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身体の成長と調和を守るため抜歯を避ける

成長期(特に12歳前後〜中学生)は、顎の骨がまだ発育段階にあり、適切なタイミングでの機能的アプローチにより歯列や顎の成長を誘導できる可能性があります。早期に抜歯をすると、本来可能だった骨の大きさになりません。歯の数に合った大きさにしかならないのです。上顎の成長は10歳までにほぼ終わってしまうのですが、18歳までなら狭い顎を適正な大きさに拡大誘導できる可能性が残っているのです。もちろん6〜9歳ごろからの矯正治療ができていれば、歯列の乱れを未然に防げて抜歯の必要性はかなり減らすことができます。
歯は臓器の一部です
抜歯は不可逆的な処置であり、成長や将来の変化に対応できないというリスクが伴います。小臼歯の抜歯は、口元が引っ込み過ぎてしまう(フラットフェイス)原因になったり、顎の大きさが小さくなって気道容積が減少して睡眠時無呼吸症のリスクを高める可能性が指摘されています。成長が終わり、どうしても抜歯をしないとスペースが確保できなかったり、噛み合わせに不備が生じてしまう、という診断になってようやく抜歯を選択する、というスタンスを当院ではとっています。何が何でも抜歯をしない、ということではありませんが、若年者はまず抜歯をしません。治療後半になって下顎の前方への成長が見込めない、と確定した時にようやく抜歯を検討します。まず歯の保存を前提とした治療計画を立てるのが大原則です。
抜歯が必要になるのは?
もちろん、すべての症例で非抜歯が可能とは限りません。以下のような場合は、抜歯が必要になることもあります。
著しい叢生(スペース不足が10mm以上)
成人でも、上顎を側方に拡げる装置を用いることによってスペース不足を解消できる可能性があります。完全に骨化している場合は抜歯になります。若年者であればマウスピース矯正を使うことで上顎を拡大できます。まだ骨が完全に固まっていないのが、その理由です。でもできれば中学生までに取り組みたいところです。
顎の成長が終了しており、拡大・誘導が見込めない成人症例
特に男性で30歳を越えると拡大はほぼ不可能で、抜歯を選択することになります。女性の場合は40代でも可能性はあります。少し外科処置が必要になります。
骨格性の上下顎前突や過蓋咬合で、口元の突出感が強い場合
骨格性の受け口は、歯だけでなく、その部分の一部の骨含めて取り除き咬み合わせを治すことがあります。外科的矯正と呼ばれ、成長の終わった頃に治療します。下の前歯が、噛み込むと見えない過蓋咬合は、下顎を前に誘導することで抜歯を避けることができることがあります。ただし横から見てほとんど顎先が首と一体化している場合では、下顎を前に誘導すると同時に上顎の歯を抜歯して上の前歯を下げる必要があります。開咬の治療も、下顎が後ろに引っ込んでいることが多くありますから、下顎を正しい位置に導くことで、歯を抜かずに済むかもしれません。難しいと言われる開咬治療が、あごが自然な位置に戻ることで、歯を抜かずに済むことがあります。
開咬と顎関節の深い関係

奥歯で噛んでいても、前歯が上下で当たらずにすき間ができている状態のことを開咬と言います。
前歯で食べ物がうまく噛み切れない、
発音が不明瞭になりやすい、
口がいつも開いていて口呼吸になっている
という状態です。上下の歯がしっかり噛み合わないため、下あごの位置が不安定になりがちです。そのため顎が後ろにずれやすくなって顎関節に圧がかかり、顎関節にズレが生じ、カクカク音、違和感が出やすいくなります。慢性的な顎のだるさ、肩こり、頭痛につながることもあります。このように見た目が悪いとか、噛み切りにくいというだけでなく、顎関節に負担がかかっていることが多いのです。
マウスピース矯正が開咬治療にやさしい理由

マウスピース矯正なら、顎関節にもやさしくアプローチしながら矯正治療できます。その理由は
かみ合わせの高さ”を少しずつコントロールできる
マウスピースは全体的に少し厚みがあるので、かみ合わせを少しずつ持ち上げます。マウスピースを装着することで、奥歯ばかりにかかっていた咬合圧を分散でき、あごが楽になります。
顎の位置が自然に“前に戻りやすく”なる
顎関節が圧迫されていた人は、マウスピースによって少しずつ前方・下方にあごが導かれる傾向があります。これは、顎関節が本来の位置に向かって動きやすくなるからです。結果として、後ろに押し込められていた顎関節が前に出ることで楽になって、カクっという音が減ったり、顎が動かしやすくなるなどの変化が見られることもあります。
取り外せるので、筋肉・呼吸のトレーニングと併用しやすい
舌の位置や呼吸、舌の癖、良くない姿勢も開咬の原因になります。それらのトレーニングと並行してマウスピース矯正を行うので、根本的な改善につながりやすいのです。正しくなった位置にあわせて良くない習慣を取り除く、といったイメージです。
歯を動かすよりも顎の位置を変える方が、実は大きく歯が動く
歯並びがガタガタになっているとスペースが足りないから、歯を抜いて並べましょう、と言われることがあります。でも、実は歯の並ぶスペースは、顎の位置やバランスによって変わることをご存じですか。1本1本の歯を少しずつ動かすのはとても大変ですが、下顎ごと前に動けば、一瞬で大きく動きます。歯を動かすことに変わりはありません。顎の位置やバランスをまず正しく導くことをしてから歯を動かすことを考えれば、歯をたくさん、いっぱい動かす必要が減ります。
余計な移動を少なく済ませる
抜歯を避ける
当院では歯を最小限の移動にして最大限の効果を出す治療を目指しています。最小限の移動は、治療期間の短縮にもなります。そのため十分な診査診断を行います。ただし身体に取ってベストな位置を求めるために、時間はかかってもやらなければならない歯の動きは必ずあります。時間がかかっているのはそのためだとご理解ください。
どうして下顎が前に出ることがいいの?
下顎が前にくると、顎関節の動きがスムーズになることで、口腔全体のバランスが整います、上顎が劣成長だと、下顎は上顎より前に出れませんから、下顎は本来あるべき位置よりも後方に押し込まれています。そうすると気道は狭くなります。酸素を多く取り入れるために姿勢を前傾にしたり、口呼吸する、ということになります。睡眠時無呼吸症候群の原因にもなります。また顎関節の後ろを走行する、脳への血管を下顎が後ろにあることで圧迫しているのですが、それが開放されます。脳にとっても良くなります。下顎を本来あるべき位置に戻すことが大切で、そのために上顎が大きくならないといけません。片方だけの治療ではなく上下一対の治療が必要なのはそういったことなのです。
抜かずに残して治療することができれば、それがいちばん自然で価値のあること。

今まで述べてきたように顎の位置を考えた治療を考えていけば抜歯しなくても済むかもしれないということです。下顎が正しい位置にくると、口全体が本来の大きさを取り戻し、歯がきれいに並ぶスペースができる可能性があります。マウスピース矯正などを活用して顎の関節・筋肉・姿勢・呼吸もふくめた全体を見ながら将来的にも健康で美しい歯並びを考えた治療を目指しています。歯が並ばないから抜く、その前に顎の位置は正しいかどうかを是非聞いてみてください。



