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とりあえず痛み止め?
虫歯ならそれもよし
歯が痛くなると、取り合えずは家にある痛み止めを服用される方も多いのではないでしょうか。痛みを起こす原因によって用いる薬の種類も変わります。熱いものや甘いものが滲みたりしてズキズキしたりするときには虫歯が進行していることが多く、神経に触るような痛みなのですがこの場合には鎮痛剤を用います。カロナールとかロキソニンとかがよく知られています。虫歯の穴が開いているまま飲食するとその飲食物が神経近くまでいきますから刺激となって痛みが起こります。ですから鎮痛剤を服用するだけで痛みが治まらないこともあります。神経を刺激から遠ざけ、かつ神経を鎮静させることが肝要です。もちろんそれだけでよくなるのではなく一時的に痛みを治めるだけではあるのですが、神経を鎮静させることで処置する時の麻酔が効きやすくなります。
詰まっても痛みます
歯と歯の間の隙間に物が詰まって痛むこともあります。食事するたびに食べ物が歯と歯の間に押し込まれていくので歯茎に炎症がおきます。ですから歯ブラシすると歯茎から血が出ます。この場合、鎮痛剤を服用してもあまり効果はありません。歯間ブラシやフロスを上手く使って歯と歯の間に詰まっている食物を取りましょう。歯と歯の間に物が詰まる原因には虫歯、歯が欠けた、歯が割れた、などが考えられます。ですから食べ物が詰まらないように治療された方がよいと思います。歯と歯の間が適切な接触状態になれば物が詰まることはなくなり、歯茎の炎症は消失します。
噛むと痛い
割れてるかも
噛むと痛いときは色々考えないといけません。歯が割れていることがあります。歯が割れることは神経を取っている歯に多く見られます。ですが噛みしめの強い方(エラの張った方など)では何の処置もしていない綺麗な歯が割れてくることもあります。割れた状態にもよるのですが、抜歯しないといけないこともありますし被せることで何とか抜かずに済む場合もあります。割れている部分を除去することで噛んで痛むことはなくなります。抜歯出ない場合、除去する部分の大きさにもよりますが鎮痛剤だけで済むことが多いです。
神経なくても痛みます
歯の神経が取ってある歯、歯の神経は残っているがダメになりかけている歯は鎮痛剤の服用だけではよくなりません。歯の付け根の部分で炎症が起こっているので炎症を抑えるために化膿止め、いわゆる抗生剤を服用します。抗生剤は血中の濃度が高まらないと効果が見込めません。ですから即効性はなく効果が出始めるまでは鎮痛剤と併用していただくことになります。血中濃度が高まるまでおよそ一日くらいかかります。服用したりしなかったりでは血中濃度は高く維持されませんから効果が出ません。神経がない、あるいはダメになりかけているということですから麻酔は効きにくいです。しっかり服用していただくことをお勧めします。鎮痛剤と違って市販されていませんので医院へ来ていただかなければなりません。
麻酔を効かすために
治療は神経のあった根の中の感染源を取り除くことなのですが、かぶせ物の中に大きな金属の土台が入っていると根の中をきれいにすることに取り掛かる前にそれを取り除かねばなりません。ですからすぐに痛みを取り除くことはできないことが多いのです。取り組もうとしても先に述べたように時間がかかります。急な痛みでご連絡いただいても処置する時間が相当に要りますし、麻酔も奏功しづらいのでとても対応に苦慮するところです。
親知らずは忘れたころに
親知らずの腫れは、鎮痛剤だけでは痛みは引きません。親知らずの周りの歯茎に炎症が起きていますから化膿止め、抗生剤を服用します。歯茎がはれていると反対側の歯がその歯茎に食い込んで噛むと痛むこともあります。その場合は口が開かないことが多いのですが嚙み合わせを調整することで歯茎に当たらないようすれば少しマシになります。根本的には親知らずを抜歯されるとよいでしょう。
歯ぐきの腫れ
歯周病などで歯茎が腫れる場合も化膿止めで炎症を抑えます。腫れがきついときには切開することがあります。化膿している場合には早く切開した方がよい場合と、薬で炎症を抑える方がよい場合があります。
入れ歯の痛みは薬じゃ無理
入れ歯が擦れて痛むので薬が欲しいとおっしゃることがあるのですが、飲み薬ではよくなりません。物理的に擦れているのですから擦れないように入れ歯を調整しないとよくなりません。入れ歯の歯茎の部分が噛んで痛む、取り外しで痛む、場合には医院に来ていただきて調整するしかありません。
薬剤耐性菌はいつの世も
抗生剤は常に耐性菌の問題が付きまといます。できれば皆さんも服用せずに済めばそれに越したことはありませんよね。耐性菌が出てきて抗生剤が効かなくなっている、という話を一度は聞かれたことがあると思います。これは何も大きな病院、難しい病気だけでなく乳幼児の中耳炎、とびひ、などで用いる抗生剤でも耐性菌は出てきています。抗菌剤を使えば使うほど耐性菌が増加しますから使わずに済ませたいのですが、そうはなかなかいきません。痛みから早く解放されたいですよね。日本感染症学会、日本化学療法学会では、歯科についての感染症の基本薬剤はペニシリンとされています。ペニシリンアレルギーのある方には第二選択としてマクロライドやキノロン系薬剤があり、当院でもご用意できますのでペニシリンアレルギーのある方は必ずお伝えください。
妊娠、授乳期のお薬について
安全な消炎鎮痛剤は残念ながら存在しません。比較的安全とされているのはカロナールです。これ以外の選択肢は今のところないです。鎮痛効果は残念ながらロキソニンやボルタレンに比べると劣ります。妊娠時に用いる抗菌剤ですが、これも危険性のないものはありません。アメリカの歯科医師会の危険区分で、安全性は不十分だが危険性はないという区分に入っているのがペニシリン、ジスロマック、とされています。何か持って回った言い方で釈然としませんね。国立成育医療センターが授乳中に使用して問題ないとされている抗菌剤がアモキシシリン、アジスロマイシンなど 鎮痛剤がロキソプロフェン、アセトアミノフェン、などとしています。当院で用意できます。
安定期に
それでもできるだけ服用せずに済ませたいものですが、どうしても痛みがある場合には妊娠時には安定期に治療するとよいです。妊娠初期、後期は避けましょう。授乳期の治療は母乳への移行はありますが、安全とされている薬剤がありますから治療に消極的になる必要はありません。
サラサラの薬と骨粗しょう症
心臓疾患、脳卒中、動脈硬化などでいわゆる血液サラサラの薬、抗凝固薬、抗血小板薬を服用されていると、抜歯などの観血的処置を行うときに薬を一時的に休んでいただく、ということがありましたが、現在では薬を休むことなく服用していただくようになっています。そのために止血するのに時間はかかります。服用している時間をずらすなど考慮していただくことになります。特に同じ効果を出すのに複数の薬剤を使用している時にはそれだけサラサラになっているので注意を要します。
合併症
最近では骨粗鬆症のお薬を服用されている方も多くいらっしゃいます。抜歯など観血的処置する場合には気をつけないといけません。傷口の治りがよくないことがあるからです。糖尿病、関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、人工透析、貧血、骨軟化症、ビタミンD欠乏症などが素因としてもってらっしゃるとその率が上がります。かといって必要であれば処置はしないといけないのですが、その進行度が高いと口腔外科での加療をお勧めします。用いる抗生剤ペニシリンになります。
我慢はしなくていですが、少々なら
歯科で用いる薬剤はさほど多くありません。できるだけ抗生剤の服用は避けたいところですがやむを得ない場合には躊躇なく服用条件を守って使っていただきたいと思います。