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せっかく予約を入れたのに泣いただけで診てくれないの?

時間を割いて子供を連れて行ったんだから、ちょっと泣いたくらいなら抑えつけてでも診て欲しい、と思われる親御さんは多いと思います。一回こっきりでもう二度と歯科医院に行くことがないのであればそれもいいかもしれません。その自信は親御さんにおありでしょうか?虫歯だけでなく、歯並びや咬み合わせに問題は起こらないと確信はおありでしょうか?また泣き叫んだり、顔を左右に振ったりしている状態で診査できるでしょうか?顔を固定して口を開けさせることはできるでしょうか?
それは子どもの心の安全を考えるから

今すぐやってしまえば早いと、思われるでしょうが、生涯にわたってお口の健康を維持するのに無理なやりようはトラウマになると私は考えています。ですから私は、泣いても押さえてでも、ということはしません。一人で診療台に座れないお子様は治療しません。強い恐怖や痛みの記憶は、歯科恐怖の固定化につながり、将来の通院回避・口腔悪化の悪循環を生みます。治療の精度や予防行動の形成も阻害してしまいます。身体抑制は、笑気ガスの使用、鎮静法、全身麻酔の使用までは行かないが、緊急性の高い場合のみ検討します。しかし私は先に述べたことから抑制は行いません。緊急性が高くて、抑制治療が必要な場合は小児歯科認定医の受診をお勧めします。
抑制治療が良くないと考える理由
抑制治療は子どもに、自分の意思や身体がコントロールできない経験を与え、恐怖や不信感を残します。自己防衛的な記憶として残りやすく、将来的に通院拒否や極度の歯科不安につながる研究的な報告が複数あります。一時的に処置したとしても子どもの協力度はむしろ悪化し、将来にわたる口腔健康管理が困難になり良好な長期結果は得にくいでしょう。窒息、外傷、筋骨格系の損傷といった直接的な危険も考えられます。安全な診療に行うには、受診前にご家庭での言い聞かせが必要です。身体の自由を制限する行為は重大な介入であり、親の同意だけで自明に行ってよいものではありません。
すぐ診療しなければならないのはどんな時か

・歯の自発痛(ズキズキ感)虫歯が神経まで進行していたり、膿が溜まっているかもしれません。
・歯ぐきの腫れ、顔の腫れ、発熱、飲食や睡眠が取れない
・こけて歯をぶつけたり、そのせいでぐらついたり、欠けたり、歯が抜けたなど
これらの症状がある時は子ども本人に痛みや腫れなどの症状があるので、比較的治療を受け入れやすく、スムースに診療できます。
発達年齢と治療の目安
0〜2歳(乳歯萌出直後〜2歳頃)

多くの子は診療チェアに1人で座れず、口を開けて治療はほぼできません。基本方針としてはできる範囲でのフッ化物塗布と生活習慣の指導。お母さんへの指導が主となります。もしむし歯があっても 小さい・痛みがない場合は経過観察や進行止めの塗布となります。哺乳期のこの時期では虫歯の発生は少ないです。既に離乳に進んでいる場合はその与え方、歯ブラシの仕方に問題があるかもしれません。腫れや強い痛み、外傷など緊急時は、口腔外科で全身麻酔下の処置になるかと思います。
3歳前後(約2歳半〜3歳)

言葉の理解が進み、お口開けてね、など簡単な約束ができ始めます。3歳を過ぎると短時間診療台に座ってフッ化物塗布などが可能になったりします。もちろん個人差があります。咬み合わせの問題があればわかるのがこの時期です。受け口はもちろん、嚙んだ時に下の前歯が見えない過蓋咬合は上顎の劣成長と診断できます。哺乳の仕方や哺乳期間の結果が出ます。もしこのような状態であれば、離乳や食育に注力しなければなりません。
4〜5歳
協力度が大きく伸びる時期。多くの子が治療できるようになります。痛みのない、進行遅いむし歯なら削ったりせず、4歳前後まで進行止めなどで管理し、協力可能になってから治療が現実的なラインといえるでしょう仕上げ磨きも勿論必須です。反抗期になるまで仕上げ磨きをしてください。できればフロスも使用してください。受け口の治療に用いる取り外しの装置(ムーシールド、プレオルソ)も成長に応じてにはなりますがこのくらいから始めることが多いです。
受け口の治療、早いに越したことはないが時期がある
ムーシールドやプレオルソの開始の一般的な目安

使用開始年齢はだいたい3歳くらいから可能からとされています。私は早過ぎても、入れてもすぐ外すリスクが高いため、3歳では基本的にはまだ早いと考えています。受け口治療のムーシールドやプレオルソの開始時期は4歳頃〜が現実的ではないかと考えています。それは、夜間装置を入れて眠るという行動が理解でき、習慣化も期待できるからです。また起きている時も1~2時間使用していただく必要があります。小さいうちは、夜間はよいのですが、起きている時は違和感が強く、外す子が多いようです。受け口の治療は装置をきちんと使用していただくとおよそ半年です。改善しないのは使用時間が適切でないか、遺伝的傾向があるからです。
なぜ受け口になるのか

哺乳、離乳を通じて舌をはじめとする口腔筋組織の機能獲得ができず上顎が劣成長であるからです。まだ哺乳されている方はなるべく長い期間哺乳をしていただきお子さんの機能獲得を目指してください。適切な哺乳の仕方があります。離乳食も与え方によって大きく機能獲得に差が出ますので、ぜひ勉強してみてください。マタニティー歯科に記載しています。舌圧を使い、口唇圧を排除するというバランス改善で上顎前歯の位置を改善し、反対咬合の改善をサポートするのがムーシールドやプレオルソです。使い分けは術者が選択します。成長期に下顎が大きく成長し、受け口が再発することもあります。成長は予測できませんのでご承知おきください。
「基本は3歳までは“慣らしと予防”、4歳から本格的に。でも痛みや腫れがあれば年齢に関係なく対応します」
という言い方がわかりやすいと思います。
虫歯への対応
穴のある乳歯むし歯でも、協力度が上がるまで進行止め薬の塗布や仮充填を行ったりします。低侵襲で短時間の方法を優先します。できるようになったら治療する。家では仕上げみがき、甘味の回数コントロール、寝る前は水のみ、などの習慣づくりを行ってもらいます。初期う蝕もほぼ同様です。虫歯にはフッ素は有効ではありませんが、虫歯になっていないところについて行います。フッ素よりもご家庭での毎日のケアがとても重要です。進行を止める、遅らせる、が合言葉です。食習慣も虫歯と大きく関わっていますのでダラダラ食いを止める、甘味を減らす、などの対策も取ってください。
小児歯科治療の王道

無理に今ここでやり切るより、
心の安全
将来を考えた通院継続
を優先したプランが小児歯科の王道です。緊急サインがあれば安全な環境で迅速に、そうでなければ経過も診ながら協力度を育て、適切な時期に介入する。この順番で考えましょう。泣き叫んでいる子供を無理に診療することは心に大きな禍根を残します。保護者の方の意向もわかりますが、受診前にご家庭で必ず言い聞かせてからご来院ください。雰囲気にならしていくのであれば、保護者の方やご兄弟の診療や定期健診に同席させたりして来院する機会を増やしましょう。そのためわざと健診時期をずらして頻度を高めてみてもよいでしょう。本格的治療は4歳頃から取り組むのが現実的と言えるでしょう。



