1歳8か月や3歳児歯科検診で指摘をされて、不安になって受診されることが少なからずあります。正直なところ、小さい時期に癒合歯そのものに対して出来ることはありません。ですが、癒合歯があることで起こり得る不具合もあるので、述べていきたいと思います。
目次
癒合歯とは
2つの歯がひっついて、1つの歯になっていることがあります。これを癒合歯(ゆごうし)と言います。2本の歯が歯胚(歯のたまご)の段階で融合してしまうことで、1本の歯として現れる歯の異常です。
好発部位
下顎の真ん中の前歯と奥側の隣の歯、子供の犬歯と前側の歯、であることが多く、奥歯に癒合歯はほとんどありません。上顎にも現れることもあります。左右対称で現れることも、片側だけのこともあります。癒合歯は特別なことではありません。乳歯は基本的には中学生くらいまでにすべて永久歯に交換していきます。乳歯1本に対して永久歯1本が生え代わるのですが、癒合歯になっていると本来2本の乳歯が1つになっているので、永久歯も2本あるべきところが1本になっている可能性があります。もちろんちゃんと永久歯が2本のこともあります。
代わりに生えてくる永久歯があるかないかの確認は大きくなってから
乳歯が癒合歯とわかって、永久歯があるかどうかの確認はすぐには行いません。というかできません。レントゲンを撮らないとわかりませんが、小さすぎて赤ちゃんですからレントゲン撮影できません。また永久歯のたまご(歯胚)が下顎の中に出来始めるのは、一般的に生後6〜12ヶ月の間ですから、仮に撮影したとしても歯胚を確認できるか微妙です。確認して、仮に永久歯が無かったとしても、この時期にできる治療は何もありません。
癒合歯があると、顎の成長に気をつけましょう
歯の数が足らないと顎は歯の数に合っただけの大きさにしか成長しない傾向にあります。親知らずを除くと歯は本来上下それぞれ14本ずつあります。上が14本、下が13本とか12本だと、上下の顎の大きさのバランスが崩れて下顎が小さくなる傾向があります。上顎が普通でも下は小さめですから見かけ上、出っ歯みたいになります。数が足らなくても歯並びがよいと出っ歯かどうか判断しにくいです。上下奥歯でしっかり噛んだ時に下の前歯が見えない、あるいはちょっとしか見えないのは、下顎が小さいという目安になります。本来はしっかり噛んだら下の歯は、乳歯ならほとんど見える、大人なら少し隠れるのが普通です。(上顎が小さいと更に下顎が引っ込みます。)
顎の大きさを大きくする
もし永久歯の数が足らないと顎が大きくなりにくい傾向にあるので、顎を大きくしないといけません。これは癒合歯の有無にかかわりません。上顎の劣成長が原因で歯並び、噛み合わせのよくない子供がめちゃ増えています。八重歯とか、歯並びの悪い子供を見ませんか?乳歯の歯並びに隙間がなくて、キチキチに生えている幼児を見ませんか?歯の大きさはそんなに変わっていません。それは顎が小さくなっているのです。顎が大きくならないのは哺乳環境、離乳食の与え方に問題があるからだと私は考えています。
哺乳は顎を大きくするための訓練でもある。
生まれた赤ちゃんは母乳あるいはミルクから栄養を摂ります。このときどのようにして栄養を摂取しているでしょうか。口を動かして摂取しようとしますよね。生きるための本能です。唇、舌、上あご、頬、顎堤(歯茎)を駆使して乳首から母乳あるいはミルクを摂取します。これらの器官を使うことで咀嚼(噛む)嚥下(飲み込む)ことの訓練をしているのです。特に舌を持ち上げて乳首を挟み込むことが上顎の上方向、横方向に刺激を与えることが成長を正しい方向、すなわち大きくするエンジンになるのです。脳にも刺激が伝わりますしそれが脳の活性化につながります。
吸いやすいと訓練にならない
努力せずに哺乳できると、何の訓練にもならないし、成長によい影響を全く与えません。母乳が出やすい方は搾乳して、力を入れないとミルクの出ない哺乳瓶を用いることをお勧めします。極端に言えば点滴で栄養は摂れますが、それで顎はしっかり大きくなるでしょうか?脳に刺激が伝わるでしょうか?哺乳することは栄養のためばかりではないのです。出来るなら哺乳期間は長いとよりよいです。日本の断乳時期は世界に比べ圧倒的に短いです。短くなった筋トレ期間は、離乳食を正しく行うことで補わねばなりません。これが大変です。哺乳は母親にとっては大変ですが、離乳食を正しく行うには根気が要ります。哺乳期間よりも長いですから。
正しい離乳食の与え方
早く食事を済ませたいので、ついついスプーンを奥に差し込み食べ物を置いてくる、なんてことは絶対ダメです。上唇に食事を置き、自発的に唇が閉じるのを待ちます。これが正しい離乳食の与え方です。これを続けていくのです。一口量を覚える、飲み込みを覚える、舌や唇の使い方を覚える。これらのことを正しく覚えることが顎を大きく前に成長させることに繋がります。三つ子の魂百まで、一生にかかわることです。
歯の数が足らなくてもやることは同じ
先天的に永久歯の数が少なくても、小さい時期に行うことは、顎を大きくするためのことをすることです。正しい哺乳をする、正しく離乳を与える。もう少し大きくなってくるとMFT(筋機能療法)を行います。(前歯のチューブ噛み、あいうべ体操、ぶくぶくトレーニングなど。)先天欠損歯は特別なことではありません。歯が足らないところも、該当する歯が萌出できるスペースを小さいうちから確保できるよう顎を大きくしておく。成人になったらインプラントで補えばよいのです。心配はわかりますし、責任を感じてられるかもしれませんがあまり深刻に考えないでくださいね。
癒合歯が原因で永久歯の数が足らない時はどうするのか
空いてしまったスペースは成長が終わってからインプラントで補うのが基本線です。
多感な時期に見える部分が空いているのは心理的負担があるかと思いますが、成長期に一歯分空いているスペースを埋めることはしません。顎が大きくなっている時期に、歯を削って隙間を埋めるブリッジの対応はできません。義歯で対応することは出来ますが、顎は大きくなっていきますから頻回に作りなおすということになるでしょう。成長が終わってからインプラント治療を行い、他の歯に負担をかけないようにするのがベターです。何と言ってもこれから何十年の人生があるわけですから、一時的にすきっぱの時期が出るのはやむを得ないと考えます。
永久歯の先天欠損
他にも永久歯が足らないということがあります。
他のお子さんや兄弟と比べて、生え変わるはずの乳歯がなかなか抜けない、ということでお見えになることもあります。生え代わりには個人差があるので、大抵代わりの永久歯はあるので生えることがほとんどです。ただ年齢的に、あまりに遅すぎる乳歯の残存や乳歯が全然揺れていない場合には後継永久歯がないことを疑いレントゲン撮影します。そうすると本来あるべき永久歯が存在しないことがあります。これが永久歯の先天欠損です。
一般的な好発部位は
永久歯の先天欠損(先天的に歯が欠如している状態)は、特定の部位でよく見られる傾向があります。以下のような場所があります
1.上顎の側切歯
上顎の真ん中の前歯の隣に位置する歯に比較的よく見られます。側切歯の欠損は、先天的にないと真ん中の歯の横が犬歯になります。
2.下顎の第二小臼歯
下顎の第二小臼歯(乳歯の一番奥の歯の代わりの永久歯)も先天的に欠損することが比較的よくあります。
3.上顎の第二小臼歯
上顎の第二小臼歯も欠損することがありますが、下顎の第二小臼歯ほど多くはありません。
先天欠損にどう対処するか
2と3については、乳歯が抜けるまではそのまま大事につかってもらうようにしています。すべて揃った永久歯の上下の噛み合わせと少しずれは出ますが、しっかりしているのをわざわざ抜くのももったいないと私は考えているので、使えるだけ使うというスタンスです。少なくても成長期の間は頑張ってもらえれば、ダメになったらすぐにインプラント治療に取り掛かれます。1に2や3と違い、乳歯が抜けてしまうことが多く、隙間が空いたままになってしまいます。上顎側切歯に先天欠損については、乳歯の癒合歯の時と同じように、生えてくるはずだった永久歯の幅を成長期の間、確保するように顎を大きくして、すきっぱの時期はありますが、成長が終わったらインプラント治療するのがよいと考えています。
心配されるかもしれませんが、その後の手立てはあります。顎の発育には期限がありますから、成長期に顎が十分発育するよう次を見据えた治療を検討してください。