インビザラインファーストとは
永久歯と乳歯の混在している時期に行う小児期の矯正治療の一つです。
大人のマウスピース矯正と同じなのですが目的は永久歯が全てきちんと並ぶように顎を大きくすることが第一、二番目ができるだけ歯を綺麗に並べることになります
他の装置とは違う作用機序
小児期の治療には他に小児矯正のページにあるT4K、プレオルソ、ムーシールドがあります。
それらは日中の1~2時間と夜間に使用していただくもので、大きな上下の顎の関係を是正するために用います。受け口、出っ歯(噛んだ時に下の前歯が上の前歯にほとんど隠れてしまうような噛み合わせ)、僅かな歯のガタガタに用います。鼻呼吸を獲得するというもう一つの大きな目的もあります。
T4Kなどの装置は一つ一つの歯に直接矯正力をかけられないので、きれいに歯が並ぶところまではいかないことの方が多いです。治療は3歳から開始できます。子供さんがきちんとお口の中に装置を入れられるかどうかという問題がありますから開始時期は1人1人違います。
子供の歯並びを見た時に、隙間はありますか?
基本的に乳歯列は前歯にたくさんの隙間がないといけません(上で7㎜、下で5㎜)。また噛み合わせは上下の前歯の先同士がぴったり合うか、少し上が前にあるのが普通です。乳歯列のうちから歯並びが悪いと顎が小さいことを示しています。
大きくなり大人の歯になったら、きれいに並ぶだろうと思っていませんか?並ばないことの方が圧倒的に多いです。歯並びの悪さは見た目の問題だけでなく、虫歯や歯周病のリスクが高くなるだけでなく、呼吸のしにくさ、姿勢の悪さにまで影響がでてきます。
開始時期は
年齢というよりは上下それぞれ前歯4本と6歳臼歯が全て生えてからが治療を開始する時期になります。歯に密着させるタイプのマウスピースを食事や歯磨きなど以外の時はずっと装着します。歯に直接矯正力を加えることができます。上顎の成長のピークは10歳ですのでそれまでに取り組みましょう。
成長する時期にインビザラインファーストの矯正力を活かして、小さな顎を正しい大きさにすることができます。顎を正しい大きさにすることで永久歯がすべてきちんときれい並ぶスペースを確保することを目的とした治療。それがインビザラインファーストの治療です。
治療期間
治療期間はMAX1年半です。永久歯がきちんと並ぶだけのスペースが確保できればそこで治療としては終了となります。
少し上の前歯が出た状態で終わります。理由は下顎の成長は10歳くらいから15~18歳まで続くからです。上下の前歯をぴっちりしてフィニッシュして、後から下顎が前に成長してしまうと、受け口になる可能性があるからです。ですから経過観察は永久歯にすべて生え変わるまで数カ月に一度続けます。
受け口の場合、受け口を治しても後から成長してしまうのなら成長が終わってから治療すればいいのではないかと思われるかもしれません。日本人の受け口は大抵が上顎の劣成長が原因です。(下顎は普通)上顎の成長率は10歳でピークを迎えます。その時期に治療して上顎を普通の大きさにしておけば、もし下顎が後から成長しても上顎の治療をしなくて済むからです。
下顎の前方への成長が良くない場合、すべて永久歯に生え変わってから前後的な修正が必要になることもあります。これがⅡ期治療(フェイズ2)です。1期治療のインビザラインファーストだけで済めばよいのですが、成長は誰にも予測はつきません。追加治療があるかもしれないとをご承知おきください。
インビザラインファースト治療を行うメリット
永久歯にすべて生え変わってから歯のガタガタを並べるのは大変です。顎の大きさが、歯が全部並ぶだけの大きさになっていないのでガタガタになっています。ですから綺麗に歯を並べようとすると歯を何本か抜歯してスペースを確保するか、抜歯を避けるには顎を拡げてスペースを確保しなければなりません。顎を拡げるのは上顎しか出来ませんし、骨の状態によってはできないこともあります。(ちょっとした手術が必要になります。)
成長がある時期なら、インビザラインファーストを用いれば顎を大きくすることは比較的短期間に大きな侵襲を身体にかけずにできます。乳歯の歯並びがよくない子供たちはこの時期を逃さないようにしてください。きちんと装着時間などのコンプライアンスを守っていただくことが条件になります。歯を抜かずに綺麗に歯を並べたいですよね。
時期を逃しての矯正治療を行うデメリット
インビザラインファーストの適応期間を過ぎて、大人になって抜歯をせずに歯のガタガタを治すには、MSEという治療を行います。上顎に顎を左右に拡げる装置を小さなインプラント4本で固定します。真ん中のネジを自身で一日数回、回します。歯を抜かずに歯を並べるスペースを、顎を拡げて作ります。2か月後には歯が並ぶスペースが出来ます。
ティーンの期間であれば(高校生までなら)このような装置を使わなくても何とかなる可能性がまだ少しあります。
2か月後
あるいは歯を抜いて、歯を並べるスペースを作るかのどちらかになります。
成長期には抜歯したくありませんし、抜歯せずに顎を大きくできます。せめてティーンのうちには治療にとりくんでください。大人になると選択肢はありません。(日本人の女の子の成長は15歳で終わることが多いです。)
インビザラインファースト治療の注意点
・治療中に永久歯に生え変わるために乳歯がぐらぐらしてきます。そうするとマウスピースの取り外しに痛みがでてくることがあります。
・歯が生え変わるとマウスピースの形が変わるので、それにあわせて作り直す機会が増える。
・噛みしめきつくて壊れたり、失くしたりする可能性が高い。
・永久歯が生え揃うまで、保定装置を装着し経過観察を続ける必要がある
などから、こまめに来院いただくことになるかもしれません。
また、遺伝的な受け口はマウスピース矯正では難しいです。
子供への見えない、一生にわたるプレゼント
歯を並べるだけでなく、顎が大きくなる、というか本来の大きさに戻すことで呼吸しやすい環境が整います。呼吸が正しくできると脳への酸素の供給が増えます。また脳の活動で産生される熱を鼻から取り入れる空気で冷やすことで、脳の活動をより活発化されると言われています。
成長期に成長を阻害する、内外的な力を取り除いておくことが人生100年時代の健康維持のために大きな力になります。15~16歳までの柔軟な時期までに確立する。口腔機能、姿勢、形態を整えましょう。
側弯、猫背になっているのは、その姿勢が呼吸していくのに身体が楽だからその姿勢になっているのです。
噛み合わせに問題のあることが多く、若年のうちに顎を適正に大きくし、正しい噛み合わせを獲得することで改善することが見込めます。
顎が大きくなれなかった原因は哺乳や離乳食、口呼吸の問題があったからなのですが、その時期に戻ってやり直すことはできません。少しでも親として子供のもつ脳の能力を最大に発揮できるよう顎を元の大きさにして、また適切な成長ができる環境を整えてあげることを考えてみてはいかがでしょうか。成長の時期は限られています。“もう少し様子をみてから”と思っているうちに時間はあっという間に過ぎていきます。躊躇していると時期を逸してしまい、成長は終ってしまうのです。適応能力の高い若年者のうちに不正咬合を治しておきましょう。100年を生きていくのに、スタートで躓かないよう導いてあげることが保護者には求められるのではないでしょうか。
“あの時治療しとけばよかった”と後悔だけはないように。