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誕生日は加齢記念日
年齢を重ねるにつれ、唾液分泌量の減少、噛む力、飲み込む力の衰え、など口の機能低下が見られるようになり、放っておくと生死にかかわることもあります。若い時と同じではないと認識し、段階に応じた口のケアが必要になります。唾液が少ないと虫歯になりやすい、飲み込み時につくる食塊が作りづらくなる、潤いがないと飲み込みづらく喉にひっかかりやすい、などなど。
8020運動の意味
8020運動は80歳で20本以上の歯を保ちましょうという運動です。20本以上の歯を保つことが出来れば、健康で自立できる期間つまり健康寿命を延ばせるでしょう、というコンセプトのもと行われています。2016年には50%の方が達成されています。自分の歯を使ってリズミカルに噛むことが脳への刺激になります。認知症対策にもなると私は考えています。
こんなことはありませんか?
噛めない、噛みにくい食べ物がある
歯が抜けたまま放置している
滑舌が悪くなった
舌の表面がピンク色ではない
口臭が気になる。他人に指摘された
口が乾いている
飲み物や汁物でむせることがある
食事に時間がかかり、疲れる
歯と歯の間によく物がつまる
飲み込んでも食べ物が口に残る
食事を食べこぼすことがある。以前より増えた。
3つ以上該当する場合は口の機能が加齢により低下している可能性があります。ちょっと気を付けていきましょうというサインでもあります。加齢は避けようがありません。受け入れることが大切で、対処することで緩やかな右肩下がりにしていきましょう。人生100年時代、健康寿命を延ばして健康的な生活を維持するために口の健康管理に努めましょう。
口や歯の変化にはどんなものがあるのか
飲み込む力の低下
食べ物を噛んで飲み込む(飲み物を飲むことも含め)には舌や頬、喉など口周りの筋肉を使います。腕や足の筋力の衰えと同じくこれらの筋肉も衰えていきます。もちろん個人差もあります。口と鼻は喉の上部、舌の付け根あたりで合流して一つになります。しばらく下に進んで気管と食道に分かれます。食道には食べ物、期間には空気がそれぞれ間違いなく流れ込むように、電車のポイントのような筋肉があります。その筋力が衰えると、飲食物が誤って気管に入ってしまうとむせます。常態化してくると誤嚥性肺炎を引き起こします。むせるにも筋力が要ります。間違って変なところに飲み物や食べ物が入ってむせた経験はありませんか?結構力がいることはご理解できると思います。この力も衰えていきます。
噛む力の低下
歯がグラグラして噛みづらい、歯の本数が減っている、入れ歯が合わない、などがあると食べ物が噛み砕きにくくなります。食べ物を噛んで、摺りつぶして、飲み込みやすい形の塊にして(食塊)嚥下するのですが、噛み砕きにくい状態だと他の消化器官にも負担はかかりますし、飲み込みにくいし、食事は美味しくないとおもいます。食べる意欲が低下すると栄養が十分に摂れなくなって、全身状態にも影響がでてしまうことも懸念されます。
舌の機能の低下
舌は、噛み砕いた食べ物を飲み込みやすい形にする主役です。そしてその食塊を口から喉へ送る重要な働きをしています。この動きは非常に複雑です。舌は発音の主体ともいえる働きもしています。滑舌が悪くなるのは、舌の動きが思うように動いていないことが原因であることが多いです。舌の上には味蕾という細胞が1万個ほど存在していて、味を感じています。その数も加齢と共に減少するので味わうという面でも変化は起こります。
唾液分泌量の低下
加齢に伴い唾液を分泌する唾液腺の細胞が減少するため、唾液が分泌されにくくなります。唾液にはサラサラな唾液と粘着系の唾液があり、サラサラ系の唾液を出す唾液腺の細胞の減少が顕著です。また何らかの慢性疾患のために服用している薬の影響でも唾液分泌量が減ることもあります。噛む刺激で唾液分泌されますが、噛む力が低下すると刺激されませんから唾液も出づらくなります。そうすると、口が乾く、食事しづらい、発音しにくい、などの症状が現れます。
歯茎が下がる、歯と歯の間に物が詰まる
歯茎は加齢と共に下がっていきます。歯茎が下がるのは、歯茎の中にある歯を支える骨(歯槽骨)が下がるからです。加齢だけが歯茎を下げるのではなく、歯周病でも歯茎は下がります。一旦歯槽骨が下がると元に戻っていくことはないです。ですから下がった歯茎も元には戻りません。歯周病でもそうです。隙間を埋めることは被せ物をしても変えることはできません。不自然な形になりますし、却って歯周病の原因となる歯垢の除去が難しくなるからです。歯と歯の間にものが詰まるのはやむを得ないことです。詰まったままにしておくと虫歯や歯周病の原因になりますから、歯間ブラシでしっかり取り除くようにしましょう。
歯がすり減る しみる
長年使用している歯ですから、食べ物を摺り潰したり、歯ぎしりすることで歯が削れてきます。知らず知らずに噛み合っている部分の歯の表面を覆うエナメル質が擦りきれてきて、その内部の象牙質が露出してきます。歯ぎしりや噛みしめで歯と歯茎の境目付近がえぐれるように削れることがあります。(これをくさび状欠損と言います。)歯のすり減りが原因で知覚過敏を引き起こします。また象牙質はエナメル質に比べ虫歯になりやすく虫歯になりやすい環境になります。きつい噛みしめで歯が根元から折れることもあります。
認知症との関係
残存している歯の数が、筋力や聴力、肺機能、栄養低下に相関されていることが報告されています。認知機能についても残存している歯の数が少ないほど、記憶機能の要である脳の海馬付近の側頭葉、前頭葉の容積の減少が認められているとの報告があるようです。また歯周病によっても動脈硬化性変化を引き起こし、脳血管性認知症の原因になる可能性があるとされています。
お口の加齢対策
年齢と共に認知症は気になるところです。先のことは誰にもわかりません。少しでも健康寿命を延ばすためにできることはきちんと噛める環境を作ることだと思います。
セルフケア
自分で毎日行う効率的なブラッシングをする、です。皆さんブラッシングはされていると思いますが、100%歯垢除去はできていると思っていますか。電動ブラシだからできている、というわけではありません。歯と歯の間の歯茎が下がっていくと、どうしても歯垢の完全除去がしづらくなります。そこをフロスや歯間ブラシを用いて歯垢の除去に努めましょう。壮年期のうちから歯間ブラシやフロスを使う習慣をつけておくことがとっても大切です。毎食後ブラッシングするのが理想的です。が、忙しい時間には無理でも、就寝前には補助清掃具を使う癖をつけてください。歯磨剤は少なくて良いですが、フッ素入りの物を選ぶとよいでしょう。歯の根の部分が口の中に出てきて虫歯になりやすいからです。(一種の生え始めになるからです。)歯垢を除去することが歯周病の予防であり治療です。毎日の努力が虫歯や歯周病の予防に直結しています。
プロケア
それでもどうしても歯垢の取り残しの部分が出てきます。磨き癖や歯の形態と歯ブラシの形の死角が出てくるからです。毎日のお手入れが何より大切なのですが、文字通り手の届かないところにはプロによる予防処置が必ず必要です。少なくても3~6か月おきの予防処置、お口のメンテナンスを受ける習慣をつけておくことも、セルフケアと同じく大切なことです。
あいうべ体操
口の周りの筋力低下を防いでいくために、口周りの筋トレをしましょう。特別大変なことをするわけではありません。あいうべ体操をしましょう。声は出さなくてよいです。お風呂かトイレなどの隙間時間でよいです。毎日30回ちょっと大げさに、あ、い、う、べ、を発音するような口の動きをすればよいだけです。地味なことですが継続は力なりです。美顔効果、感染予防にも効果があると言われています。
入れ歯のお手入れ
不幸にして歯を失った場合、入れ歯をされているかもしれません。入れ歯にも汚れは付きますし歯石も付きます。清掃不十分だと口臭や金具のかかっている歯の虫歯の原因にもなります。せめて1日1回は歯ブラシで汚れを取り、週に1~2回は義歯洗浄剤を使ってしっかり汚れを落としましょう。
インプラントの検討
失われた歯がある場合それ以上歯を失わないため、義歯やブリッジを選択せずインプラントを選択することも検討に値します。義歯だと金具のかかる歯に負担が、ブリッジは土台となっている歯に負担がかかり、歯の寿命が短くなります。少しでも長く自分の歯を持たせるため、残りの人生の長さと照らし合わせると初期投資はかかりますが良い選択だと思います。
噛みしめ対策のマウスピース
噛みしめによる歯の破折、知覚過敏対策、歯のすり減り防止の観点から、歯ぎしり用のマウスピースを夜間使用すると良いでしょう。マウスピースを嵌めて寝ますから抵抗があるかもしれませんが、噛みしめのきつい方にはそれが当たり前になっておくと歯を失わないばかりか、噛み合わせの高さを維持することに有効です。認知症の原因のひとつとして、噛み合わせの高さが低くなること、が考えられています。
壮年期から、加齢による機能低下への対策を打っておくこと
これらのことに早期から取り組むことが、健康寿命を延ばし認知症対策になると私は思っています。