過蓋咬合(ディープバイト)の原因や対処法について今回は述べていきたいと思います。
過蓋咬合というのは奥歯で噛んだ時に、下の前歯が見えないとか半分以上見えない噛み合わせのことを言います。あるいは噛んだ時に下の前歯が、上の前歯の歯と歯茎の境目か、内側の歯茎に直接嚙み合っている噛み合わせのことを言います。
目次
過蓋咬合の子供は約3割
過蓋咬合は、受け口とか上下の前歯がかみ合わない開咬などと同じく噛み合わせの異常に分類されます。では過蓋咬合の何が悪いのでしょうか
口腔容積の低下
機能性反対咬合のリスク
構音障害
これらを引き起こすとされています。縄文時代では切端咬合、上と下の前歯の先端同士が当たっている噛み合わせが普通の噛み合わせでエラも張っていました。ですから縄文時代の人骨で過蓋咬合はほぼ皆無です。過蓋咬合になるということは噛み合わせの高さが低くなります。咬合高径が半分になるということは口腔容積も半分になるということです。ということは舌のおくスペースが減少します。そうすると睡眠時に舌が奥の方にかつ下のほうに沈みます。舌が奥にいくことで気道が閉塞されます。気道が閉塞されると呼吸ができません。無呼吸の頻度が上がると血中酸素濃度が低下、脳や心臓に障害を起こす、ということになっていきます。
乳幼児突然死症候群
この言葉をお聞きになったことはありませんか。SIDS(乳幼児期突然死症候群)が起こりやすい要因
哺乳瓶での栄養
両親の喫煙
うつぶせ寝
うつぶせ寝になる原因は舌根沈下で閉塞した気道を確保するため、呼吸するために重力で舌を前にもっていきたいからうつぶせ根をします。(仰向けなら舌や下顎を動かし気道確保できます。)使わない筋肉、つまり舌の筋肉は廃用性萎縮していきます。
睡眠時無呼吸症候群の治療に使うCPAPは強制的に酸素を吸入するために用います。呼吸するためです。睡眠時無呼吸症候群用のマウスピースは上下の顎をマウスピースで固定して下あごが後ろに下がらない、舌が奥に下がらず、置き場を前にするために使います。赤ちゃんもうつぶせ寝続けると舌が廃用性萎縮を引き起こします。
高齢者の噛み合わせも低くなることが多い
寝ている時に下あごを前に出すと気道が拡がります。高齢者が下顎を前に出すのは気道を確保するためです。年齢を重ねると歯はすり減り、噛み合わせの高さが低くなっているからです。入れ歯も元々歯のある時に比べるとどうしても高さが低くなる傾向があります。高くすると高くて噛みづらい、とおっしゃいます。噛みやすくなったと言われる時には元より低くなっていることが多いです。下顎を前に出すと総入れ歯の場合、義歯と歯茎の間に空気が入り入れ歯がガタつきます。
乳歯の噛み合わせで良いのは
過蓋咬合の子供に“イー”と言わせると多くの子供の下あごが前にいきます。後ろにはいきません。切端咬合(前歯の先端同士が当たる)になります。前歯の乳歯が生えてきて、上下の関係で下の歯が上の歯で見えないくらい被っていると将来にわたってずっとそのまま過蓋咬合になります。その状態では口腔容積が低下しますから息苦しいので下顎を前に出します。歯ぎしりするのは呼吸を確保するためです。
8020運動
8020運動はご存じかと思います。80歳で20本の歯を残そうというものですが、達成されている方の統計をとったところ、受け口、開咬(前歯が噛んでいない噛み合わせ)の方は0%だったそうです。前歯の関係が正常でないと年齢が上がった時に歯が残らない、ということです。ちなみに正常な噛み合わせは86,5%、出っ歯は15,4%、過蓋咬合は13,5%だったそうです。
過蓋咬合の原因は何でしょうか
遺伝的要因 (先天的な要因)
指しゃぶり、口唇噛みや頬杖、うつぶせ寝などの習慣的な癖 (後天的な要因)
顎の発育不全(後天的な要因) と言われています。
過蓋咬合と関係が深いと考えられるのは哺乳、離乳です。現在の全世界の離乳の平均年齢は4,2歳です。江戸時代では5~7歳までが普通でした。少し前の母子手帳には5か月頃から離乳が始められています。えらい違いですね。では哺乳の何がよいのでしょうか相応の唇や舌の力を使わないと哺乳できません。その力で口腔に適正な刺激が加わり上顎、鼻腔が正常に大きく成長していくのです。
指しゃぶり
指しゃぶりと口唇噛みするのは何故か。それはそうすることで呼吸が楽になるからです。運動している時は下あごを前に出して酸素を取り入れています。そんな記憶はありませんか?(ゼーゼー言っている時です。)呼吸を確保するために立っている時は猫背、座っている時は頬杖でバランスをとっています。無理に指しゃぶりをやめさせることはありません。
切端咬合
過蓋咬合の予防は乳歯列での切端咬合です。前歯が生えてきてそこで切端咬合でなければなりません。哺乳時に前歯の先同士当たってそこに負荷がかかり、奥歯が生えてきた時にしっかり噛めて、歯全部で噛めるようになると下顎がしっかり大きくなっていきます。哺乳の時期をもう過ぎてしまって何ができるのか?食育の前歯がぶり、が一番ですがそれ以外にチューブ噛みトレーニングがあります。毎日3分前歯でチューブを噛むのです。単純なトレーニングですが効果はあります。専用の材料は当院で販売しています。興味があればスタッフにお伝えください。
母乳はいつまで続けるのか
WHOやユニセフでは2歳まで母乳育児を推奨しています。長すぎることはありません。短すぎるのがよくないのです。負荷を掛け続けることが口腔を、鼻腔を正常に育てることになるのです。
発達は
連続性
順序性
方向性
周期性
相互関連性
個人差
に従い展開されます。一つの機能を獲得すると、その機能を元に次の機能を獲得します。食べる機能も同じです。哺乳機能が完成して、次の機能である食べる機能を獲得します。(正常嚥下)離乳食で食べる機能を獲得するのではなく、哺乳で食べる機能を獲得しているのです。
哺乳期は
咀嚼機能、送り込み機能(嚥下)、舌、口唇機能など様々な機能を獲得する時期です。決して栄養を摂るためだけの時期ではないことを覚えておいてください。日本の現状では6か月程度で離乳食に移行しています。進んでしまうと哺乳には戻れないです。母乳が赤ちゃんの噛む力を育てています。母乳と哺乳瓶では噛む筋肉の動きが全くちがいます。
哺乳瓶の選び方
哺乳瓶でも、乳首の部分が出やすいものと出にくいものがあります。先ほど述べたように栄養を摂るためだけでなくトレーニングしなければなりませんから、出にくいものを選んでください。実際に哺乳瓶で飲んでみると前歯に強い負荷がかかるのが分かるかと思います。歯が無ければ前歯のところの歯茎に負荷が掛かっているのがわかるでしょう。哺乳時には舌だけでなく舌の下にある筋肉にも負荷がかかっています。顎舌骨筋、顎二腹筋です。舌を持ち上げるのに使われています。このトレーニングが不十分だと舌の動きが規制され舌が十分前に出なくなります。構音障害などの発音に影響してきます。舌足らずなしゃべり方ですね。舌が口の外に出てきません。ハート舌(舌の先端の真ん中が前に出ない)になるかどうかでみわけてみてください。自然には切れないのでちょっとした手術になります。切れた後には舌を動かす訓練をして発音の改善を目指します。
BLW
イギリスでは赤ちゃんが目の前のものを選んで食べるのが主流です。Baby led weanring(BLW)と言われます。その間も哺乳は継続したままです。例えばゆで野菜 ブロッコリー、カリフラワー、ニンジン、を手づかみで食べれるように目の前におき、好きなようにさせるのです。その時期を過ぎている過蓋咬合には、早い時期から取り外しの装置を就寝時と日中1時間装着すると良いと思います。詳しくは小児矯正のページをご参照ください。(T4K、プレオルソ)装置で歯並びがよくなるということでなく下顎を前に出して舌を置く位置を覚えていくものです。それに加えて毎日2分のあいうべ体操を行います。言い聞かせて装置を入れられる年齢になったらなるべく早くに。哺乳期を過ぎた場合には食育とT4Kとチューブ噛みトレーニング、あいうべ体操で対処していきます。
あいうべ体操以外にもMFTという筋肉のトレーニング法がありますが、またこれは後日に