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取れたから来たんだけど
診療所を訪れてくださる理由に詰め物、かぶせ物が取れた、ということがあります。定期的にお口のメインテナンスをしていただいていても、残念ながらそのようなことは起こりえます。詰めたものが取れただけなので、セメント着けて戻せばいいだけだから時間はかからないだろうし、すぐ診てもらえるだろうとお考えのことかと思います。
付け直すにも手順とチェック事項がありますから、1分2分で終わりません。連絡なくお見えいただく方もあるのですが、事前にご予約していただいている方の治療の時間を削る訳にいきません。お待ちいただくことになります。時間を取って治療に当たらないといけない診療が続く予約だった場合、当然待ち時間が長くなります。待ち時間が比較的少なくなる日時を提案してお帰りいただくこともあります。
横入りされて気分いいですか
詰め物やかぶせ物がとれて不便であることは承知しておりますが、皆さんも横入りされるのは嫌ですよね。自分の予約した治療時間が少なくなるのは気分のよいものではないと思います。なるべく早く対処はしたいと思いますが、早くを希望されれば早いほど、ご希望の時間になりにくいことをご承知おきくださると助かります。
事前に電話一本
また事前に電話で、当院にかかられている方であれば、上か下か右か左か、詰め物かかぶせ物か、などわかる範囲でご連絡いただくと、カルテやレントゲンからどんなものが取れたかを類推し、着け直すだけですむなら、その治療時間の見当をある程度つけることも可能です。もちろん着け直すことができない場合も多々あります。当院へかかられたことのない方も同様になるべく詳しくご連絡いただけると診療の一助になります。
着け直すことができない場合、限られた時間で拝見させていただいていますので、改めて後日時間をお取りして治療させていただくことになります。不便の解消にはできるだけ早く対処できるよう取り組んでいます。なるべく早く折り合える日時を提案しますのでご協力ください。
なんで時間が必要なのか
取れたには理由があります。その原因を確認します。
虫歯
詰め物やかぶせ物は歯と材料との間にセメントを言われる接着剤で引っ付けています。歯と詰め物は硬く、硬いもの同士を接着剤でとめています。虫歯が出来るとその部分の歯は軟らかくなります。硬いものが軟らかくなるのでそこに隙間ができて接着剤の効力が失われるのです。なかなか上手く例えられないのですが、木片と木片を接着剤でくっつけたら付きます。片方の木片が腐敗してぼろぼろになってくると外れてくる、みたいにイメージしてもらえるとよいかと思います。
虫歯を取り除く
軟らかい虫歯の部分を取り去り、硬い健全な歯質と詰める材料で修復するようにします。被せるのも同じです。詰めたり、かぶせてあるものが取れるくらいですから虫歯は進行しています。ですから神経を残す材料を補填したり、神経が無い場合は土台を補強したりしなければなりません。神経のない場合は痛みがありませんからかぶせ物が取れた時には元に戻すことができなくなっている、なんてこともあります。それは抜歯を意味します。一番極端なことまで述べていますが、これらのことを僅かな時間で処置することはできません。合間の時間ではとても対応できません。
レントゲンで映らない虫歯もある
定期的にメンテナンスに来ていただいていても虫歯のチェックをしきれないことがあります。レントゲンで金属は真っ白に映ります。金属でないところはその陰影で虫歯かどうか診断することはできます。金属の中、かぶせ物のなかを確認することは難しいです。メンテナンスにお越しいただいたときにはかぶせ物の金属やセラミックの境目のチェックは密に行っています。それくらいしかできませんが、怪しいときには角度を考えてレントゲン撮影することもあります。
残っているセメントの除去
取れた、外れた時にはこのように、まず虫歯があるかないかのチェックを行います。次に歯に残っているセメントをすべて除去します。セメントの下に虫歯がないかを診ることと、幸い何も問題がなくて詰め物を再装着した時にセメントの厚みが増えてしまって高さが変わらないようにするためです。神経が残っている場合にはセメントを取り除く時に歯がしみることもあります。
適合はよいのか
歯の方に問題がないと確認できたら取れたものを歯に合わせてみます。噛みしめのきつい方は歯が欠けていたり、金属の薄いところが変形しているかもしれないからです。
歯の薄い部分がかけていたり、金属の薄いところが欠けていたりしているとその部分からセメントが溶解しやすくなるので再治療が必要となります。特に噛みしめの力の強い方はその傾向が高いです。また外れた時に詰め物が薄いと変形することがあります。そうするとやはり再装着はできません。
外れやすい詰め物かぶせ物
薄い詰め物、背丈の低いかぶせ物は接着する面積が、厚みのある詰め物、丈のあるかぶせ物に比べると少なくなりますから外れやすいです。外れにくくするには接着面積を増やす必要があります。それが難しい場合には力学構造を考えた形態を設計します。それでも歯ぎしり、噛みしめの強い方はどうしても外れやすいです。
噛み合わせのチェック
歯やインプラントは縦方向にかかる力には強いのですが、横揺れにはそれほど強くないのです。奥歯を守るために犬歯は存在しています。犬歯がちゃんと機能していると歯は横揺れから守られます。詰め物、かぶせ物も同じで、横からの力がかかりすぎると外れる原因になります。ですから、取れた詰め物やかぶせ物を再度装着した後、必ず噛み合わせのチェック、必要なら調整を行います。セメントも僅かですがその厚みがありますから噛み合わせのチェックは必要になります。
土台ごと取れた場合
被せが土台ごと取れてくることがあります。土台がついているので神経が無いことがほとんどです。その場合まずチェックするのは歯がわれていないか、ヒビが入っていないかを確認します。割れていたり、ヒビが入っていたらその部分からセメントが壊れていきますから外れやすいです。というかそのヒビ、割れている部分から細菌感染を引き起こし腫れたりします。そんな状態ですから、もちろん外れたかぶせものと歯の適合がよいことはあまりありません。無理に付けてもすぐに取れることが多いです。長くもてばそれはラッキーです。神経のない歯は神経のある歯に比べて栄養供給が絶たれるのでいわゆる“しなり”が無くなり、割れるのです。そこへもってきて噛みしめが強いと更に割れるリスクが高まります。
歯が割れたままだと骨に影響する
割れたりヒビが入っていたら基本的には抜歯です。今まで痛くないから付けてくれればいい、とおっしゃる方が大半です。長く割れている状態のままだと歯を支える周りの骨が少しずつ失われます。痛みはありませんが、腫れたり痛んだらおそらく完全に割れています。そうなると先ほど述べたように抜歯なのですが、骨が失われているのでインプラント希望されてもできない、あるいは人工の骨を使ってある程度骨を修復する、あるいはどこからか骨を持ってきて移植するなどすることになります。一旦失われた骨は容易に回復しません。
隣の歯が虫歯
取れた歯の隣の歯が虫歯になっていることもあります。その治療を行うと、外れた詰めものをきちんと合うように調整しないといけなくなりますから時間がかかります。外れた詰め物を先に付け後日治療となると、治療範囲が広げないといけなくなることもあります。取れたものが付けられたとしても、それを活かすために後日の治療になることもあります。
ちなみにですが
もう何年も経ってるから詰め物、かぶせ物をやり替えた方がよいですか。と聞かれることがあります。保険診療で用いている金属には多くの銀、銅、ニッケルなどが含まれています。唾液の性状もありますが、口腔内は湿っていますから銀や銅は錆びやすい環境にあります。錆びてくるとセメントが崩壊しやすく外れたり、隙間から虫歯になりやすいのです。やり替えせずに済ませるには貴金属、すなわちゴールドとかセラミックを用いたものを使用されることをお勧めします。
いや、保険で、
ということでも構わないのですが、やり替える度にご自身の健全は歯が少しずつ失われる、虫歯になるリスクは変わらないということは頭の片隅に入れておいてください。長い目でみれば体に為害性のない材料を用いて健康を保持する方がよいとは思います。
なるべく早く対処するよう努力します
詰め物、かぶせ物が取れてもすぐ着けられるだろうと思われても、虫歯のチェック、セメントの除去、歯の欠けが無いか、詰め物、かぶせ物の適合具合、歯にヒビが入っていないか、噛み合わせのチェック、装着後のセメントの取り残しはないか、隣の歯の虫歯はないか、セメントの硬化時間待ち、などなどいろいろ医院側ですることがあります。簡単そうに思われるかもしれませんがきちんとした時間が必要な治療なのです。