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粘土のような
型取りをされた経験がみなさんあるでしょうか。不幸にして虫歯になってしまいその部分を金属で詰めたり、神経処置をして金属やセラミックのかぶせ物を装着したり、歯を失ったところを補うためにその両隣の歯を土台にして固定式のかぶせ物(ブリッジといわれるもの)を作ったり、部分入れ歯、総入れ歯を作ったり、顎関節症や歯ぎしり用のマウスピース、スポーツによる歯の外傷(歯が折れたりするのを防ぐ)防止用のマウスピース、を作ったりするために型取りをします。直接口の中ですべてを作ることができれば一番良いのですが時間もかかりますし、何よりずっと拘束させていただかないといけません。そんなことはできません。製作物を作るのに顎を置いていってもらえばよいのですがそうわけにもいきません。顎というか口の中の状態を再現するものを作製し、それを元に製作物を作っていきます。型取りをして出来るのが石膏の模型です。
石膏
昔だと骨折したときに腕や足を正常な位置に戻してぐらぐら動かないようにするのに使われてもいました。文字通り石のように硬いのですがその硬さも種類によって様々です。通常は粉末で保存されていて、水と混ぜることで固まります。水の量が多いと硬さは軟らかく、水の量が少なければ少ないほど固まったあと硬くなります。元の粉にも種類があり柔らかめの石膏の粉末に少量の水を入れて固めても形を作れる塊になりません。それぞれにあった適切な水の量というのがあります。型取りしたところに適切な硬さの石膏を注入して、それを固めて作業するための模型を作ります。
印象材料
型取りする材料にも数種類あって海藻系の材料とシリコン系のものがあります。口の中は唾液があります。海藻系のものは水と親和性があります。シリコン系のものは水を弾くので親和性はありません。海藻系の材料は経時的に変形していきますが、シリコン系の材料は経時的な変形はあまりありません。海藻系の材料は固まるのに2分くらい、シリコン系の材料は5分くらいかかります。それぞれ特徴があります。製作物の種類、治療履歴などから型取りの耐性、他にも色々なことを考えた上でどちらにするかを決めています。
誤差0なんて
石膏も、型取りの材料も誤差0ということはありません。口腔内と全く同じかといえばズレはあります。石膏も適切な粉と水の量を選んで混和しても膨張します。型取りの材料も2種類の材料を適切な量で混ぜるのですが、収縮します。それぞれあわせて誤差0になればよいのですがそうはならないのです。出来る限り0に近づけようと企業も術者も努力していますが難しいのです。そのようにしてできた模型を元に詰め物、かぶせ物、入れ歯を作製していきます。
新たな型取りがある
歯科の中の大きなパラダイムシフトというのはなかなかないのですが、それでもCTの普及、デジタルレントゲン、マイクロスコープ、CADデザイン など進んできています。その中の一つが口腔内スキャナーです。口腔内スキャナーとは歯科で使用される光学センサーが内臓されたハンドピース、いわば小型カメラを用いて口の中をスキャン、精密なデジタル画像を撮影しそれを三次元画像にしていきます。
口腔内スキャナーのメリットは
患者さんの負担の軽減(不快感や嘔吐感の軽減)
精度の高い歯科技工物の作製が可能になる
より正確な診査、診断、治療計画の立案ができる
模型作成の必要がなくなり環境負荷がなくなる
データはクラウド上で保存できる。
などがあげられます。
口腔内スキャナー
口腔内スキャナーは、まだ普及が進んでいないものの、そのメリットから今後ますます広く使われるようになると考えられています。既にマウスピース矯正において治療計画の立案や装置の製造、インプラント手術のプラニング、インプラント埋入に用いる材料や上部構造の作製、少数歯の詰め物やかぶせ物の作製に用いられています。残念ながら入れ歯作成にはまだ至っていませんがアメリカでは治験がされており遠くない将来に入れ歯の作製までできることになるでしょう。フォームの始まりただし現在ではまだ保険適応にはなっておらず自費診療に限られているのが実情です。
既にインプラントに使っている
インプラントをするのにそれが可能かどうか。出来るとしたなら、どの部位にどの方向にどの深さにインプラントができるのか。それが反対側の歯とかみ合わせるのに適切な位置かどうかを調べてなければなりません。レントゲン撮影で、ある程度は骨の量や大きな下あごの中を通る神経までの距離、鼻腔までの距離はわかるのですが、ざっくりとしたことしかわかりません。そこでCT撮影を行います。また口腔内スキャナーで口の中を撮影しCTのデータとスキャンしたデータを融合させて立体画像を組み立てます。そうすることで骨の量、大きな神経までの距離、鼻腔までの距離が確認でき、安全にインプラントを埋め込める位置を確認します。
インプラントは最終的にかぶせ物をしてかみ合わせていくのですが、安全にインプラントを埋め込んで、なおかつかみ合わせに適切な位置を決めていきます。埋め込んでいく位置が決まれば、その場所に正確にインプラントを埋め込まなければなりません。骨の中はどの骨でも基本的に神経は通っていないので痛みを感じません。ただし下あごの中には例外的に大きな神経が通っています。逆に言えばその部分を除くと痛みは感じません。痛さを感じるのは術後に歯茎に炎症がおこるからです。切開をすると身体により侵襲がかかるのでその傾向が高まります。当院ではよほど問題がなければ切開をせずにインプラント埋入手術するようにしています。
ガイド
口腔内スキャナーを用いて取得したデータを元にインプラントを正確に埋入するため、インプラント手術に用いる材料を3Dプリンターを用いて作製します。こうしてインプラントを埋入する方向、深さをコントロールして安全にインプラント治療を行っています。
unkwon
これらの機器を駆使しても唯一わからないのは骨の硬さです。こればかりは今のところ何ともしようがありません。実際に触ってみないとわかりません。骨の硬さがインプラントと骨が結合する時間に大きく関わってきます。しっかりと骨とインプラントが引っ付いていないとかぶせ物を作っていけません。噛む力というのは、体重分くらいかかると言われています。骨とインプラントの結合がゆるいといくらよいかぶせ物を入れてもインプラントごと抜けてしまう可能性が高くなります。
かぶせ物
インプラント手術が上手くいき、しっかり骨とインプラントが結合したことを確認できたならかぶせ物を作製していきます。インプラント本体にスキャニングを行うために規格化された材料を装着して、口腔内スキャナーでスキャンします。型取りをするのです。粘土みたいな材料は使いません。歯茎と規格化された材料、Hスキャンボディーというのですが、正確にその位置関係を読み込んで、インプラント本体に装着する土台を上物を作っていきます。かみ合わせの反対側の歯もスキャニングし、またかみ合わせた状態でもスキャニングして、上あごと下あごの関係もデータ化してデジタルを元に作っていきます。
精度アップ
粘土みたいな型取りと模型という間接的な材料を2種類使いませんからより精密に作製できます。インプラントのプラニングするのと同時に、埋め込んだインプラントに取り付ける土台と上物を先回りして作ることもできます。前歯など歯抜けの状態のないようにするために、歯を抜くのと同時にインプラントを埋め込みと土台と仮歯の装着まで一気に行うことも可能です。歯茎の治りは個人差あるので最終のものにはならないのですが。このようにインプラントでは普通に口腔内スキャナーは用いられるようになってきています。
次回は口腔内スキャナーと矯正治療についてお話したいと思います。