目次
予約する理由
歯に黒いところがあるので治療をしてほしい。
歯が滲みるので虫歯かと思うのでみてほしい。
虫歯のような痛みを感じるのでみてほしい。
虫歯だったら早めに治療、という認識をお持ちですので素晴らしいと思います。その通りで早期発見早期治療が治療介入を最小限に抑えられるのです。お見えになって診査診断した結果、早期の虫歯になっていることもあります。結構進行していることもあります。何もなっていないこともあります。知覚過敏のこともあります。必要に応じて処置をしていくのですが、歯の溝が黒くなっていても私は治療をせず経過を見ていくことがあります。黒いのに治療しないのですか?虫歯ではないのですか?と不安に思われる方もあるでしょう。厳密に言えば虫歯ですが、経過観察する理由もあります。
歯の構造
一本の歯の構造についてご説明していきます。口の中に出ている部分と歯茎の中に埋まっている歯根です。簡単に説明させていただくと
歯冠(しかん)
歯の見える部分で、口腔内に出ている部分です。歯冠はエナメル質(えなめるしつ)という硬い物質で覆われており、食べ物を噛むための役割を担っています。エナメル質は薄くて、すり減ってくると象牙質という組織が出てきます。
歯根(しこん)
歯冠の下の歯茎の中に隠れている部分です。歯根の大半は象牙質(ぞうげしつ)と呼ばれる硬い組織でできており、歯を支える役割を果たしています。
歯の組織的な構造を説明します。少し細かな説明になります。
エナメル質
歯の一番外側を覆っている硬い組織で、主にリン酸カルシウムから成り立っています。エナメル質は非常に硬く、歯を保護してくれますが、一度損傷すると自己修復することができません。(歯磨剤の広告でアパタイト、という言葉をお聞きになったかと思いますが、歯を構成する無機質のことです。アパタイトは主にリン酸カルシウムで構成されています。)
象牙質
エナメル質の下にある組織で、歯(歯冠、歯根の両方)の主要な部分を占めています。主にヒドロキシアパタイトから成り立っており、エナメル質と比べるとやや柔らかいですが、歯冠や歯根の両方に存在します。
セメント質
歯根を覆っている組織で、象牙質の外に薄く一層あります。歯を歯槽骨に固定する役割を歯根膜という組織と一緒に果たしています。
歯髄(しずい)
歯の中心部にある柔らかい組織で、神経や血管が通っています。歯髄は歯の感覚や栄養の供給に重要な役割を果たしています。
これらのうち滲みるとか、痛いとかを感じるのに関与しているのは象牙質と歯髄です。象牙質には神経は通っていませんが、知覚センサーみたいな役割を果たしていると言われています。
虫歯の進行について
虫歯の発生
虫歯は、口の中の細菌が食べ物の糖分をエネルギー源として利用し、その過程で産生される酸によって歯の硬い表面であるエナメル質が溶け出すことから始まります。この過程を酸蝕(さんしょく)と呼びます。歯ブラシがきちんと出来て、食渣や歯垢が取り除かれると細菌はエネルギー源を失うので最近活動が抑制されます。
初期虫歯 C1
酸によってエナメル質が溶けることで、歯の表面に小さな穴が開きます。これが初期虫歯と呼ばれる段階で、まだ歯の内部まで達していないため、痛みを感じないことがほとんどです。エナメル質内の虫歯になります。
象牙質内に進行した虫歯 C2
初期虫歯が進行していくと、細菌が象牙質に侵入し、侵食が始まります。象牙質はエナメル質よりも柔らかいため、細菌による侵食が進みやすいです。
歯髄に進行した虫歯 C3
虫歯が象牙質の奥深くまで進行すると、歯髄(しずい)と呼ばれる歯の中心部にある神経や血管が細菌感染し、炎症を起こします。これにより、強い歯の痛みや過敏に悩まされることがあります。ズキズキしたり、熱い物や冷たい物、甘い物に滲みたりします。一過性に済んでいれば神経を残せる可能性がありますが、ずっと痛みが続く場合には神経を除去することになります。
根の部分の感染 C4
虫歯がさらに進行すると、歯根の先端部分や周囲の骨にまで感染が広がることがあります。この状態では、根管治療が必要になります。歯質の崩壊状態や痛みや化膿具合によっては抜歯になります。
虫歯の進行は放置すると、口の中の細菌が歯の組織を破壊し、最終的には歯を失う原因にもなります。早期に虫歯を発見し、治療することで、歯を守ることができます。また、定期的な歯科健診や適切な歯のケア(歯磨きやフロスの使用)が重要とされるのです。
髪と爪とエナメル質は同じ?
初期虫歯であるC1はエナメル質に限局した虫歯です。エナメル質は知覚を感じるセンサーがありません。爪や髪の毛そのものに痛みを感じません。爪をはがそうとしたり、髪を引っ張ったりすれば痛みを感じますが、爪や髪に傷がいったくらいでは何もしないと思います。エナメル質がそれらと違うのは再生されない点です。(爪や髪は伸びます。)すり減ったらそのままです。
見た目が黒くても治療しないことがある
虫歯になると一方通行のように進んでしまうと考えますが、虫歯の進行が停止することもあります。ものすごくゆっくり進行するもの場合もあれば、子供のように進行が比較的早い場合もあります。加齢と共に進行のスピードは緩くなることが比較的多いです。エナメル質は象牙質に比べて硬いので口腔清掃状態がよければ、また虫歯のリスクが比較的低いと考える方は(虫歯治療がほとんどされていない方など)経過観察し、虫歯の進行があった場合に治療することに私はしています。ですから定期健診は必須ですし、検診毎のレントゲン診査も必要になってきます。また治療になっても、小さく詰めて終わることができます。
レントゲン撮影の被ばく量について
一般的な歯科用X線撮影(パノラマX線など)で約0.005ミリシーベルト(mSv)です。小さい局所的なものではもっと小さくなります。(ちなみに歯科用CTスキャンは約0.01 – 0.1 mSv)普段の生活での自然放射線被ばくは、1年間の平均的な自然放射線被ばく(外へ出た時)で約2 – 3 mSv室内での放射線被ばく(建材や土壌からの放射性物質)約0.3 mSv/年飛行機に乗った時の被ばく量は、1時間の国内線のフライトで約0.01 – 0.02 mSv、1時間の国際線のフライトで約0.03 – 0.08 mSvです。これらの数字を比較すると、レントゲン撮影による被ばく量は非常に少ないことがわかります。例えば、一般的な歯科用X線撮影の被ばく量は、数分で0.005 mSv程度ですが、同じ時間飛行機に乗った場合の被ばく量は、その倍以上となる場合があります。難しい数字が並びましたが、短時間での少量の被ばくですから検診毎のレントゲン撮影を行っても安全性が確保されていますのでご安心ください。
奥歯には虫歯の進行止めを利用することもあります。
初期の虫歯には進行止めを用いることもよくあります。フッ化ジアミン銀という薬なのですが効果として
殺菌作用
フッ化ジアミン銀には強力な殺菌作用があり、口腔内の病原菌(特に酸を生成する菌 虫歯菌)の増殖を抑えます。これにより、虫歯の原因となる細菌の数を減少させる効果が期待されます。
再石灰化促進
フッ化ジアミン銀は、歯の表面にフッ素を放出することで、エナメル質の再石灰化を促進します。再石灰化は、初期の虫歯損傷を修復し、歯を強化する効果があります。
持続性がある
フッ化ジアミン銀が歯の表面に付着し、持続的に作用するため、一定期間内で虫歯の進行を抑えることができる可能性があります。
デメリットもある
初期虫歯にはなかなか良さそうなのですが、デメリットとして歯に黒や茶色の変色が現れます。何でもそうですが、一部では効果が見られない場合もあります。
フッ化ジアミン銀の使用は主に初期の虫歯や発生したばかりの小さな虫歯に対して有効と私は考えています。経過観察を続け、必要なければ更に経過観察、進行しつつある虫歯に対しては、詰め物による治療を行う。不必要な治療は避けるべきで、なるべく治療介入せず済ませたいと思っています。
削らずに済んだ、もう行かなくていいや、ではだめですよ
くれぐれもですが、虫歯は虫歯です。進行が停止しているからと言ってこれから先もずっと止まっているかどうかはわかりません。食生活含めた生活習慣の変化、ストレス、加齢、嗜好の変化などなど。初期虫歯の経過観察が必要と言われた方は必ず定期健診に行かれてください。休火山もいつ噴火するかわかりません。高をくくっていると、しっぺ返しがあるかもしれませんよ。