かみ合わせが逆になっている気がする

保護者の方からよく寄せられるお子さまのお口の悩みの一つが、反対咬合(はんたいこうごう)、いわゆる「受け口」です。反対咬合に気づいたとき、多くの親御さまはもう少し大きくなるまで様子を見よう、と思われるかもしれません。結論から申し上げますと、反対咬合が見られた幼児期のお子さまには、できる限り早い段階でのアプローチをおすすめしています。
反対咬合(受け口)を早期に改善しなければならない理由
なぜ、反対咬合は経過観察をするのではなく早めの改善が望まれるのでしょうか。その最大の理由は、上顎と下顎の成長時期とピークに大きな差があるからです。人体のお顔や頭の骨の成長は、身体の他の部分とは異なるパターンをたどります。医学分野で用いられるスキャモンの発達曲線によると、頭部や脳、そして上顎の発達は神経系の成長パターンに近く、非常に早い時期にピークを迎えます。
上顎は10歳が成長のピーク

具体的には、上顎の成長は5〜6歳頃までに大部分(全体の約80%)が完了し、10歳前後でほぼ成長を終えます。一方で、下顎(下のあご)の成長は「一般型(身長の伸びなど)」のパターンをたどります。つまり、小学生後半から中学生・高校生(思春期)にかけて、身長がぐんぐん伸びる時期と重なるように大きく成長するのです。本来であれば、幼少期に上顎が十分に前方向へ大きく広がり、その後から成長してくる下顎を受け止める土台を作り上げます。しかし、幼少期に反対咬合のままでいるとどうなるでしょうか。
下顎の歯によって上顎の成長がブロックされる

上の前歯が下の前歯の後ろに閉じ込められた状態になると、上顎が前に育とうとする自然な成長がブロックされてしまいます。噛み合わせの位置が逆になっているため、噛むたびに下顎が前方へ滑りやすくなり、本来以上に下顎の成長が促進されてしまう危険性があります。上顎の成長期が終わってしまい、下顎の成長(思春期)を迎えてしまうと、上下の顎の骨格的なギャップが更に大きくなります。その結果、大人になってから歯の矯正だけで治すことが難しくなり、将来的に顎の外科手術が必要になるケースになる可能性が高まります。ですから、上顎の成長ピークが過ぎる前に反対咬合を解除し、上顎が正しく成長できる環境を整えてあげることが極めて重要です。
機能的矯正装置とは?

幼児期の反対咬合治療において、世界中で広く使われている代表的な装置が機能的矯正装置(マウスピース型装置)です。これらは一般的なワイヤーを用いた矯正装置とは大きくコンセプトが異なります。今、主流になりつつあるインビザラインのようなマウスピース矯正とも少し異なります。こちらのマウスピースは数日ごとに交換していきますが、機能的矯正装置は交換しません。1つの装置です。歯に強い力をかけて無理やり引っ張るのではなく、口のまわりの筋肉のバランスや舌の位置を正しく整えることで、お子さまが本来持っている正しい成長力を引き出す装置です。
装置の仕組みと効果
反対咬合のお子さんの口の中では、主に次のような筋肉と舌の問題が起きていると考えています。
・上の前歯が唇に強く押され、内側に倒れ込んでしまっている。
・本来は上あごの天井にくっついているべき舌が、持ち上がらず下に落ちてしまっており、内側から上の歯を前や側方に押すことができていない。
この2つの問題を機能的矯正装置を装着することで改善するものです。
唇の圧力を遮断する
装置の一部が唇と歯の間に介在するので、上の前歯がくちびるの力で内側に押されないようにブロックしてくれます。
舌を適切な位置へ導く
装置内部の構造によって、下がっている舌を持ち上げ、上顎の内側の正しいポジション(スポット位置)へと自然に誘導されます。強引に押し出すのではなく「舌を適切な位置に置くことで、舌が内側から前方向、側方へ自然な押し出す力を与え、歯や上顎が本来あるべき位置へと戻っていくのです。
正しい舌の位置を覚えると同時に鼻呼吸を獲得しなければならない理由

機能的矯正装置の目的は、単に歯並びを整えることだけではありません。正しい舌の位置を覚えると同時に、鼻呼吸を獲得することが、治療の目的ともなっています。
なぜ鼻呼吸でなければならないのでしょうか。
お口で息をする口呼吸のお子さまが増えています。いわゆる口ポカンです。口呼吸は歯並びや全身の健康にさまざまな悪影響を及ぼします。
自浄作用低下と感染症リスク
鼻は天然の空気清浄機兼加湿器です。鼻毛や粘膜のフィルターを通すことで、空気中のウイルスや細菌、ダニ・ホコリをろ過し、湿度を加えた状態で肺に届けます。しかし口呼吸では、冷たく乾燥した雑菌だらけの空気がお口を通って直接のどや肺に直接入ってしまいます。また、お口の中が常に乾燥するため、唾液による自浄作用が失われます。その結果、むし歯や歯肉炎になりやすくなるだけでなく、風邪、インフルエンザ、アレルギー性疾患にかかりやすくなります。
口呼吸がもたらす低位舌

口で呼吸をするためには、気道を確保するために舌を下げなければなりません。つまり、口呼吸=低位舌という状態がセットになってしまうのです。舌が下に落ちると、上顎を内側から拡げる力がゼロになります。すると上顎は内側から成長を促されず、狭いままで成長がストップします。下顎は逆に舌で前に押されるので下顎ばかりが前への推進力を得て、前に出てしまいます。仮に矯正装置で一時的に反対咬合を改善したとしても、口呼吸の癖が残ったままだと舌の位置が再び下がってしまい、成長期に反対咬合へと後戻りしてしまいます。
何歳から始められる?
反対咬合は早く治した方がいいとお伝えしましたが、では何歳何ヶ月になったらすぐ装置を入れるべきかというと、決まった月齢はありません。
一応の開始目安は4歳前後
当院では、治療開始の目安を4歳前後と考えています。ただし、一律に決まるものではなく、お子さま一人ひとりの成長度合いや発達の状況によって決まります。機能的矯正装置は固定式のワイヤー矯正とは異なり、ご自分で取り外しをする装置です。そのため、お子さま自身が正しく口の中に入れ続けられることが絶対の条件となります。
効果を得るために必要な装着時間

・就寝中の全時間
・起きている間の2時間
ただお口の中に装置を入れているだけでは効果は出ません。装置を入れた状態で、舌を少し持ち上げて、装置を下からしっかり押し抑えるように保持するという動作がお子さま自身でできなければならないのです。もし舌で抑えらなかったり、すぐに口から出してしまったり、嫌がって出してしまう場合は、十分な効果を得ることができません。
まずは入れられるかどうかの確認から
当院では、診察室でいきなり装置を渡して治療を開始するようなことはいたしません。まず口腔内に装置を入れられるか、舌でしっかり抑えて保持できるかといった適応性をしっかり確認します。もし現時点で入れるのが難しい、あるいは嫌がってしまうようであれば、焦らず時期を待つ選択をします。その後、2〜3か月ほど期間を空けてから再度ご来院いただき、お子さまの発達や再度装着できるかの確認をします。子どもは数か月で驚くほど精神的、身体的に成長します。数か月前は無理だったけれど、しばらくしたら入れられるようになったというケースは非常に多くあります。無理強いをして歯科医院や装置に恐怖心を抱かせてしまうことこそ避けるべきです。
効果が出るまでの期間

指示された装着時間(就寝時間+日中2時間)をしっかりと守っていただければ、効果の目安としては約半年(6か月)ほどで反対咬合の改善という結果が出てきます。お子さまの順応力は非常に高いため、毎日決まった時間にしっかりと装置を保持できていれば、比較的早期に大きな変化を実感していただけることが多いです。
なかなか結果が出ない場合に考えられる原因
もし、指示通りの装着時間をしっかり守っているにもかかわらず、半年を過ぎても効果が現れない、改善が見られない場合、いくつかの理由が考えられます。
正しく装着できていない、装着時間が足りていない
口に入れているだけで、舌で押さえられていない、寝ている間に外れてしまっている、指示された時間を満たせていない、といった場合、十分な機能的効果が得られなくなってしまいます。
遺伝的な骨格の問題

ご家族(ご両親や祖父母)の中にお一人でも受け口の方がいらっしゃると、遺伝的な要因が影響しているかもしれません。骨格性の反対咬合では、マウスピース型の機能的矯正装置だけでは対応しきれず、成長を待って本格的な矯正アプローチが必要になることがあります。
どうしても装着が難しい場合は?
もしお子さまが嫌がってしまい、どうしても指示された時間装着することができない場合は、無理に治療を進める必要はありません。もう少し大きくなって、自分で装置の必要性を理解して入れられるようになってから再スタートしましょう。無理やり着けさせて装置や歯磨き自体を嫌いになってしまうことの方が、将来的なリスクになります。お子さまの成長のペースにあわせることが大切です。
ご家庭での装置のお手入れ
毎日お口に入れるものですから、衛生面の管理も気になるところです。お子さま自身で管理するのはまだ難しい年齢ですので、装置の管理や洗浄は必ず保護者の方が責任を持って行ってあげてください。
日常のお手入れは水洗いで十分です

日々のお手入れの基本はとてもシンプルです。お口から外した後は、水道水でしっかりと水洗いしてください。熱湯をかけたり煮沸消毒をしたりすると、プラスチックやシリコン製の装置が変形してしまうため、絶対に熱湯は使用しないでください。また、歯磨き粉をつけてゴシゴシ磨くと磨き傷がつき、そこに雑菌が繁殖しやすくなるため、基本は水洗いが原則です。
臭いや汚れが気になるときは?
もし使っていくうちに唾液の臭いが気になる、汚れがスッキリ落ちないと感じられた場合は、市販の哺乳瓶消毒液を活用するのがおすすめです。哺乳瓶消毒液にお口の装置を浸けておくだけで、デリケートな素材を傷めることなく、清潔に保つことができます。市販のマウスピース洗浄剤を使用するのもよいでしょう。水洗いと哺乳瓶洗浄液を上手に組み合わせて、常に衛生的な状態でご使用いただくようお願致します。
まとめ

子どもの成長はあっという間です。特に上顎の成長期という一生に一度きりの貴重なチャンス(幼少期)に、正しい口腔機能と骨格のバランスを整えてあげることは、お子さんの財産となります。人間の体には、本来正しく噛み、正しく飲み込み、正しい位置に舌があり、鼻で呼吸をするという生体機能が備わっています。しかし、癖や姿勢、環境などの影響でその機能が獲得できなかった結果として反対咬合という形態の乱れが現れているのです。反対咬合(受け口)は、自然に治るだろうと様子を見過ごしてしまうと、成長とともに骨格的なギャップが広がる可能性があります。もしかして受け口かな?何歳から相談したらいいのかな?とお悩みの方はご相談ください。



