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矯正治療にはワイヤーとマウスピースの2つの治療方法がある
矯正治療はワイヤー(針金)だけでなく、マウスピースで治療することは一般的になり、変わらない治療結果を得られるようになって久しくなりました。ワイヤーもマウスピースもそれぞれ得意・不得意があり、それをわかった上で不得意なところを極力打ち消す手立てを治療計画に組み込んで治療します。当院ではマウスピースで矯正治療を行っています。
マウスピース矯正の先駆がインビザライン

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インビザライン(Invisalign)はアメリカのAlign Technology社が開発したマウスピース矯正の名前です。パイオニア的なブランドです。マウスピース矯正のパイオニア的なブランドです。2024年時点で、世界中で1900万人以上の治療実績があります。アライン社が独自で開発したSmartTrackという素材でマウスピースを作製しています。しなやかでな素材で、光造形で作製されています。また矯正治療の計画をClinCheckというソフトウェアを用いて精密に歯の移動シミュレーション行います。この2点がインビザラインの特徴です。歯の移動を可視化してシュミレーションし、矯正治療の計画を立案できるところが革新的です。個人的な見解ですが、ワイヤー矯正ではどのように動くかをまだ可視化できていないように思います。
インビザラインのちょっと残念なところ
世界中の多くの歯科医院で取り扱われていて、アライン社はそれらの治療のデータを蓄積しています。インビザラインはマウスピース矯正の代名詞として、高い認知度があります。長年の臨床データと研究に基づいて技術革新を進めているようですが、ここしばらくは少し停滞気味のような感じです。Smart Trackというマウスピースの素材は2013年に開発されましたが、今もその素材は変わっていません。
マウスピース矯正の特徴

ワイヤー矯正とマウスピース矯正は、どちらも歯を動かす治療ですが、どうやって力を加えるかとどう動かすかが全然違います。ワイヤー矯正は引っ張る力、マウスピース矯正は押す力。ワイヤー矯正ではワイヤー(針金)の形と大きさ、そして弾性の組み合わせで動かします。マウスピース矯正はほんの少し今の位置と違うマウスピースをどんどん交換していくことで、徐々に歯を動かします。(1つマウスピースで動かせる歯の移動量はごくわずか。0.25㎜)マウスピース矯正では骨の中を移動する歯の根の部分をどうコントロールしていくかがとても大切です。歯を動かす力には同じだけ戻ろうとする反作用の力が出現します。不要な反作用の力をどう打ち消すかをワイヤー矯正以上に治療計画に組み込まねばなりません。ワイヤー矯正に比べ目立たない、痛みが少ないなど比較的快適な治療ですが考慮すべき点は様々あります。もちろん自己管理は必須です。
Smartee(スマーティー)というマウスピース矯正
ここのところ注目を浴びているマウスピース矯正があります。それがSmarteeです。Invisalignと同じマウスピース矯正の名前です。会社自体は2004年に設立されていますからアライン社より7年後発です。2024年のヨーロッパ矯正学会においてのトレンドは、上顎劣成長の改善と下顎の前方誘導でした。これからその治療をどうしていくか、ということですね。Smarteeは、それに対応できるマウスピース矯正において、あったらいいなという機能を数多く付随させることができるからでした。ですからその学会で一躍脚光を浴びることになりました。残念ながらアライン社は対応できておらず後塵を拝すことになりました。巻き返しを図っているようですが周回遅れの感があります。車産業みたいですね。
新しい素材を使っている

マウスピースの素材は2021年に独自に開発された素材を使用しています。薄いシートを2層重ねたものになっていて、Invisalignのものよりもほんの少し硬さを感じます。しかしその分歯との密着が図られて動かしやすくなっています。動かしやすいということは、治療期間も短くなるということです。いろいろなオプションのうち、昼用と夜用で異なる硬さのマウスピースを使用するシステムもあります。日中は柔らかいマウスピース、メラトニンというホルモンが分泌される夜間は硬いマウスピースで歯を動かすように設計されています。歯の移動を効率的に行うために、ホルモンの分泌や日中の装着時の快適さなども考慮しています。このように、Smarteeのマウスピース素材は、快適性と効果的な歯列矯正を両立するために設計されています。
顎の位置を考慮した設計ができる

Smarteeは、単に歯並びを整えるだけでなく、顎の位置まで調整できる設計が特徴です。日本人は下顎が後ろ、奥に引っ込んでいる方が多いです。いわゆる出っ歯です。奥歯で咬んだ時に、イーってしてみてください。下の前歯がほとんど隠れずに見えますか?普通なら下の前歯の先だけしか隠れません。歯並びはよくても前後的な噛み合わせに問題があるのです。そんな方は、下顎を前に出して上と下の前歯の先端同士が合う少し前に出してみてください。ざっくりいうとそのあたりの位置が本来の下顎の位置です。その位置では奥歯は噛んでいませんし噛めません。でも様々なチェックをして本来の下顎の位置がそこであればそこで噛めるようにした方が体にとっては適切なのです。その位置を決めれたら、その位置を目指した治療を行う機能の付いた装置がSmarteeにはあります。これにより、全体的な咬み合わせの改善や、姿勢の改善にもつながる矯正治療を行うことができます。Invisalignにもその機能が付け加えられるようになりましたが、レディーメイド的なもので個々にあったオーダーメイドの顎の位置付けは難しいようです。
上顎を大きくするサポートのついたマウスピース

子供さんの八重歯など、歯の並ぶスペースの無い顎を素材の弾性を用いて大きくするマウスピースがあります。体の出来上がっていない、柔らかい骨を主に横方向に拡大することができます。少し大きなマウスピースですが、従来の拡大装置に比べれば薄くて違和感も少ないです。
反作用を消す装置が付加できる
歯を動かす矯正力には同じだけの反作用の力が発生し、それを打ち消さないと良くないことが起こります。その反作用の力をマウスピースの一部を大きくして打ち消す機能をつけることができます。薬で言うと副作用を極力減らすということです。下顎前歯の唇側や上あごの部分です。
舌の位置を覚えさせるなど、子どもの口腔習癖を改善する設計になっている

乳歯や混合歯列期の矯正治療を行わなくてはならない子どもたちは、舌の定位置が適切ではないところにあります。Smarteeの子どものマウスピースには、舌の先はここに付けておいてください的なランドマークが予め設置されています。マウスピース矯正の期間中に舌先を置く位置を覚える訓練もできるという正に一石二鳥の仕組みが取り入れられています。舌の位置が上に挙がることで気道が拡がり、また顎を拡げるサポートにもなるのでこの訓練はとても大切なのです。口呼吸などの口腔習癖を改善するサポートにもなります。残念ながらInvisalignのマウスピースにはついていません。
マウスピースは矯正治療の一材料にすぎない。
Smarteeの良いところを説明してきましたが、Invisalignが悪いと言っているわけではありません。先駆的なことを行ってマウスピース矯正を普及させてきた第一人者です。ただ機能面では後発メーカーに追い越されてしまった感があるのも事実です。マウスピース矯正の基本を押さえてInvisalignで治療を行えばきちんと治療結果はでます。ただアライン社はブランド戦略を行っているせいか、患者様にご負担いただく額が年々上昇しております。世界的に広く普及しているブランドを選びたい方はInvisalignをお勧めしますが、機能面、リーズナブルさを優先なさる方はSmarteeという選択がよい時代に入ったと個人的には思っています。的確迅速に歯並びを整え、全身の健康を回復するために、よりよい材料を選択することは理にかなったことではないでしょうか。



