歯がしみる、ということで診療にお見えになる方があります。歯の磨き過ぎですか?という方もあれば虫歯の時のしみかた、とか虫歯のような気がする、などおっしゃる方もいます。磨き過ぎや虫歯なら、その処置をすればよくなることがあるので対処はしやすいのですが、そうでないことも多々あります知覚過敏は色々なことが原因として考えられます。(気をつけるだけではよくなりません)その原因として考えられることを一つずつ記載していきます。
目次
虫歯
これはお分かりかと思います。虫歯が大きくなればどんどん神経に近づいていって滲みるようになります。最初のうちは穴も開きません。歯の表層が身体の中で最も硬いエナメル質で骨より硬いのですが、その部分だけがまず小さく虫歯になります。C1と呼ばれる状態です。エナメル質は知覚を感じる機能はありません。ですからこの段階では痛みはありません。レントゲンでも部位によってはほとんど判別できないくらいのものもあります。
動水力学説
エナメル質の内層が象牙質で、この部分にまで虫歯が達するとC2と呼ばれる段階になります。象牙質は電子顕微鏡レベルでは細かな無数の管が連なっていて、その中の組織液がいろいろな動きをすることで知覚を伝えていると言われています。この言われている、というのは色々な説があって、その中の最も有力とされている説なのです。つまり因果関係は確定されていません。
象牙細管が虫歯により口腔内に露出することで、色々な刺激が歯の神経に伝わりしみてくるのです。神経に近づけば近づくほど刺激の伝わり方が強くなります。一時的だった痛みが、持続的に痛みが続くようになり、痛みがなかなか引かなくなります。
一過性に滲みている分には、神経までの距離がまだあるので虫歯の治療をすれば神経を残せる可能性がありますが、刺激物が口腔内から無くなってもまだ滲みたり、ズキズキしたり、するようなら神経を残せる可能性がかなり少なくなっていると思ってください。
穴が開いたらもう遅い
象牙質の虫歯が大きくなると、その外側のエナメル質が欠けてきます。エナメル質自体厚みはそんなにありません。エナメル質を支える象牙質が虫歯で崩壊して硬いエナメル質が欠けてきますから、歯が欠けたから、とお見えになった時には虫歯がかなり進行していると思ってください。
虫歯の小さなうちに処置することで神経を残せる可能性が高くなりますから、おかしいと思ったら早めに治療していくことが大事になります。その前に、定期検診にきていただくことが何よりの予防になります。
C3 C4
ちなみにですが、神経まで虫歯がいけばC3です。この段階なら差し歯まで戻していける可能性がまだあります。虫歯でボロボロになってしまっているとC4です。この段階の処置は抜歯になります。
歯周病
歯周病が進行すると歯を支える骨と歯茎が下がります。そうすると今まで歯茎で覆われていた歯の根っこの部分が口腔内に出てきます根の部分は象牙質までの距離がとても短く刺激を伝えやすい構造になっています。今まで出ていなかった部分が出てきて、更に歯垢などが付着していると、なおのこと歯肉に炎症が起きて、ますます滲みやすくなります。水道水でもめちゃ染みてきます。歯周病で歯が滲みている方は歯垢を確実に取るようにしてください。自己流ではいけません。歯間ブラシやフロスなど補助的清掃具を用いきちんと歯垢を除去できる歯磨きの方法でお願いします。1歯一分と言われるくらい磨いていますか?加齢に伴う歯肉の下がりだけではしみることはあまりありません。歯茎が下がって根っこがでていても、歯垢が除去できていれば滲みることはあまりないです。
上行性歯髄炎
虫歯がなくて、歯茎が下がってない歯周病の方に多いのが上行性歯髄炎と呼ばれるものです。喫煙者に比較的多く見受けられます。歯の根の先から歯の神経が歯に入っています。通常は骨に覆われているのですが、歯周病が進行して根の先辺りまで骨が無くなっていると歯と歯茎の隙間を通して刺激(冷水、温水、甘味など)が歯に入る前の神経に直接伝わりズキズキします。歯の神経に直接刺激が伝わるので虫歯の有る無しは関係ありません。
歯は良くても
処置としては歯の神経を取ることになります。でもそれくらい歯を支える骨が無くなっているので、神経治療をしても歯はグラグラ揺れています。ですから抜歯される方がよいかと思います。
歯ぎしり
かみしめがきついと歯はしみます。特定のところの場合もあれば、全体的にしみる場合もあります。寝ているときに音がする、しないに関わらず噛みしめしていることがあり、それが原因でしみます。作業して無意識に集中しているとき、スポーツして力入れているときなど、力を入れていることはありませんか?朝起きた時、あごが疲れたりしていませんか。虫歯や歯周病などでないと一番にこれを疑います。噛みしめの力で歯の付け根に力が集中的にかかり、その歪で象牙細管の組織液が動き知覚過敏が発症します。
特徴
・歯の尖端が削れている
・下あごの内側に骨が出ている、上あごの真ん中の骨が出ている
・頬に筋がある
・一番奥の詰め物や被せ物がよく取れる。
・歯にヒビが入っている
・歯の付け根がえぐれている
・エラが張っている などなど
などなど自分では気づかないけれど、噛みしめを示唆する口腔内の徴候がみとめられます。そのことを指摘しても、ほとんどの方は、聞いたことがない、言われたこともないとおっしゃいます。強く否定されます。客観的な状況証拠があるのですけれど。
意識のある時はまだ噛まないようにコントロールすることは可能ですが、寝ているときはさすがにできません。でも日中の噛みしめを意識的にコントロールできるようになると夜間の噛みしめもコントロールできる、少なくできると言われています。
ナイトガード
とはいえ時間もかかるし難しいのでどうしても対症療法になります。具体的には同じ硬さの歯同士を咬ませないようマウスピースを夜間使用していただくことになります。噛みしめがなくなるわけではありませんが。歯同士削れることがなくなりますから、知覚過敏がマシになるとされています。
ストレス
噛みしめの原因の一つとしてストレスが挙げられています。現代社会ではこの原因をなくすことは一番難しいですね。歯の付け根が削れてえぐれている場合には、その部分を材料で詰めることもあります。物理的に象牙細管を埋めるのですが、これで知覚過敏が治まれば超ラッキーです。
噛み合わせ
前歯が噛んでない、受け口、出っ歯など、奥歯でしか噛んでいないと奥歯にだけ力がかかるのでそのせいで歯が揺れて歯を支える骨が減り、歯の付け根に力がかかって滲みることがあります。マウスピースにより知覚過敏がよくなれば、はっきり噛み合わせが原因とわかりますから歯並びを治すことが治療になります。具体的には矯正治療や全体的なかぶせ物のやり直しです
破折
歯にヒビが入ればそこから刺激が伝わります。ヒビは見える場合も見えない場合もあります。亀裂が入っていたらそこから刺激が伝わるのでしみます。ヒビを埋めることは現実的に難しいです。削って詰めても小さすぎてすぐ取れるからです。ヒビ程度では処置できる内容は知覚過敏用の塗布材くらいに限られます。
目でわからない
持続的に少しずつ歯に力がかかっていくと、その亀裂から歯が割れることもあります。痛みを訴えられても亀裂程度ではレントゲンにも映りません。目視もわからないことが多いです。痛みがあってから時間の差はありますが、しばらくしたら割れてきたということがあります。その場合は結果でしか残念ながらわかりません。割れたら神経までの距離が問題で、小さい欠け方なら詰め物、被せ物で対応します。神経までの距離が短いと、あるいは神経が出てしまうと、神経処置をしなければなりません。歯ぐきの奥深くまで縦に割れてしまうと最悪抜歯もありえます。
原因不明
神経がない場合でもしみている場合があります。通常は神経がある歯がしみます。磨き過ぎで歯茎に傷があったり、歯肉がしみる場合もあるように思います。考えつく限りの原因が無いかをカウンセリングや診査して精査していくのですが、どうしても原因がわからないこともあります。そのような場合、経過、症状を見て変化なければ口腔外科などでさらにその他の原因をさぐってもらうことになります。
だから難しい
原因がはっきりわかればよくなりますし、わからない場合もあります。ですから知覚過敏は簡単でもあり難しい病気でもあります。