口腔の細胞が新型コロナウィルスに感染
少し前、米国の国立衛生研究所を中心とした国際研究チームが 医学雑誌 Nature Medicine において口腔粘膜や唾液腺の細胞が新型コロナウィルス(COVID-19)に感染することを報告しました。唾液にCOVID-19が多く含まれていることについては広く知られており、既に唾液によるPCR検査などに活用されていますが、唾液に含まれるCOVID-19がどこから来たものについては知られていませんでした。呼吸器系の症状がある患者においては、鼻汁や喀痰に含まれているCOVID-19が唾液に混ざるという説明がつく一方で、呼吸器系の症状がない患者においては由来が不明でした。
研究チームが健常者の口腔の細胞を調査した結果、ウィルスが細胞に侵入するために必要となる宿主の細胞側タンパク質であるACE2受容体とタンパク分解酵素であるTMPRSSが唾液腺の細胞やう蝕に接している粘膜の細胞において検出されました。次に、COVID-19により死亡した19名の患者の口腔の細胞のサンプルを調べた結果、半数以上の唾液腺のサンプルにおいてCOVID-19のRNAが検出されました。更に軽症患者27名において、唾液中に含まれるCOVID-19が多いほど、味覚障害や嗅覚障害がみられる傾向にあることが示されました。このことから、COVID-19で口腔に見られる症状は、口腔の細胞がCOVID-19に感染したことによるものである可能性が示唆されました。これらの結果から、COVID-19の感染拡大において、口腔がこれまで考えられてきた以上に重要な役割を果たしている可能性が考えられます。口腔内を清潔に保つことが大切だということです。自分だけではケアしきれない部分を診療所でケアしていくことで感染を少しでも防ぎましょう。
当初、歯科医療職はCOVID-19に感染しやすい職業として報道されました。大阪府知事が、大阪には5500もの歯科医院があるが、クラスター発生はゼロ。感染対策の賜物と思うが、何かある。専門家には是非分析してもらいたい、とツイートしたことで歯科医院での対策が注目されました。コロナ禍以前より日常的にマスク、グローブを装着し、感染防止を意識して医療を提供してきた歯科医療現場においては当たり前のことだったのかもしれません。口腔粘膜や唾液腺の細胞がCOVID-19に感染することが判明した今、感染拡大防止において歯科医療が果たす役割は更に高まっていくと思われます。院内感染対策は日々アップデートすることもさることながら、定期的に確認し、実践していくことが大切です。安心してご来院いただければと思います。