診療していく上で、診断がとても大切です。五感と言いますが歯科でも五感をフルに活用します。視診、触診、聴診、打診、問診などです。
目次
問診の重要性
問診は受診された時に書いてもらう問診票と、それを基に直接患者さんから聴き取ることである程度の状況の確認をします。右なのか、左なのか、上なのか、下なのか、前なのか、奥なのか、それもわからないのか。歯なのか、それ以外なのか。少し前からなのか、近々に起こったことなのか。鋭利な痛みか鈍痛なのか。滲みるのか滲みないのか。噛むと痛いのか、そうでないのか。ずっと痛いのか、時折なのか。治療途中なのか、終わっているのか。前にも同じことはあったのか、初めてなのか。お聞きしたいことは沢山あります。
ふるい分け
歯科疾患には色々なものがあります。癌から小さな虫歯、原因不明なものもあります。ただメジャーな疾患と言えば、虫歯、歯周病、歯の根の化膿、親知らず、歯の外傷、知覚過敏、歯茎の腫れ、などです。入れ歯が壊れたとか、詰め物被せ物が取れたなどもありますが、疾患ではありません。聴き取りを行うことで何となくの原因を大雑把につかみ取ることができます。ですから事前に詳しく教えていただけますと事前準備や診療がスムースに運びます。
視診
明らかに大きな穴のある歯、歯が欠けている、親しらずの周りが赤みを帯びて腫れている、歯茎が腫れている、歯茎が大きく下がっている、などはお口をのぞかせてもらえるとわかります。虫歯の穴や歯茎の腫れは舌で触るとわかると思います。親知らずが腫れている場合口が開けづらく、親知らずそのものを確認することが困難なこともあります。
触診、打診
噛むと痛い、場合などは歯を触ると痛みを感じます。そこまではっきりしない場合でも歯を叩くと痛みの箇所がわかることがあります。ある程度範囲が限定されると周辺の歯を一本づつ軽圧で叩くとはっきりすることがあります。痛みがきついとどれもこれも痛いと感じることがあるので特定することができないこともあります。何となくでも痛みのある歯を特定できたら治療しやすいので受診前に確認してただけると助かります。腫れの場合、切開の頃合いというのがあります。歯茎の内側の膿の溜まり具合は指で触るとわかります。すぐ内側にあれば切開しますし、随分中の方にあるようなら切開しても膿は出ません。切開の時期も触って判断しています。
レントゲン撮影の重要性
このように現症や症状などからある程度、原因と対処法を類推できるのですが確定まで至らないことがあります。そこまでしても部位や原因を特定できないこともあります。そのためにレントゲン写真を撮影します。CTも随分普及してきましたが保険治療で用いれるケースは非常に少なく、少々高価です。1895年にドイツ人物理学者ヴィルヘルム コンラート レントゲン博士により発見されたX線は歯科の日常診療にはかかせません。一昔前までは撮影したレントゲンフィルムを現像液、定着液に浸し、その後乾燥させていたのですが今はフィルムをデジタル化し即時に画像が出るようになりました。デジタル化することでレントゲン被ばく量も軽減されています。
被ばく量のデメリットとメリット
レントゲン写真撮影には被ばくというデメリットがありますが、それを超えるメリットを享受することができる時に撮影しなければなりません。痛みの部位の特定、現状の把握、大きな神経までの距離の確認、などなど。
ちなみにですが当院のレントゲンの値(デジタルレントゲン、CT)
小さい局部のデジタルレントゲン一枚撮影 約0.01mSv
口全体のデジタルレントゲン一枚撮影 約0.005~0.01mSv
CT撮影 約0.026~0.16mSv です。
1人当たりの自然放射線量は日本平均 約2.1 mSv/年
食べ物から 約0.99 mSv/年、空から約0.3 mSv/年、地面から約0.33 mSv/年です。
胸部CT撮影一回 約10 mSv 東京ニューヨーク飛行機往復で約0.2~0.4 mSvです。
影響は少ないと思いますが、それでも必要な撮影かどうかをいつも考えて是非を判断しています。
小さいレントゲンと大きなレントゲン
小さなレントゲン
2~3歯を詳細に調べるには小さなレントゲンフィルムを用います。だいたい4㎝×3㎝くらいのものです。ご自身の指で押さえてもらったり、補助器具を使って撮影します。レントゲンの通り具合で陰影に差が付いてそのことで、虫歯の有る無し、神経の位置、神経の有る無し、歯の割れの有無、歯を支える骨の炎症具合、根の先の膿の有る無し、被せ物の適合具合など確認します。
レントゲンを通さないもの
レントゲンで何でもわかるかと言えばそうではありません。金属はレントゲンを通しませんので、金属の被せ物、詰め物の中の虫歯は残念ながら確認できません。真っ白に映ります。また歯が完全に割れていると確認出来ますが、小さなヒビくらいではわかりません。
大きなレントゲン
上顎、下顎は勿論、顎の関節、鼻腔と副鼻腔の一部、いわゆるエラの部分まで撮影出来ます。局部を診るわけではなく、口腔全体を俯瞰的に捉えるために撮影させていただきます。できましたら数年に一度何もなくても撮影することをお勧めします。経時的な変化があるかないかがわかるからです。虫歯や歯周病による歯を支える骨の全体的な吸収具合の確認することは何となくおわかりかと思うので、それ以外の事柄についてお話していきます。
親知らず
親知らずは、奥の方に存在するので小さなレントゲン写真では位置づけがとても難しいです。そのため確認するのに大きなレントゲンで撮影することがほとんどです。親知らずの生えている方向、親知らずの先端と顎の中を通る大きな神経と血管と近接しているかどうか、手前の歯と比べてどのくらい深い位置にあるかどうか、を診ます。深い位置にある、斜めに生えている、神経と近接している、などから親知らずの抜歯の難易度を確認します。抜歯の難易度が高い場合、近隣の口腔外科へ受診していただくことになります。年齢が高くなればなるほど抜歯が困難になる傾向にあります。可能ならなるべく早めに抜歯されるとよいでしょう。
顎の関節
顎の関節を詳細に調べる撮影方法もあります。そういう撮影方法をしなくても一般診療で用いられている大きなレントゲンである程度顎の関節のことがわかります。顎の関節は親指あるいは小指のような丸みを帯びた形をしています。左右の対称性や形態の異常などを確認します。関節の形態の異常は噛み合わせが問題で起こっていることが多いです。噛み合わせを正しい位置にすることで関節の形は復元されていく方向に向かいます。自覚症状はなくても関節に異常が起きていることはよくあります。
鼻腔、副鼻腔
鼻腔も一部映ります。鼻の通り具合も何となくわかります。左右のどちらか、あるいは両方が詰まっているかなどです。副鼻腔は通常は黒く映りますが、すりガラス状に白く映ることがあります。それは副鼻腔に炎症が起こっていることを示しているので、耳鼻科の受診を勧めています。ただ歯が原因になっていることもあるのでその場合は根の治療をします。最悪抜歯になることがあります。口腔と副鼻腔までの距離があるかどうかを診て、インプラントすることができるかどうかの指標の一つにしています。詳しくはCT撮影してみないとわからないのですが、大まかな診断をすることができます。
腫瘍や嚢胞、根尖病巣
顎の骨は通常白く映りますが、黒くうつると場合があります。根の先の場合のこともありますし、ポツンと離れた場合もあります。根の先にあればその部分が化膿していますから根の治療をしていくことになります。離れている場合、嚢胞や腫瘍といった疾患が考えられるので口腔外科を受診するようにお勧めします。
エラの左右差 顎のズレ
左右のエラの張り具合も確認します。左右差があると、大きな方がよく筋肉を使っていることが多いです。噛み癖もある程度わかります。そちらに顎がズレていく傾向があるので、そちらの顎に何らかの症状がでることが多いです。例えば顎を開口するときにそちらだけカクっと顎が鳴るとかです。
撮影にご協力ください。
顎の骨の吸収具合からインプラントできるかどうか。年齢に比べて顎の骨の減り具合がどうか。など他にも色々な知見をレントゲン写真から得られます。その知見を得て診断を確定させ、適切な治療をしていきます。レントゲン撮影は福音を得るためのツールですので、撮影にご協力いただきたく思います。