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シーラントした方がよいのか、しなくてよいのか

2024年5月16日

以前にシーラントの是非についてコラムを書いたのですが、虫歯の予防、特にシーラントについて思うところをつらつらと書いてみようかと思います。

奥歯の形

虫歯になりやすい場所はどこかと言えば、噛み合わせる面、前の歯と後ろの歯が接触している歯と歯の間、それから歯の根の付け根。この三か所になります。奥歯の歯の噛む面はツルツルの平面ではなく、歯の中央に前後と頬舌方向に溝があって外側に向かって高くなっています。山奥の渓谷に当たる部分が溝に相当します。

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噛み切るのに平面は不利

何故真っ平らでないかというと噛み切るのに不便だからです。角材を二つ上と下にして、その間に軟らかいものを挟んで摺りつぶそうとすると、切れずに伸びますよね。切れないと思います。杵と臼、餅つきの映像で見たことあるかと思います。臼に軟らかいものを入れて、臼で叩く、前後左右にこねる、ことをすると、さっきよりは切りやすく早く細かくできると思います。奥歯は臼と杵の関係を具体化した形なのです。

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前歯の形

ちなみに前歯の形はシャベルのような形になっています。前歯は摺りつぶすという機能は備えておらず、切る、噛み切る、といった機能に特化されています。奥歯が失われて、入れ歯やインプラントなどが入っていないとヒトは前歯で摺りつぶそうとします。でもそのような機能はありませんから食材を小さく噛み砕くことはできません。そのまま胃に流し込むことになりますから胃にも負担はかかるし、上手く栄養を取り入れられないのは自明の理ですよね。前歯には奥歯のような溝はほとんどありません。

凸凹あると磨きにくい

ツルツルの平面であれば汚れが付いていてもふき取りやすいですよね。逆にふわふわの絨毯だと、奥に入った汚れを取り切るのはとても大変だと想像がつくと思います。ちょっと極端な書き方をしていますが何となくご理解いただけるでしょうか。凹凸のある方が平面よりも掃除はしにくいのです。歯でいうと頬側や舌側のツルっとした面は清掃しやすく、溝のある面は清掃しにくいのです。

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歯は不完全な状態で萌出する

歯は萌出時、完成された状態で生えてきません。大きく見れば歯の根っこは完成していません。萌出してからだんだん根は成長して完成します。小さくみれば、歯の結晶は歪んでいて、口腔内の劣悪な環境の中で鍛えられて、結晶は正しい形になっていきます。その時に有用なのがフッ素ですね。それは後述します。結晶が歪んでいるとは、外部に対して抵抗力が低いということです。

劣悪な環境とは

唾液1gには1億~10億個の細菌が、歯垢1gには1000億個の細菌がいます。ちなみに糞便には100億~1000億個です。歯垢の菌濃度は糞便に匹敵するわけです。歯垢は食事を摂取する以上、どうしても産生されます。砂糖や調味料を使わない、原始時代の食事、あるいは野生動物と同じ食事をすれば歯垢の産生量を抑えられるでしょうけれど、机上の空論です。口腔内細菌は身体にとって良くない影響を少なからず及ぼしますが、共存してくれることで、それ以上に悪さをする細菌の侵入を防いでくれているのです。まあ必要悪みたいにお考え下さい。

虫歯になりやすい場所は奥歯

萌出直後は歯の結晶が歪んでいて壊れやすい

凸凹になっていると磨きにくい。汚れをとりにくい。(歯垢が残りやすい)

小さいお口の中で奥歯は磨きにくい場所にある

これらのことから、奥歯は虫歯になるリスクが高いのです。前歯は構造的に歯の形は平らな面で構成されていて、前にあるので磨きやすいです。虫歯になるリスクを軽減するのが予防処置で、代表的な二つがフッ素とシーラントです。

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シーラントとは

簡単に言えば、深い溝に材料を入れて浅い溝にして、歯垢を取り除くのに磨きやすくすることです。溝が虫歯になっていたら虫歯を取り除いて治療して、詰め物をします。当然その詰め物は取れないようにします。シーラントで溝を埋める場合は虫歯ではありませんから削りません。すぐ取れても困るので、削りませんが歯の表面に化学的処理をして、溝に薄く材料を入れます。しばらくしてから取れることもありますが、取れても問題はありません。萌出したての、虫歯になりやすい時期を越えていて、きちんと磨けるようになっていればシーラントとしての役割は終わりだからです。

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温室育ちと野生育ち どちらで育てるか

先程記載しましたが、口腔内は決して歯にとっても良い環境ではありません。ですがお手入れをきちんと出来る状態を続け、萌出したての虫歯のなりやすい時期を乗り越えると、耐う蝕性が増し虫歯になりにくくなります。年齢を重ねると歯茎が減って歯の根っこが出てきます。出てきて間もない部分は虫歯になりやすいとお話ししましたが、高齢者の虫歯は大抵は歯の根っこです。噛む面はあまりみかけません。シーラントしてある部分、溝の深い部分はシーラントで保護されているのでなかなか鍛えられません。それでも年数が経っていれば徐々に周囲の歯質から鍛えられていくように思います。

唾液緩衝能

食べたら歯を磨きなさい、と言われたことは皆さんあるのではないでしょうか。食事をすると口腔内のphは中性から酸性に傾きます。酸性になると歯の表面が粗造になります。粗くなります。これを脱灰と言います。脱灰した状態が長く続いて、歯垢が歯の表面に付着していると、虫歯菌が更に脱灰を進行させるとお考え下さい。火に油を注ぐイメージですね。唾液には脱灰した状態を元に戻す力があって、食後に歯垢をきちんと取り除くことが出来れば虫歯になることを防いでくれます。口腔内のPhを中性に戻してくれます。

唾液の能力差

唾液の力にも個人差があって、酸性を中性に戻す能力の高い低いがあります。時間をかけないと戻らない場合、間食が多かったりすると口腔内が酸性に傾いている期間が長くなります。そうすると虫歯になりやすくなります。唾液の能力が高いと、多少磨き方が甘くても虫歯になりにくいのです。

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仕上げ磨きはいつまで

基本的に乳歯だけの歯並び、前歯が永久歯に生え変わって、少しづつ永久歯の本数が増えていく、早くても小学校低学年まではしっかりと保護者の方が仕上げ磨きされた方が良いと思っています。歯と歯の間は面になっていて溝はありません。ですが顎の成長もあり、歯と歯の間が空いてきて物が詰まりやすくなって、そこが虫歯になりやすくなります。歯と歯の間は歯ブラシの先が届きにくく子供に任していると磨けていないことがほとんどです。その部分にフロスを使って仕上げ磨きしてあげてください。フッ素入り歯磨剤を付けてフロスするとバッチリです。

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個人差を診断する

遺伝的な歯の強さ、唾液の能力、口腔内細菌の種類などは変えることは出来ません。先天的な要因ですね。仕上げ磨きしている、していない、どのような食事(軟食か伝統食か)、口への摂取回数など、後天的な要因、これら総合的に判断してシーラントをするしないを決めるようにしています。フッ素も同様です。

全く虫歯の無いお子さんがおみえになって、シーラントをしてほしいと言われたら、

仕上げ磨きの有無、

染め出し液を使って歯ブラシを使った清掃能力がどれくらいあるか

を確認した上で、おそらくシーラントは不要ではないでしょうかとお伝えするでしょう。これから萌出してくる歯に対してはフッ素塗布やフッ素洗口による予防で十分ではないでしょうか、とお伝えするでしょう。

乳歯に治療した箇所が何か所もある方が、シーラントを希望されたら

虫歯になるリスクが高いと判断できますから、保護者の方には仕上げ磨きの徹底をお願いすると共に、シーラントをお勧めすると思います。

何でもそうですが、物は使いよう

シーラントがよいとか、よくないとか一概には言うことはできません。その方に必要であると判断したならシーラントをお勧めしますし、必要ないと判断したなら、必要ないのでは、とお話するでしょう。シーラントについて、私はそのように考えています。

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