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知覚過敏と噛みしめ癖
歯が全体的にしみている場合、歯の付け根が削れていたり、歯の根が露出していたり、歯の先端が咬耗していたり、歯を支える歯槽骨が盛り上がっているなど、噛みしめ癖(Tooth Contact Habit)の兆候がお口の中に出現します。このような兆候がある場合、知らず知らずのうちに噛みしめや歯ぎしりをしていることがほとんどです。音が鳴ることもあるし、鳴らないこともあります。虫歯であれば特定の歯がしみます。歯周病でも、歯を支える歯槽骨が減少して歯の根っこが口腔内に露出して、歯垢が適切なブラッシングで除去できていないと滲みます。虫歯や歯周病でなく、噛みしめ癖の兆候が口腔内に見受けられる場合、嚙みしめ癖による知覚過敏であることが多いのです。そのことを指摘してお話をしても、自分は歯ぎしりなんてしていない、家族にも言われたことがない、など頑なに否定される方が多くいらっしゃいます。専門家の客観的な意見を素直に受け入れてくださらないのは、どういった理由なのでしょうか?
なぜTCHや歯ぎしりの指摘を受け入れないのか?
無意識に自分だけは正しいと思いこむ傾向にあります。自覚がないんだからやってるわけない、そんなに強く噛んでたら自分で気づくはず、音がしてたら家族が気づくはず、私はちゃんとしてる。だから自分には関係ないと思うのです。また良くない癖と言われると、自分が悪くて責められていると無意識に受け取ってしまい、防衛反応が働きそんなわけない、と反発する、こういうことが積み重なって受け入れて下さらないようです。今まで誰も言われなかったのに、指摘されることで不信に思われるようです。写真は極端な例ですが、もっと僅かな削れ方でも症状は出ます。
歯がしみる=むし歯という固定観念
歯ぎしりや噛みしめ癖は直接目に見えないので、信じづらいという側面があります。歯が欠けたりして感じることができますから虫歯はわかりやすく、素直に納得してもらえます。歯周病も、レントゲンで歯槽骨の減り具合や歯周ポケット検査の数値がありますから、比較的納得してもらえます。噛みしめに関しては数字やレントゲンで示すことができないことと、噛みしめ癖が知覚過敏や歯の痛みに関係しているとまだ広く認識されていないことが背景にあるようです。
ストレス社会の日本では、約7〜8割が無意識の噛みしめをしていると言われています。
脳幹は呼吸するとか、生きることに関する部分を司っています。ヒトはストレスが溜まるとそれを発散させるために歯ぎしりや食いしばりをすると言われています。要は身体の反応の一つなのです。ほとんどの方が“気づかずにやっています。気づかないのが普通です。特別ではありませんので安心ください。
意識すれば変えられる
無意識で行われている歯を接触させてしまう身体の癖ですが、日中ふとした時に上下の歯が接触していないか、気づいたらやめるように習慣づけできればすれば、夜間の噛みしめがコントロールできるようになるという論文があります。お口の中に噛みしめ癖の証拠をご指摘受けた方は自覚がなくても、唇を閉じていても歯は噛まない、という習慣を付けるようにしてみてください。可能な範囲でストレスの無いようにというのもありますが、これが一番コントロールできないことでもあります。
他にないですか?だと現状を変えることは難しいと思ってください。
噛みしめを無くすことは先ほど述べた通りできません。歯同士接触することで歯にヒビが入ったり、歯の付け根に応力が集中して知覚過敏を引き起こします。歯同士を直接接触させない対症療法として、マウスピースを入れます。マウスピースが介在することで歯同士を直接接触しなくなります。起きている時は食事しているときなど、時間にすれば僅かです。本人の意識のない夜間に接触させないことが目的です。歯にそれ以上負荷をかけないようにして知覚過敏の増悪を防ぐのですが、寝づらい、気持ち悪いなど訴える方も少なからずいらっしゃいます。知覚過敏用の薬剤もありますが、それだけではなかなか収束しません。それゆえマウスピースの提案をするのですが、受け入れてもらえないこともしばしばです。他にないですか、と言われても正直無いのです。受け入れてもらっても、装着してもらえないのでは症状の軽減の見込みは立ちません。
歯周病治療だけでは歯周病は治らない。セルフケアが必須です。
歯ブラシすると出血する。歯がぐらつく、歯が揺れているのでかみづらい、口臭を指摘された、など歯周病を治したいと多くの方が来院されます。歯周病は、歯を支えている骨が、歯垢(プラーク)に含まれる細菌によって炎症を起こし、悪化すると歯が抜けてしまいます。歯垢は、歯の表面にたまる細菌のかたまりです。歯垢は口の中に残った食事に含まれるごはんやパンなどの糖分を栄養にして口腔内細菌がネバネバした膜をつくり、歯の表面にくっついてできたものです。しっかり歯みがきをして取り除くことができていないと、歯と歯ぐきの間に歯垢がたまり、歯ぐきに炎症を起こします。炎症が収まらないと歯を支える骨まで溶かしてしまいます。歯垢を取り除くことができないままだとだんだん固まって、歯石になります。もっと取りにくくなり、歯磨きでは取り除くことができなくなります。
磨いているのと磨けているのは、行為は同じでも効果が全く違う
歯周病の最大の原因は歯垢といってよいと思います。口腔内の細菌を0にすることは不可能です。口の中を病院の無菌室のように外界との接触を0にできれば可能かもしれませんが、無理ですよね。歯垢を極力取り除き炎症を起こさないようにすることが、治療であり予防です。ですから毎食後のていねいな歯みがきが大切です。歯科医院での歯周病治療は、
歯垢を取り除くために適切な歯ブラシの仕方を覚えていただく。
歯ブラシでは及ばない部位を、歯間ブラシや糸ようじを使って歯ブラシの補完方法を覚えていただく。
歯ブラシでは取り切れない、硬くなった歯垢すなわち歯石を取り除く。
必要であれば外科的に歯石除去を行う
です。
ちゃんと一日三回磨いている、とおっしゃってもそれが効果的に磨けていないと磨けていないと同じなのです。
歯周病は家で治す、という認識が必要です。
治療を受ければ治る、治すのは歯科医の仕事、歯医者や薬に頼ることで何とかなるという期待をもっていらっしゃるかもしれませんが、これまでのべたようにそれは誤りです。自分で能動的に関わらないと歯周病は治りません。歯磨きくらいで病気が治るなんてって思わないで下さい。歯垢が取り切れていないと毎日少しづつ歯周病が進行して骨が溶けていると思ってください。出血や腫れが日常になってしまい、危機感が薄れることもあります。歯を失った時、どうやってそこを埋めますか?固定式の土台にできるほど残っている歯は丈夫ですか?歯を失うことになれば入れ歯になると思ってください。入れ歯が大きくなると思ってください。自分はそうはならない、なんて思わないでください。歯周病は自分で治すものです。
医療者任せでは良くならないことも多くある。
何とかしたいという気持ちで来院いただくと思います。その期待にお応えしたいと思うのですが、ご自身で取り組まないと改善しないことも多くあります。治療法が提示された時の困惑や不信感はその点だと思います。治すには自助努力が必要な疾病があるとご理解ください。