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数字から読み取る
厚生労働省の「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」にある「補綴物の装着の有無と各補綴物の装着者の割合(15歳以上)」 を下記に記しました。左が、「補綴物を装着している人」の割合で、右がそのうち、「インプラントを装着している人」の割合です。補綴物とは被せ物、ブリッジ、義歯などのことを指します。インプラントも土台を入れてから被せ物をしますからこの範疇に入ります。
・15~19歳 0% 0%
・20~24歳 0% 0%
・25~29歳 2.6% 2.6%
・30~34歳 6.7% 1.3%
・35~39歳 6.0% 0%
・40~44歳 11.2% 0%
・45~49歳 14.5% 0.7%
・50~54歳 31.0% 3.2%
・55~59歳 40.1% 2.9%
・60~64歳 51.4% 4.5%
・65~69歳 53.6% 3.6%
・70~74歳 74.8% 5.9%
・75~79歳 77.5% 3.9%
・80~84歳 90.1% 4.9%
・85歳以上 86.7% 2.9%
全体 49.6% 3.2%
年齢が上がるにつれ、補綴物を装着している割合も上がっていきます。40代から50代で倍増、50代から60代、60代から70代で1,25倍と、年代の変わり目に大きく数字が上がっていきます。インプラントは歯が失われた部分に施術するものです。数字をみていると、30代周辺でインプラントされている方がいらっしゃいます。残念ながら早くに歯を失ってしまったのでしょう。ブリッジでなくインプラントを選択されている方が少なからずいらっしゃるのにはホッとします。そこから人生はまだ50年あります。長持ちさせるのに、歯はなるべく削らない方がよいのです。ブリッジは失われた歯の前後の歯を大きく削らないと出来ない処置ですから、どの年代でもできれば避けたい処置です。
インプラントの割合は、かなり少ない
どの世代もインプラントの割合は少なく、6%に満ちません。保険の適応ではありませんから、当然といえば当然ですよね。多くの人は、ブリッジか義歯を選んでいます。50代になるまでのインプラントの割合はとても低く、おそらく教育費との兼ね合いではないかと思います。やむを得ないとは思いますが、そんな時期でもブリッジは選択せず、不便を感じるでしょうが、なんとか義歯を選択して健全な歯を削らずにいて欲しいと思います。その時期を乗り越えると自分の健康へかけられるようになるのではないでしょうか。人生あと30年以上あります。できるだけ自分の歯を残すことが老後を健康に過ごすことに直結しています。
世界のインプラント事情
ストローマンの「Straumann 2020 Annual Report」にある、「Implant penetration: Patients treated annually」によると、成人人口1万人あたりのインプラント患者数ランキングは、以下の通りです。ストローマンというのはスイスに本拠を置く世界最大規模のインプラントメーカーの一つです。
- 韓国
- スペイン
- イタリア
- ドイツ
- オーストリア
- ブラジル
- トルコ
- スウェーデン
- スイス
- アメリカ
- ロシア
- オランダ
- イギリス
- 日本
- 中国
- インド
日本は14位でした。意外ですか?そんなものでしょうか?グラフからざっくり読み取ったので正確な数字はわかりませんが、成人人口1万人あたり、およそ20~30人です。それに対して、
1位の韓国は500人弱、
2位のスペインは200人強、
3位のイタリアは100人強、
と、日本の数倍~数十倍のインプラント患者がいます。ほかの国も100人前後が多いので、日本は世界的に見ても、インプラントが普及していないことがわかります。逆にお隣の韓国の数字は突出して多いです。韓国ではインプラント治療が2014年から保険に適応されています。65歳以上で1人2本までが健康保険の対象のようです。インプラント治療できる診療所も、国産インプラントメーカーも共に多く、技術面でも生産面でも切磋琢磨しています。デジタル化がかなり進んでいて、デジタルツールを駆使したインプラント治療を行っており、日本よりも先進的な面を有しています。美容、韓流ドラマ、映画、携帯などと同じように、世界に向けての一点突破的な分野なのかもしれません。
なぜ日本はインプラントが普及してないのか
保険で認められていないからだけでしょうか?看板広告で超有名な、東京都八王子市のきぬた歯科さんによる「男女500名に聞いたインプラントに関するイメージ調査」がありましたのでご紹介します。
「インプラントにどんなポジティブなイメージを持っていますか?」
・見た目(42.2%)
・費用(35.8%)
・食事ができるようになる(27.4%)
・長持ち(24.4%)
・芸能人がやっている(17.0%)
・治療期間(15.0%)
・精神的にいい影響がある(14.4%)
・健康になる(10.2%)
費用がポジティブ?良いものを提供してくれるだろうという期待の裏返しなのでしょうか。治療期間も、インプラントと骨のくっつく期間、そこから土台を立てて、型取りをして、となりますから診断から完成まで早くても3~4か月はかかるのが一般的です。ブリッジや義歯よりも時間はかかるのですが、どうなのでしょうか。見た目がよい、食事しやすい、長持ちする、精神的に良好、健康を取り戻せる、は全くその通りです。
「インプラントにどんなネガティブなイメージを持っていますか?」
・費用(71.2%)
・メンテナンスが必要(36.2%)
・痛い(20.0%)
・治療期間(19.6%)
・感染症のリスク(18.4%)
・噛む感覚が自分の歯と違う(17.4%)
・持ちが悪い(11.8%)
・見た目(6.2%)
やはり費用が一番のネガティブ要素ですね。保険診療ではできませんから。インプラント治療は入れたら終わりではありません。自分の歯でも抜歯になったのです。人工の物を長持ちさせるには自分の歯以上に手をかけないといけません。天然の歯には歯根膜という組織がついていて、噛む力の加減や感染からの防御などの役割を果たしています。インプラントには歯根膜がついていません。噛む感覚が天然の歯と違うのはそのせいです。歯根膜がないので必ず噛み合わせの調整、インプラント周囲の汚れの徹底的な除去がずっと必要です。定期健診にお越しいただけない方はインプラント治療されない方がよいです。長持ちさせることができませんから。痛みに関しては、幸い今までおっしゃった方はありません。基本的にフラップレスという切開をしない治療を行っているからです。切開が必要な症例では腫れや痛みが出る可能性はあります。
将来自分の歯が少なくなったら、どんな治療をしたいと思いますか?
・入れ歯(37.0%)
・インプラント治療(34.4%)
・差し歯(34.0%)
・ブリッジ(21.4%)
・治療しない(13.6%)
・その他治療方法(7.6%)
差し歯は、歯の根の残っている場合に行うもので歯を失ってはいない時にできるものです。進んで入れ歯を望む方はいらっしゃらないと思います。やはり異物感はあると思いますし、(慣れるとそんなことはありませんが慣れるまでは)歯と同じではありません。インプラント治療が34.4%とは、かなり高い数字ではないかと思います。「費用はネックに感じるけど、折り合いがつくならインプラントをやりたい」。というのが本音ではないでしょうか
インプラントは、お値段以上の価値があります
インプラントには歯根膜がないから、歯と同じではないとお伝えしましたがそれでもかなり歯に近い感覚は取り戻せます。それは直接骨に植わっているからです。義歯の場合、噛む力は粘膜に伝わり、そこから骨に伝わります。粘膜は軟組織です。押すと弾力を感じますよね。噛む力が直接骨に伝わるか、間接的に伝わるかで感覚は大きく変わるからです。ブリッジにすると失った部分にかかる力を残りの歯が受けることになりますから、負担が多くなってオーバーワークになり歯を早くに失う原因になります。ですからブリッジは歯を残すことと逆行する治療と言えます。義歯も同じですが、歯をあまり削らなくて済むメリットがあります。ただし見栄えの問題、違和感の問題、心理的な若々しさを失う、などのデメリットが多くあります。費用の問題はありますが、デンタルローンや医療費控除などを上手く使えば負担を軽減することができます。インプラントを第一選択に考えてみてはいかがでしょうか。