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受け口の始まりは過蓋咬合
過蓋咬合(噛み合わせると下の前歯が見えない状態のことを言います。)になっていることで下顎が後ろに下がることは前回お話しました。そのことと高さが低くなることで舌を置くだけの隙間がなくて、舌が後ろに引っ込んでしまいます。気道が舌で狭くなり呼吸しづらくなるのです。下顎を前に出して呼吸しやすくするのです。その証拠に、“いー”を子供にさせると多くが下顎を前に出して上下の前歯の先端を合わせるようにします。
呼吸位って何
何のためにするのか、もうおわかりですよね。呼吸環境を良くするために本能的に下顎を前に出すのです。遺伝でなくてもこのようにして受け口になることがあります。先天的な問題でなく、後天的な要因で受け口になるのです。
離乳の時期は4歳が世界平均
世界の離乳の平均年齢をご存じですか?実は4.2歳です。幼稚園の年少さんですね。その頃まで哺乳しているお母さんはいらっしゃるでしょうか。江戸時代では7~8歳は当たり前だったそうです。出生率は今以上で、子供が無事に育つ確率が今に比べると低かったので授乳する期間が長かったことももちろんあったかと思います。江戸時代と言ってもわずか160年くらい前のことです。戦後アメリカの育児書を元に母子手帳が作られ、離乳のスケジュールも作られたのですが、アメリカは問題があるとして修正されています。でも日本は間違ったままなのです。他の分野でも同じことになっていますね。
哺乳は正しい噛み合わせを作る訓練期間
人間は生理的早産の状態で産まれてきます。様々な環境に適応できるように未完成で産まれてくるのです。ありとあらゆる周囲の刺激、環境に適応しようと脳や身体を成長させていきます。そうして生きる力を整えていくのです。この時期に哺乳という栄養補給すると共に前歯に相当する部分、舌、頬、などの筋肉を使って顎を成長させ、嚥下の仕方を覚えていくのです。三つ子の魂百まで、という慣用句はまさにこれのことです。その後の噛み合わせ、呼吸、姿勢、すべてを決定づけています。
感受性期は0~2歳
口腔に適正な刺激を与えて正しい噛み合わせを作るか作れないかは哺乳が決定づけていると言っても過言ではありません。その時期を感受性期といいます。何でも吸収する時期のことです。母乳の出がよかったり、哺乳瓶の出がよいと苦労なく口に栄養が入って来ますから訓練する必要もないです。筋肉トレーニングしていませんから顎は大きくならないし、噛む力は弱くなりますし顔貌も姿勢も歯並びも正しくなりません。
乳歯の噛み合わせは前歯の先同士がぴったり合うのがいい!
これを切端咬合と言います。それに加えてすきっ歯がいいのです。2歳くらいからその状態だともう言うことない歯並びで、永久歯になっても歯並びが悪くなることはまずありません。頬杖などのような習慣がない限りはですけれど。下顎が前方に成長していることで奥歯でしっかり噛むことができます。その噛む力が顎の上下的な高さを成長させます。そのことで口腔内の容積も大きくなり舌もきちんと前にいき、気道が狭くなることもなく猫背にもならず呼吸しやすく立ち姿も美しくなります。
哺乳の時期は過ぎたけれど何とかしたい
離乳食さえ終わってしまっていたら何ができると思いますか?全てが治る訳でもありませんが出来ることは食育です。具体的には前歯がぶり、です。前歯を使う食事を提供してあげてください。一番わかりやすいのはフランスパンですね。大きな口を開けて前歯でかぶりつかないと食べれないですよね。そんなのがいいのです。でもそんなのばかり、というわけにはいきませんよね。
お母さんの工夫が噛み合わせを変えるのです
硬いものばかりなのは現実的ではないですよね。では簡単にできるのは何か。食材を大きく、かぶりつくような形にしてください。切り方を変えるのです。包丁で食材を切る回数を少なくし、前歯で噛みきらないと食べれないようにしてください。鶏肉は骨付き、唐揚げはザク切り、野菜は細長く、カボチャやトマトは大きく、フライも大きく、肉はアスパラなどを巻くなど。
軟らかい食材も工夫
軟らかい食材やスープには動植物繊維の多い具を沢山入れてください。サラダには大きめトマトや根菜、スパゲッティの具材にもイカや貝など。食材を大きくするか、短冊切り状にして前歯で噛む食事、、噛む回数の多い食事を用意してあげてください。子供の好きな食材の料理法を是非考えてあげてください。食育だけですきっぱになったり下顎が前に出てくることもあります。根気よく取り組むことが重要です。
食事以外に気をつける大切なこと
それは食事の時にお茶などで食事を流し込まないようにすることです。水気のものは食事が終わってから出すようにしてください。しっかり噛んで食事をすることで唾液が出ますし、それで食事をすることは可能なはずです。噛み砕いて食塊を形成し嚥下することを覚えてます。噛むという刺激で脳を活性化させると共に顎を成長させることにつながります。水で流し込むことを覚えてしまうと咀嚼回数が増えません。歯があってしっかり噛んで食べる方と無歯顎(入れ歯を入れてない)の方では噛むという刺激の脳への伝わり方が全然違います。
足をつけて食べる
勉強でもそうですが足がブラブラしたままで食事するのはよくないことです。机で足が届かない場合は足がつくように何か足元においてあげてください。ホームセンターで売っている簡便なステップなどでよいです。正座でもよいです。噛む力をしっかり脳に伝えましょう。
口の筋トレ
食育の他にご家庭でやっていただきたいことがお口の筋トレです。高い道具は要りません。口の周囲の筋肉を鍛える、前歯に刺激を与えることを目的にします。
あいうべ体操
それぞれ あ い う べ を声を出さなくてよいので大げさなくらい口を使って動かしてみてください。これを30回繰り返してください。舌を含めた口腔周囲筋を動かすことで可動範囲を広げ哺乳で養われなかった動きを覚えるようにします。お子さんだけでなくお母さんも一緒にされてください。美顔効果もあるようです。
ぶくぶくトレーニング
口に30mlくらいの水を入れて ぶくぶくするように5分動かしてみてください。5分はとても長く感じるはずです。まずは2分からで結構です。上唇と歯茎の間、下唇と歯茎の間、左右頬と歯茎の間に水を入れて30秒づつぶくぶくとしてみてください。顎の下の筋肉や頬が痛くなってきます。普段その筋肉を使っていない証拠ですね。顎の位置付けを正しくするために必要になってきます。
かみかみトレーニング
熱帯魚の飼育に使う酸素供給のゴムのチューブがあればできます。これもホームセンターで購入できますが、歯科専用のチューブを当院で販売していますのでスタッフにお申し付けください。1日3分そのチューブを前歯でかみかみするだけです。奥歯で噛んではいけません。(出来たら2セット)しっかりやっていただけたら3ヵ月で噛む力が倍増すると言われています。1,2,3,4と噛みしめて“パッ”と離すのがコツです。リズミカルに噛みしめてもらうとなお良いです。
咀嚼訓練の目的
1噛む筋肉を強くする。(よりよい外力の刺激を与えて顎の発育を促す)
2前噛みすることで上顎骨を発育させ良い顔にする。
3間違った筋肉の使い方を修正する。
4噛む刺激を与えて脳の反射機能を高める。
強く生きるため、呼吸しやすいように、正しい噛み合わせ、正しい成長に戻すために食事と筋トレをしていかないといけない、ということなのです。