当院ではマウスピースによる矯正治療を行っています。矯正治療は大まかにワイヤー(針金)を用いて行うものと、マウスピースを用いて行うものに分かれます。
目次
歴史のあるワイヤー矯正
従来から行われている矯正治療はワイヤーで行っています。皆さんよく目にしていて想像がつく、あれです。歯の表面に針金を通して、その針金の元に戻ろうとする力を使って歯を移動させます。素材の進歩もあり今は形状記憶のワイヤー(針金)となっています。審美的な観点から裏側、歯の内側にワイヤーを付けて矯正治療を行う舌側矯正というものもあります。
ワイヤー矯正のメリット
外側であれ、内側であれワイヤー矯正のメリットは24時間装着されていることです。ずっと歯に力を加えることができます。ちょっと痛くても自分でも外すことはできません。計画通りに治療を進めることができます。(ちょっと専門的になりますが)ワイヤーがレールのような働きをしますから歯の軸に対して平行な動きを与えることや歯の回転の是正が比較的得意です。
ワイヤー矯正のデメリット
ワイヤー矯正を行うには歯の一つ一つにブラケットと言われる、ワイヤーを位置づける小さな金具を付けます。ブラケットはメタルのことが多いのですが、セラミックやプラスティックの物も最近はあります。金具では審美性に欠けるから開発されました。(舌側は見えないので金属の物が使われる傾向にあります。)ブラケットには凹凸があるので上手にブラッシングしても清掃性に欠けます。
ワイヤー矯正の力のかけ方
ワイヤー矯正はブラケットの位置付け、ワイヤーの形、太さで、力と方向が決まります。ブラケットの位置は歯の軸に垂直、噛み合わせのメント水平に設置します。ワイヤーは直線ですから、歯がかなり傾いているとワイヤーの元に戻ろうとする力が強くかかります。傾きの大小はありますが全部の歯にブラケットは付いていますからワイヤーを初めて入れた時や交換した時に痛みを感じるのはワイヤーの元に戻ろうとする力がかかるからです。時間と共に歯が動くので少しづつ痛みは軽減します。ワイヤーを交換して数日痛むのはそのためです。
ワイヤーの交換で力強くしていく
ブラケットに余裕のあるワイヤーから始めて、キチキチのワイヤーに少しづつ変えていきます。ブラケットに遊びのある状態ではそんなに力がかかりません。(痛みも少ないです。)歯を、動かすことに慣らしていってブラケットに遊びの無いワイヤーに徐々に変えて歯を目的の方向、位置に動かしていきます。
ワイヤー矯正のアクシデント
ワイヤーの力で、歯の面からブラケットが取れてしまうことがあります。取れると力が歯にかからないので付け直す必要があります。一度ワイヤーを取って付け直します。ワイヤーの一番奥の端がブラケットから飛び出ると頬に当たることがあります。その時はワイヤーを適切な長さにする必要があります。
マウスピース矯正
随分前からありましたが、ここ20年くらいで普及してきているのがマウスピース矯正(アライナー矯正)です。素材の革新や審美的に優れていることなどからワイヤー矯正と二分するようになっています。できることに遜色はほとんどありません。
マウスピース矯正のメリット
ブラケットやワイヤーを用いないので、金属アレルギーの方でも治療は可能です。ワイヤーを用いないのでブラケットは付けません。しかし歯にマウスピースの矯正力を伝えるためにアタッチメントという小さな白い材料を歯の面に付けます。歯の詰め物に使う材料です。歯と同じ白さですから目立ちません。マウスピースも透明ですから審美的な問題は発生しづらいです。アタッチメントはブラケットよりも形がシンプルなので清掃性にも問題は起こりにくいです。
痛みが起こりずらい
マウスピース矯正ではCT、スキャンデータを用いて最終位置を決めてシュミレーションすることができます。目的位置にむけて少しづつ歯を動かします。マウスピース1枚で最大0.25㎜の動きしかできません。紙1枚くらいです。0.25㎜動いた位置のマウスピースをしっかり1週間嵌めていただいて、次のマウスピースに交換していただきます。一度に大きな力が歯にかからないので、ワイヤー矯正に比べて痛みが少ないのです。
マウスピース矯正のデメリット
マウスピース矯正は、食事や歯ブラシの時には外していただきます。そのため清掃性がよく食事もしやすいのですが、外している時間分元に戻る力がかかります。(ワイヤー矯正は力がかかり続けます。)24時間に極力近づける装着時間を自分で守らないと治療期間や治療結果が得られなくなります。
マウスピース矯正の不得意な動き
ワイヤー矯正に比べると矯正力がやや小さいので不得意な歯の移動があります。歯のねじれと歯の後方への平行移動です。噛み合わせの面から見て90度回転しているとか上の奥歯を更に後方へ平行移動させたい、とかは補助的な装置を併用する必要があります。しかしそれはワイヤー矯正でも同じです。
マウスピース矯正のルールが少しあります。
ワイヤー矯正を行っている時、自分で出来ることは矯正用のゴムを使用するとか、ブラッシングをしっかり行うということで装置自体に何かするということはありません。外すことはできませんから。しかしマウスピース矯正では自分で着脱を頻回に行うためその取扱いに関してルールというかコンプライアンスがあります。
しっかりはめ込む
適当にマウスピースを付けるのではいけません。しっかり歯に密着させないといけません。先ほど述べたアタッチメントというところにマウスピースがはまっていなければ、歯に力がかかりません。かからないということは歯が動かないということです。治療期間も延びます。予想外の動きになってしまうこともありえます。小さなチューブ、チューイーと言うのですがそれをマウスピースを装着して端から端まで2往復噛んで歯になじませてください。ガムのように噛んでください。できれば2~3分。
血流をよくする意味もある。
アタッチメントが付いているとハマりが甘くなります。弾力がなくなったり破損したら交換します。噛んでいる人と噛んでいない人では治療の進み具合が全然違ってきます。口周りの血流が20%促進されて歯が早く動くというメリットがあります。
装着時間について
食事と歯磨き以外の装着20~22時間、できれば22時間装着してください。24時間中22時間装着、2時間外していると、22ー2=20時間力がかかることになります。2時間分戻ろうとします。20時間だと20ー4=16時間 16時間だと16ー8=8時間 しか力がかかりません。ワイヤーだと24時間です。22時間装着する前提で治療計画を立案、マウスピースができています。マウスピースが合わなくなります。ご自身で管理していただかなければ治療が進みません。
ゴムの使用指示があれば必ず守ってください。
歯を動かすのには固定源が必要です。歯同士であることが多いです。歯を固定源とする場合、作用反作用が動かしたい歯、動かしたくない歯、それぞれにかかります。二人向き合って押し合いをして、動いたら負け、という遊びがありますよね。向こうを動かそうとすると向こうからもこちらに力がかかって押されます。向こうが一人で、こちらが後ろに数人いて支えてくれると向こうだけが押されます。でも僅かながらこちらにも力はやはりかかります。動かしたい力だけ働けばよいのですが(作用)要らない力を打ち消したい時に(反作用)矯正用のゴムを用いることがあります。治療の妨げ、不利益を無くすために使用していただきます。指示がある場合、必ず使用してください。
ただ付けるだけではなく、マウスピース矯正では守っていただく事項がいくつかあることをご説明させていただきました。よりよい治療結果を得るためにご協力ください。ワイヤー矯正を当院では行っていませんが向き不向きもあると思います。検討の一助にしていただければと思います。