顎がカクカクしたり、コキッと鳴るのは、多くの場合、顎の関節内で関節円板がずれて動いていることが原因です。
顎関節のしくみ

顎関節は、下顎の骨とこめかみの骨が接している関節で、その間には関節円板という軟骨のようなクッションが入っています。関節は直接骨同士接している訳ではなく、骨と骨の間に軟らかい組織が挟まっていることで関節がスムーズに動きます。顎の関節は関節円板があるおかげで口がスムーズに開閉できます。
音が鳴る主な原因

本来、あごの動きに合わせて円板も一緒に動くのですが、いろいろな理由で関節円板が定位置(骨と骨の間)からズレることがあります。口の開けると関節円板が骨と骨の間に戻り、閉じると関節円板が前方にズレます。これを関節円板の前方転位と言います。その場合、口を開けて関節円板が定位置に戻った時と口を閉じた時に関節円板が前方にズレた時にカクっと音がします。このパターンが一番多いです。
関節円板が定位置に戻れなくなることもある。
カクっと音が鳴るということは、ある条件だと定位置に戻ります。これを復位性の関節円板前方転位と言います。長期間ズレた状態が続くと、関節部分に炎症を起こしたりします。そうすると関節円板が変形したり、動きが悪くなったりして定位置に戻れなくなります。そうすると音が鳴らなくなります。これは非復位性の関節円板前方転位と呼ばれます。口が開けづらくなったり痛みを感じやすくなったりしますが、復位性であっても程度の差はあれ、あります。
関節円板がズレる原因
片側噛み(左右どちらか一方で噛む癖)
片噛みを続けると片側の噛む筋肉(咬筋や側頭筋)が過剰に発達し、反対側の筋肉が弱まる。その結果顎関節が片方だけ圧迫され、関節円板が片側だけズレることがあります。顔に歪みが出たり、左右の肩の高さの違い、クリック音の左右差などが見られることもあります。抜歯されてそのままにしていると歯の残っている方で主に噛む癖がつきます。
食いしばりや歯ぎしり(日中の無意識な食いしばりも含みます)

こちらが口腔内に噛みしめ癖(歯ぎしりや食いしばり)のサインがあるので、指摘しても大抵は否定なさる方が多いです。無意識であるからでしょうけれど。常に顎関節が圧迫されるため、関節円板が前に押し出されていくのです。噛む時に使う筋肉が慢性的に収縮して硬くなり、さらに関節の動きを制限してしまいます。朝のこわばりや顎の疲れ感がある場合は、夜間に噛みしめや歯ぎしりをしている可能性が高いです。日中でも作業や仕事をしている時に無意識に噛み締めている方もあります。口は閉じていても噛み合わさっていないのが普通の状態です。顎関節に違和感のある方は意識できる日中噛み締めていることがないかチェックしてみてください。
骨盤の傾きや足の使い方の癖
骨盤が前傾や後傾していたり、片足重心、外反母趾などがあると、体幹の左右バランスが崩れ、首や顎の位置も身体は知らないうちにズレていきます。そうすると顎の関節の運動軸が変化し、関節円板に不均等な負荷がかかってズレやすくなる、ということも起こり得ます。足を組む癖のある方も骨盤にズレが起きていることが多いです。
うつ伏せ寝や頬杖などの日常の癖

長時間下顎に力のかかる姿勢が続くと、顎がその方向にズレて顎の関節もズレます。両側の頬杖やうつぶせ寝は、下顎頭を後上方に押し込み、関節円板を前に押し出す力が慢性的にかかるのです。片側の頬杖や横向き寝でも横方向に力がかかるので関節円板は斜め前方向(内側、外側方向にも)に押し出される原因になります。この他にも様々な日常の癖があります。下顎に不要な力をかけないようにしましょう。無くて七癖、自分では気づきにくいので家族に指摘してもらうとよいでしょう。
硬いものが好き
硬いものが好きな方もよくいらっしゃいます。そういう場合も過剰に噛む筋肉を使いますから顎関節から関節円板を前方にズラすことになります。いきなり止めることも出来ないでしょうけれど、関節に悪影響を及ぼすことも頭の片隅に入れておいてください。
咬み合わせが低い
咬み合わせが低いとは、歯がすり減ったり、被せ物や義歯の高さが低くなったりして上下の歯の間隔、専門用語で咬合高径と言うのですが、減少している状態を指します。歯ぎしりで全体の歯がすり減ったり、奥歯を失ってそのままにしていても咬合高径は低くなります。成長期に上顎がきちんと成長できていないと下顎が前方に成長できず後方に押しやられることで咬合高径が低くなることもよく見られます。
低い咬合が顎関節に与える影響

下顎が後方(後上方)へ押し込まれる
咬合が低くなると、口を閉じたときの下顎の位置が後上方にずれます。顎関節の下顎頭と呼ばれる部分が関節の奥に押し込まれてしまいます。その結果、関節円板が前方に押し出されてしまいます。咬合高径が低いと、咬筋、側頭筋、内側翼突筋という噛む時に使う筋肉などが普通よりも短かく働くことになります。その状態が続くと、これらの筋が常に関節を後方に引っ張る力として強く働きます。結果的に、関節円板が前にズレた関係が固定化する恐れがあります。
歯科的な対応

先程述べたように食いしばりや歯ぎしりは口の中にその兆候が見えますから指摘されたら素直に受け入れましょう。昼間は歯を離す意識をもっていただき、夜間は歯ぎしり用のマウスピースを使うなどして歯同士を当てないようにしてください。自分の持っている癖に気づき、頬杖を止める、寝方に気を付ける、硬い嗜好品を止めるなどしてください。身体全体の姿勢の改善、顎の周辺のストレッチも、必要に応じて行います。咬合器や顔貌写真、レントゲン、などから咬合高径が下がっているかなど下顎位を含めた診断を行い、補綴(被せ物)矯正治療などで咬み合わせの再構成を行うことになります。
関節円板はレントゲンに映らない
関節円板が軟骨性の組織でできているのでレントゲンに映りません。カルシウムを多く含む骨は、X線を強く吸収するので白く映ります。空気や脂肪、筋肉などの軟部組織はX線をあまり吸収しませんから黒っぽく映ります。レントゲンはX線がどのくらい通るかの差で画像を作っています。関節円板は水分やコラーゲンが主成分でカルシウムなどのミネラルはほとんど含まれていません。ですから、X線がほぼ通過してしまい、骨のように映りません。関節円板がどうなっているかは解剖学、症状などから推察しています。関節円板を画像として見ようとするには実はMRI(磁気共鳴画像)しかありません。
MRIは、顎関節の状態を最も正確に把握できる検査方法です。
MRIはレントゲンと逆に水分の多いところが明るく写ります。骨は逆に黒く写ります。口を開けた時と閉めた時で撮影し比較します。関節円板の形は正常なのか変形しているのか。開けても閉じても正常な位置にあるのか、前方転位や側方転位などしているのか。関節円板の位置に問題があって、口を開閉口した時に関節円板の位置が復位するのか復位しないのか。などがわかります。炎症や滑膜炎があると液体貯留が増えるのですが、それも可視化されます。
MRIですべてがわかるわけではありません。
顎関節の動きを完全に再現できるわけではなくあくまでも静止画像での開閉口比較となります。CTは個人の診療所に導入されてきていますがMRIはそうではありません。病院などで撮影する必要があります。顎関節症は画像所見と臨床症状を総合して判断していくのですが、より詳細な状態を知るためMRIが普及することは患者さんにとって大きな福音です。



