上顎の劣成長が不正咬合の始まり
成長期において受け口、出っ歯、歯並びガタガタの原因は、先天的なことを除けばほぼすべて上顎の劣成長と言えます。上顎は下顎よりも先に成長し、先に成長が終わります。後から下顎が成長していきます。上顎は下顎よりも少し大きいです。顎が小さいと歯が並ばないのはわかると思います。上顎が小さくて下顎が普通だと、相対的に下顎が前に出てしまうので受け口になります。上顎が小さいと、下顎が前に成長しようと思っても上顎にブロックされて前に出れません。そうなると相対的に出っ歯になります。
成長期は上顎を正しく大きくしなければならない
上顎を成長期に正しく大きくしておかないと歯並びだけでなく、呼吸や姿勢に大きな問題を引き起こすことになります。上顎の上には鼻があります。上顎が大きくならないと鼻(の中)も大きくならないです。鼻の中は空気が通りますが、通り道が狭いと口呼吸になります。口呼吸になると呼吸しやすくするために猫背になります。鼻呼吸することで鼻の上にある脳を冷却する側面があります。脳を働かせると熱を産生します。パソコンもいっぱい使うと熱を産生しますが、オーバーヒートさせないために冷却しますよね。人も同じで脳の機能を最大限に働かせるためにも鼻呼吸できなければなりません。口呼吸は鼻の濾過機能がないので感染しやすくなります。
子どものうちは比較的大きな負荷をかけず上顎を大きくすることができます。
皆さんお分かりのように子供の骨は大きくなりますがしなやかです。大人は重症でもこどもは軽傷で済んでいるニュースを見ることもありますよね。上顎の骨は元から一つの骨ではなく、幾つかのパーツに分かれていて成長と共にひとつになっていきます。男性は18歳から20歳、女性は15,16歳でほぼ成長が終わります。終わると共にパーツの継ぎ目が骨化して跡形が消えていきます。上顎だけに限ったことではありません。上顎はその継ぎ目が大きくは5つあります。
解剖や組織を理解して治療に活かす

継ぎ目のことを縫合と言います。上顎には5つの縫合があります。
正中口蓋縫合
左右を繋ぎ合わせる縫合です。上顎の前歯の後ろあたりからのどちんこの前あたりまでです。
切歯縫合
イメージとして左右の犬歯を繋ぐ線の前と後ろに分かれている部分を繋ぎます。
横口蓋縫合
6歳臼歯の後ろ側を左右につなぐ線をイメージしてもらい、前と後ろに分かれているのを繋ぎます。正中口蓋縫合より閉じるのは遅いですが、成人ではかなり硬くなっています。
翼口蓋縫合
横口蓋縫合の更に後ろに平行して前と後ろを繋ぐ縫合です。
その他に頬骨上顎縫合があります。これらの縫合が完全に癒合する前に力を加えて拡げるると骨を大きくすることができます。開いた部分は少しづつ骨で満たされていきます。切歯縫合は永久歯の犬歯が萌出する直前、およそ10歳前後で閉じ始めます。正中口蓋縫合は15〜18歳頃に癒合していきます。横口蓋縫合は思春期から成長が終わる時期まで。翼口蓋縫合も同じような時期に癒合します。
縫合が癒合しそうな時期に差し掛かったらどうするか
上顎が劣成長と診断できればすぐに治療に取り掛かりましょう。癒合する前であれば小児期は拡大がしやすいからです。簡単なことではありませんが、成長が終わってから治療するよりは負担がかなり少ないです。時期を過ぎてしまっても、全くできないということはありません。少し大変なのですが、その方法についてお話していきます。
MSE(Maxillary Skeletal Expander)

歯を動かすのではなく、上顎の正中口蓋縫合を左右真っ二つに拡げる装置です。MSEは上顎の骨に直接小さなインプラントで固定します。真ん中に小さな穴が開いていてそこに専用のキーを入れて回します。回すことで左右に力を骨に伝えて左右に拡げます。局所麻酔を使用するため、処置中の痛みはほとんどありません。確実に、効率的に上顎の骨を広げることができる画期的な手法です。拡大が進むと、前歯の真ん中に隙間(正中離開)ができます。これは骨がしっかり広がっている証拠であり、その後矯正治療で隙間を閉じていきます。必要な拡大量は事前にシュミレーションし理想的な横幅に顎を大きくします。
非抜歯で矯正できる可能性がかなり高くなります

骨のベースが広がることで、歯を並べるスペースが劇的に増えます。これにより、健康な歯を抜かずに済む確率が高まります。先程述べたように上顎の骨は鼻腔の底でもあるため、ここを広げることで鼻呼吸がしやすくなる、いびきが改善するといったメリットが得られることもあります。
リスク
上顎に固定されるので、装着直後は発音しにくかったり食べ物が飲み込みにくかったりしますが、1〜2週間で慣れる方がほとんどです。装置と上顎の間に食べカスが詰まりやすいため、ウォーターピックや細いブラシでの洗浄が必須です。不衛生にすると、歯肉が腫れることがあります。
顎外牽引装置(フェイスマスク)

上顎の劣成長がきつくて成長が終わりかけの頃になると、上顎を拡大するためにアプローチできるのは後ろにある横口蓋縫合になります。口の中だけでは難しく口の外、つまり頭や首を固定源にして前への大きな力を加えます。歯かマウスピースに付けた小さな装置と顎外牽引装置に付いたフックをゴムで繋ぎます。装置外す時はゴムを取ります。ゴムは使い捨てです。イメージ湧きにくいと思いますのでイラストを参照してください。上顎骨を前に引っ張って縫合を開いていきます。出っ歯にならないかという心配もあるかもしれません。元々劣成長ですし、顔貌が大きく変わることはありません。
使用上の注意点
この装置は患者さんの協力度が治療結果を左右します。一般的に1日12〜14時間以上の装着が推奨されます。主に在宅時や就寝中に使用します。装着し始めは奥歯が浮くような痛みを感じることがありますが、数日で慣れることがほとんどです。装置が目立つため最初は抵抗があるかもしれませんが、基本的に就寝時間を含め在宅時にしっかり使うことで、上顎骨を拡大します。早く使用しなくて済むようにコンプライアンスは守りましょう。
子どもの内ならマウスピースのたわみで顎を拡げられる

マウスピース矯正においてTPA、トランス・パラタル・アーチという装置があります。マウスピース矯正はマウスピースの弾力で歯を動かしますが、TPAを併用することで内側から外側に向かって顎を拡げる力を加えることができます。歯をガッチリ固定して外側に力を加えるのと、上あごの内側から突っ張り棒を入れて拡げる、2つの力で顎を拡げることができます。Wエンジンです。マウスピースの歯を押し出す力、奥歯を根元から平行に動かす力、です。治療の全期間ではなく、必要な期間だけ使います。上あごの天井にあるため、外からは見えません。マウスピースと一体になっています。
セルフケアが必要
マウスピース矯正にTPAが加わると、着脱の難易度が上がります。マウスピースを外す際は慎重に行う必要があります。 マウスピースが上あごあるため、最初は「サ行」や「タ行」が言いにくくなることがあります。でも子供はすぐ慣れます。
まとめ
大きなくくりで言えば小さい時期に不正咬合、出っ歯、受け口、ガタガタ、過蓋咬合などがあれば10歳までに不正咬合の原因である上顎劣成長に取り組む治療を始めましょう。成長期であれば大人よりも改善しやすいです。成長が終わる思春期ではなく、もっと早い時期の取り組むと身体への負担も少なく、健康を取り戻しやすくなります。外科的な処置も、ちょっと見栄えの良くない治療も、誰も望んではいないと思います。



