歯科医院では歯科医と歯科衛生士、助手さんの協力しあい、歯科技工士さんの助力を得て歯科治療を行っています。歯科医師は法律の定める範囲において治療一般を行いますが歯科衛生士さんと連携しながら診療することで、効率的かつ効果的な治療と予防が行われていきます。患者さんの口腔の健康を最適に保つために非常に大切だと考えています。
衛生士さんの役割について
歯科医師は診断や治療計画の策定し、主に治療行為(虫歯の治療、歯の抜歯、義歯の作製、インプラントなど)を行います。歯科衛生士さんは、歯科医師が作成する治療計画に基づき、歯科衛生士は具体的な予防ケアや保健指導を実施します。歯科衛生士が定期的なケアを行う中で気づいた異常や進行中の問題(例えば、歯周病の悪化など)があれば歯科医師に報告してもらいます。歯科医師の診察の後、治療介入するのか、予防処置を継続するのかなど意見交換し今後の方針を決めていきます。一人ひとりに対する治療経過や今後の計画を共有し、医院として一貫した対応になるようコミュニケーションを図ります。患者さんに説明させていただくのはもちろんです。
診療
歯周病の予防 予防処置
簡単に言えば、歯垢や歯石の除去を行い、歯周病を予防するための処置をします。歯周病は歯周病菌によって引き起こされる炎症で歯を支える歯槽骨が吸収され、歯を失っていく疾病のことです。歯周病菌を少なくすることはできますが、ゼロにすることは困難です。口腔内に存在することで、体外からやってくる他の菌が住み着くことを防いでいる面があります。また、抗生剤を用いると、歯周病の原因となる病原菌を除去する一方で、通常は口腔内に存在し、他の菌の増殖を抑制する常在細菌も殺菌します。この細菌が減少すると、細菌バランスが崩れ、通常口腔内に低レベルで存在するカンジダ菌のような真菌(カビの一種)が増殖し口腔カンジダ症(カンジダ症)などの感染症を引き起こすことがあります。
歯周病菌は歯垢を足掛かりにする
ざっくりいうと粘着性の唾液と糖や炭水化物、細菌が入り混じってできているのが歯垢です。食事を摂るとどうしても出来ます。細菌は歯の表面で増殖し、互いに結びついてバイオフィルムと呼ばれる集合体を形成します。このバイオフィルムが歯垢の本体となります。バイオフィルムの中では、細菌が協力し合いながら保護され、外部の環境からの攻撃(唾液や歯磨きなど)に対して抵抗力を持ちます。歯垢は放置されるとどんどん厚くなり、酸を産生する細菌が増えます。これにより、歯垢が成熟し、歯周病や虫歯を引き起こしやすくなります。特に歯と歯茎の境目にたまる歯垢は、歯周病の原因となります。
歯垢の除去が歯周病治療の予防であり治療である
歯垢の無い状態を保つことが歯周病治療、予防において一番大切なことです。三度三度磨いていても、歯垢を除去できていなければ磨けていないのと同じです。歯に歯垢がどれだけ付いているかを調べる歯垢染め出し液を付けてみると、きれいそうでも磨けていない部分があります。磨き癖です。きれいそうでもバイオフィルムが残っているということですから、そこは定期的に、頻回でなくてもプロに除去してもらう方がよいのです。また歯ブラシだけでなくフロスや歯間ブラシなどの補助的清掃具を用いて100%に近い除去率をめざしてください。
歯周病のリスクを伝えてもなかなか響かない
綺麗な方はより高みを目指す傾向にありますが、そのような方ばかりではありません。歯周病に罹っている、または予備軍、の方に歯周病のリスクを減らすためには歯垢の除去が大切ですと伝えても、歯垢染め出し液を付けて歯垢の付着具合をみていただいても、歯ブラシの仕方や歯間ブラシの使い方などをご指導しても、今まで通り変わらないということもよくあります。グラグラしている歯が沢山あっても、抜けたら来ればいいですか、という方も少なからずいらっしゃいます。歯が抜けてしまって、あるいは抜くしかない状態になって不具合を感じてはじめて意識されるようです。
歯科のマメ知識を毎回患者さんに伝える
ヒトの行動変容を変えることはなかなか難しいことなのですが、少しでもきっかけになることがあればと思い当院では状況にもよりますが予防処置のあとにスライドを使って歯科の豆知識をお伝えしています。難しくないように、毎回内容が変わるようにしています。
歯周病と関連する全身疾患
内科や産科さんから、下記に該当するようになると歯医者さんに行きなさい、と言われることがあるかもしれません。妊娠以外はお付き合いしたくないものですから、お口のメンテナンスには普段から気を配っていただきたいところです。
心血管疾患(心臓病、脳卒中)
歯周病の細菌や炎症性物質が血流に入り込み、動脈硬化を促進する可能性があると考えられています。
糖尿病
糖尿病患者は免疫機能が低下し、感染に対する抵抗力が弱まるため、歯周病にかかりやすくなります。一方、歯周病の炎症が持続すると、体内の血糖コントロールが悪化することが分かっており、糖尿病の症状が悪化する可能性があります。
呼吸器疾患(肺炎、慢性閉塞性肺疾患)
高齢者や免疫力の低下した患者では、口腔内の細菌が誤って気管に入り込む誤嚥性肺炎が問題となることがあります。
妊娠と歯周病
妊娠中の歯周病は、早産や低出生体重児のリスクを高めることが研究で示されています。妊娠中の女性は、ホルモンバランスの変化によって歯肉が敏感になり、歯周病にかかりやすい傾向があります。
その他アルツハイマー病やリウマチ性関節炎とも関連されていると言われています。
歯周病以外の理由で歯の揺れることもある。
歯垢の除去による炎症の除去で歯を支える歯槽骨の吸収を止めることはできます。加齢による歯槽骨の吸収は止められませんが、炎症がなければ歯の揺れはさほどきつくなりません。ただし歯周病とあわせて、噛みしめがきつかったり、歯ぎしりが素因として揺れている場合、歯周病が改善しても歯の揺れは止まりません。
バイオフィルムを除去する
このように歯周病の予防、治療は患者さんに負うところが大きいのです。良くする、良い状態を続けるお手伝いをするのが歯周病治療です。とてもきれいに管理されている方でも、少なくとも半年に一度はバイオフィルムの除去とバイオフィルムが付着しにくいよう歯の面をツルツルにしておくことがよいのです。予防処置の期間は個人個人で状況により変化します。
正しいブラッシング法の獲得
歯周病の原因が歯周病菌とお話しましたが、虫歯は虫歯菌が歯垢を足掛かりにして酸を産生して歯を溶かしていきます。ですから歯垢の除去が虫歯予防に直結します。歯周病治療と同じいつもの歯ブラシで歯垢を取り切れてないところを定期的に除去、予防処置をしていくとよいでしょう。子供の時期に覚えた正しいブラッシングは一生にわたる財産になります。成長期は顎が大きくなります。歯と歯の間が空く期間ができます。虫歯の好発部位の一つは歯と歯の間です。子供の時期にフロスの使用も当たり前になる習慣づけがつけばいうことありません。親御さんによる仕上げ磨きも嫌がる年齢になるまで極力長く行ってください。
虫歯予防の処置
フッ素塗布
虫歯予防のためにフッ素を塗布することがあります。フッ素は萌出したての歯にとても有効です。加齢により歯茎がさがると今まで出ていなかった歯の根が出てきます。ですから高齢者の虫歯予防に用いることにも有効です。
シーラント処置
虫歯ができやすい奥歯の噛み合わせの溝の部分に、シーラントと言われる樹脂で埋めて磨きやすくして虫歯を予防するのが予防填塞です。
いずれの処置も、きちんと歯垢の除去ができていれば不要だと私は考えています。口腔清掃状態が良くなかったり、虫歯になりやすい傾向にあると判断した場合、衛生士さんに予防処置を指示します。
健診にいっているのに虫歯になったのは何故?
噛みしめによる歯の亀裂がきっかけになって虫歯になることもあります。ですからずっと虫歯が無かった方でもそのような理由で虫歯になることがあります。噛みしめのきつい方は口腔内にその兆候が表れているので、特に定期健診で確認していくことが大切です。今回は歯科における2大疾患である歯周病と虫歯における歯科衛生士さんの当院での役割についてお話しました。次回はそれ以外の診療や口腔指導についてのお話をしていきたいと思います。