのでは?と考えますが詰めても詰める部分がとても小さいので取れやすいです。もし詰めれたとしても、噛みしめや歯ぎしりの原因である下顎の後退にアプローチしなくては削れて行くことを止めれません。
噛みしめで歯が削れると何が良くないのか?
歯が削れると、噛み合わせの高さが低くなっていきます。噛み合わせの高さが低くなっていると、口角炎がよくできます。極端な例でいくと、総入れ歯を入れずに噛んでもらうと、クシャおじさんみたいになりますよね。咬み合わせが低くなると、より下顎が後退して顎の関節の後ろを通る、脳への血管を圧迫します。そのため脳への血流量も減ることになるので良い影響はありません。赤ちゃんも歯が生えていき、噛み合わせの高さが高くなっていきます。成長と共に噛み合わせの高さは高くなり、老化と共に噛み合わせの高さは低くなります。咬み合わせの高さを低くしない。元に戻す。それがアンチエイジングであり、そうするための治療法の一つが矯正治療なのです。
抜かずに治す
マウスピースを用いて、歯並びを治していくことに同意を得たので、治療を開始することになりました。歯は抜いていません。歯を並べるために、歯と歯の間を少し削っています。これをIPRといいます。麻酔はしていません。削るといっても一か所最大0.5㎜です。日本人の平均の幅、その方の同じ歯の左右差などから場所と幅を決めていきます。
治療開始5か月
歯並びはほぼ改善されました。少し残っているがたつきを調整していきます。それまで 回ご来院されています。歯の表面についているのはアタッチメントという材料です。ワイヤー矯正におけるブラケットに相当します。上の正面の前歯の回転が良くなってきたので、元々削れていた部分がはっきりしてきました。これも下顎が後退し、噛みしめなどしていた証左ですね。治療終了後に形態修正と修復を行います。よく見ると、下の前歯が半分以上見えてきています。下顎が前に戻ってきていることを表しています。とはいえ、きちんと奥歯も噛めています。事前の診断、治療計画で組み込んでいます。マウスピース矯正は装着することで咬み合わせが高くなり、下顎が自由に動き、体が楽な位置に動いてくれます。その位置で噛めるようになるのがベターだと考えています。ただ、すべてそうなる訳でもありません。顎の関節の状況、筋肉の動きなどから思うようにならないこともよくあることです。
9か月後
多少のがたつきは残っていますが、微調整に移ることにしました。まだマウスピースは装着していただくのですが、アタッチメントは除去しました。装着時間も少しずつ短くしていきます。前歯の噛み込みも随分改善され、下の前歯がしっかり見えるようになり、下顎が前方に戻ってきています。前歯をそれぞれ押し付けて、めり込ませる方向に矯正力をかけるようなことはしていません。もちろん奥歯もきちんと噛めています。
噛み合わせ以外によくなることが他にある。
上が初診時、下は9か月後のレントゲン写真です。前歯を見てもらうと、前歯の嚙み合わせが変わっているのがわかると思います。前歯の角度を変えたわけではありません。マウスピースをすることで下顎が自由に動いて、前に出てきています。下顎が前に出たからといって、口元が突出するようなことにはなっていません。下顎が前に出たことで気道が拡がっています。下顎が前に出たことで、舌も前に出ます。頸椎の湾曲も少し緩やかになっています。
顎が後退しているから、口元が出ているように見える
上顎の成長がきちんと出来ていない、劣成長である方が非常に多くなっています。下顎はその内側にありますから、必然的に下顎も劣成長になります。近年増えている、口元を下げたい、という思いを持つ方の大半は相対的に上顎が出ているように見えるからだと思います。この方たちの治療は、診断してからになりますが、上顎を大きくして、それに合わせて下顎を前方に戻していくことになります。今回ご提示した症例のように、下顎を前に戻ったとしても口元が大きく突出するというようなことはありません。むしろ体のバランスがよくなります。
微調整の間にマウスピースを利用してホワイトニング
この方はホワイトニングの治療も希望されていました。アタッチメントを外し、微調整の段階でオフィスホワイトニングとホームホワイトニングの両方を行うデュアルホワイトニングを行いました。当院では極端な白さではなく、自然な白さが良いと考えています。とても色が気になるのなら何度もデュアルホワイトニングをしていくことになりますが、知覚過敏などの副作用も起こりやすくなるかもしれません。この方はこれで満足です、とのことで6週間のホームホワイトニングを行い、月一回のホームホワイトニングを行ってもらって色落ち対策するようにしていただいています。
概要
治療内容
1.マウスピースを用いた矯正治療で前歯の回転を伴う叢生状態の改善を行っています。
2.ホワイトニング治療
期間・治療回数
1.約11カ月 10回 (現在保定中 保定期間は約2年をみています。)
2.約2か月 2回
費用
1. 841,500円(税込)
2. 33,000円(税込)
検査費、診査診断料、材料費、来院毎の経過観察費、保定装置費
(矯正治療は現在の費用に換算すると896,500円)
副作用・リスク
1.歯を並べるためのスペース確保のために、歯と歯の間を1か所あたり最大0.5㎜ 5か所削合しています。(補綴修復物の削合を含む)22時間以上の装着時間の遵守、その他治療上のルールを守っていただかないと、治療効果を得ることができません。
2.オフィスホワイトニング、デュアルホワイトニング共に治療時に知覚過敏の起こる可能性があります。ホームホワイトニングは一日2時間以上薬剤を適量マウスピースに塗布した状態で装着していただかないと、効果がでません。ただし知覚過敏症状が出た場合使用を中止し、歯科医師に指示をうかがってください。