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症例の概要
14歳の女性で、歯並びが気になるとのことで来院されました。上顎が八重歯になっています。そのひとつ手前の歯も少し引っ込んでいるのと、捻って生えています。下顎の真ん中の前歯もスペースが足らないのでガタついています。少し左に傾いています。普通上顎は、下顎よりも外側にあるという関係です。奥歯をみると上顎の奥歯は下顎より外にありますが、ちょっと余裕がありません。上顎、下顎共に歯が綺麗に並んでいないのですが、それは歯が並ぶだけの大きさに顎が大きく成長できていないということです。上顎の方がその傾向が強いように思います。
当院の成長期の八重歯(叢生)治療のコンセプト
基本的に成長期の治療では抜歯を避けるように考えます。成長期を過ぎてしまうと残念ですが抜歯を組み込んだ治療も検討しなければなりません。歯が並ぶスペースが無くて八重歯になっているので、並ぶだけのスペースに顎を大きくする治療計画を立案します。当院ではマウスピース矯正という手段で上顎を大きくしていきます。ただし年齢が高くなるにつれ難しくなります。下顎は上顎よりも成長しきるまでの期間が長いので、まず上顎を大きくしなければなりません。上顎の方が早く成長が終わってしまうのです。一般的に日本人男性は18歳、女性は15歳にほぼ成長が終ります。もちろん個人差がありますから絶対ではありません。上顎は10歳にはほぼ90%成長を終えてしまいます。ですから遅くても中学生になるまでに治療に取り組んだ方が本当は良いのです。高校生になると中学生よりも難しくなるのはそういった理由があるのです。でも、高校生でもまだ成長のカケラが残っている可能性がありますから、成人になるのを待ってからというよりは早めに取り組んだ方がよいと言えます。顎を拡げる程度が大きいと、それだけでスペースを確保できない場合もあります。その方の歯の大きさが日本人の平均の大きさ以上である場合、歯の大きさを調整してスペースを確保することもあります。また、治療しても顎が大きくならない場合、やむを得ず抜歯を選択しなければなりません。個体差は、どれほど詳細な事前診査・診断をしても残念ながらわからないのです。この方は個々の歯の調整は行っていません。
上顎の成熟していく過程を理解して上顎を大きくする
よく見ていただくと真ん中に縦の線、赤枠のところに横の波線があります。前歯の付け根に穴が開いていていますが、これは永久歯が生えてきている状態です。年齢で言うと6~7歳くらいの上顎の模型です。簡単に言うと、これらの線のところが年齢と共に融合していって固まって(化骨)一つになって上顎は完成します。歯が綺麗に並んでいないくらい上顎が小さいまま固まってしまうと、後からは簡単に上顎を大きくできません。実際は、できることはできますが、外科処置が必要になります。(MSE)成長期であれば、線のところが完全に癒合していないので、マウスピースというマイルドな力を加えて痛みなく拡げていくことができます。
成人ならMSEという手段で上顎を大きくする
上顎に機械的な力を直接加えて顎を左右に拡げていきます。この装置は上顎の真ん中に小さなインプラントのようなネジで直接固定します。毎日数回ご自身で装置の真ん中にあるスクリューを回していただきます。成人の方が対象になりますが、男性や上顎の骨の薄い方は効果が出ずらいことがあります。左右に拡げると前歯の真ん中が空いて、すきっ歯のようになります。そのすきっ歯が歯を並べるスペースとなり、歯のガタガタを治していくのです。成長期に八重歯や歯のガタガタの治療に取り組んでおけば、このような器材を使ったり、抜歯などしなくて済む可能性が非常に高くなります。
上顎の治療経過
初診時
3か月後
6か月後
9か月後
1年後
若干ひねりは残っていますがほぼ改善しています。綺麗なアーチになっています。
下顎の治療経過
初診時
3か月後
6か月後
9か月後
ほぼ良くなりました。
1年後
初診と約1年後の正面写真
八重歯も改善されました。下顎の前歯の傾きも改善されました。上顎も拡がり、上下の関係が改善されています。
矯正治療は歯並びを良くするためだけではありません。
上が治療前、下が治療終了前です。頸椎の曲がり具合をみていただくと、治療前は湾曲しています。治療終了前は真っすぐに近くなってきています。理想的な横から見た頸椎のつながりは真っすぐよりやや後ろに湾曲した形です。スマホ全盛の時代ではどうしても前傾姿勢になっているので、ストレートな形になっていることがほとんどになっています。前傾姿勢にした方が呼吸しやすかったのですが、顎が大きくなり噛み合わせがよくなったことで口腔容積が広がり、前傾姿勢する必要がなくなったと考えます。スポーツしていて息があがると、顎を突き出しますよね。あれは酸素を一生懸命取り入れるためにしています。前傾姿勢の典型です。
矯正治療は脳を守るための治療
上が治療前 下が治療終了前です。同じように頸椎に注目してください。治療前は右に傾いていますが終了に向かって真っすぐになっています。上下の傾きはありそうですが、左右の位置は固定されていますから、頸椎の傾きは改善されたと言えるでしょう。頭が傾いたままでは平衡感覚が取れないので目線(頭)を地面に平行にします。頭を真っすぐにするためにいろんな姿勢をとります。下顎は自由に動かせるので、噛み合わせにズレがあると下顎で調整しようとします。下顎がズレると首の筋肉の使い方に左右差がでます。筋肉は骨に付いているので骨もズレます。骨も筋肉も全身つながっているので、あちこちにズレが生じるという仕組みです。嚙み合わせがすべてとは言いませんが、猫背、肩こり、O脚、偏平足など遠く離れたところにも影響することがあります。
脳への血流が良くなる
嚙み合わせが良くないと、脳への血流量にも影響が出ると言われています。脳は身体全体の2%の重さですが体全体の20%の血流量を必要とします。脳は心臓よりも高い位置にあるので、血液を送り込む勢いが他よりも必要です。その送り込む推進力の一つが舌の動きと言われています。舌は活発に動きますが、動いていること自体が押し上げる力になります。口腔が小さく、適切な運動ができないでいると、動きが緩慢になります。推進力に影響します。また不正な嚙み合わせで血流量に左右差が出るのも脳にとってはよくありません。脳は毛細血管の塊ですから。また、噛み合わせが良くなると噛む、という脳への刺激もよくなります。特に、考える、やる気、コミュニケーションに関係する前頭葉への刺激となります。どの年代であれ口腔内の環境が良くなれば、脳は活性化されます。成長期ならなお一層効果があるのではないでしょうか。
八重歯やガタガタな歯並びは早期に取り組んだ方がよりよい福音をもたらします。
様々な条件はあるでしょうけれど、お子様の将来を考えていただければと思います。ただしマウスピース矯正は本人の意欲が必要です。お任せではありません。1日のマウスピースの装着時間は、余程の体調不良を除き、どのようなときでも22時間以上、チューイーを使って装着していただきます。ワイヤー矯正と違って脱着することができるため、約束を守れないと治療結果はでません。親御さんの管理も必要となります。多分してると思います、では結果が出ません。
治療回数
治療回数14回 (資料採取、事前説明含む)
治療費用
総額 863,500円(モニタリング費用含む)
治療内容
八重歯 叢生の改善
副作用 リスク
チューイーの励行 1日22時間以上の装着時間の遵守ができない場合、治療目的を達成できません。 定期的なモニタリングの来院に応じられない場合予期せぬ結果を招くことがあります。