人間の体の一番敏感な場所が口、その次が指の先です。指しゃぶりは一番敏感な臓器と二番目に敏感な臓器の組み合わせです。赤ちゃんが指をしゃぶるのはこの組み合わせによって自己刺激を求めて行動なのです。この刺激を求めるという行動は人間の宿命的な本能です。
口という最も敏感な組織は触れられているだけで快感が押し寄せてきます。赤ちゃんにとっても口はたまらなく魅力的な場所で手持無沙汰のときには格好の遊び場です。離乳期の乳児期に見られる指しゃぶりは、人間として自然な反応なのです。
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えずきやすいですか?
診療にお見えになる方で、器具やレントゲンフィルムを口に入れるとえずく方があり、治療が困難になる方があります。こういう方々は幼い時期に口に対する刺激が少なかったと考えられます。口はとても敏感です。敏感ですから少しでも異物が触れると反応が起こります。
出生後の指しゃぶりは、口という敏感な組織が将来いろいろな食べ物が口に入った時に嘔吐反射や吐き出しなどのパニックを起こさないためのトレーニングと考えてください。この頃の指しゃぶりは、赤ちゃんが外の世界を口という敏感な組織を使って認識するというトレーニングをしているのです。難しくいうと自他の境界を区分する精神発達の課題に取り組んでいるのです。
実は母子関係が一番左右しているのです
幼児期の指しゃぶりは基本的に受け入れてよいと思います。しかしながら留意することがあります。養育者が、指しゃぶりをしているとまとわりつかなくて楽だから、と指しゃぶりを容認していると深みにはまり抜け出せません。指しゃぶりよりも楽しい遊びへのいざない、抱きしめ、語り掛けなど養育者が転換の機会を見誤らないようにしてください。指しゃぶりはだめだと、養育者がきびしい視線を向けると受容されていないという悲哀を育てますます指しゃぶりの世界へと追いやってしまいます。こうなると指しゃぶりそのものの問題は母子関係にあるということになります。
養育者の厳しい視線や育てる煩わしさからの手抜き、子どもに与える喜びや楽しさの不足で促進された指しゃぶりは幼児期後期に固着を始めます。親が不機嫌だったり夫婦げんかでピリピリしていたり遊びの仲間に入れなかったり保母が多忙で相手になってくれないなどの悲哀を感じると昼日中でも指をしゃぶり、容易に外そうとしません。指しゃぶりで心のバランスをとろうとします。
爪を噛むことに変化することもあります。
指しゃぶりを強制的にやめさせようとすると、より目立たない代償性の口への固着を起こす可能性があります。下唇を吸ったり噛んだり、舌を前歯の間にはさんで軽く噛んだり吸ったり、爪を噛む、袖口を噛むなどです。口に入れないように目立たないようにやるには爪を噛むのがちょうどいいので特に爪噛みは多く見られます。年齢と共に指しゃぶりが減り、それに伴って爪噛みが増加する傾向にあります。
指しゃぶりで起こりうる弊害
不正咬合(開咬、上顎前突)
指の圧力で上の前歯が突き出てきたり、歯と歯の間が空いてきたりします。また歯並びが狭くなってきます。4歳になって奥歯でしっかり噛んだ時に前歯に子どもの指一本分の隙間があったら、指しゃぶりより楽しい遊びにどんどん誘ってあげてください。大人の歯が生えてもしゃぶっていると大人の歯の前歯も出てきます。子どもの成長を育んで語り掛けてください。少なくても永久歯の前歯が生えてくる6~7歳からも持続する頻繁な指しゃぶりは萌出した歯への直接の外力が加わるので変形も大きく、やめることが望ましいのです。
舌の異常
歯と歯の間が指しゃぶりで空いているとその隙間を埋めようと舌が前方に突出し歯列不正を加速させたり、舌の運動に異常をきたし咀嚼、嚥下、発音に影響します。切歯音と言われる、上顎の前歯のすぐ後方の粘膜を用いる発音を不完全なものにする傾向があり、特にサ行、タ行の障害が出やすいものです。舌の運動の異常によるカ行の不明瞭化が起こることもあります。歯の前方突出があると口元がでます。そうすると唇を閉じるのに力が必要で、半開きのことがあります。すなわち外観障害が起こりえます。心因的障害も引き起こしかねません。
一般的な対策はあるけれど
①口から指を抜く 起きてるときはだめです。寝付いているときに。
②忌避薬の塗布 唐辛子など一時的な解決となっても他にいくかも
③叱る 最も避けてください!
④言い聞かせる 3歳を過ぎて論理的な思考が可能になれば一定の効果があります。
⑤ネイルアート法 指の腹、爪などに親しい人の絵、好きなキャラクターなどを書き込む
⑥口腔防止装置 矯正装置などに少し尖ったものを付けてみる
⑦おしゃぶり くわえっぱなしは厳禁です。
矯正専門医の女性歯科医師の先生に指しゃぶりの対策をお聞きしたことがあります。その先生のお答えは、“膝を折って子供と同じ高さにしてからしっかり抱きしめて、指しゃぶりをやめてくれたらとってもうれしいと言ってあげてください。”でした。僕もそう思います。養育者が仲睦まじく、子どもにイラつかず寛容な対応をする、を付け加えれば最高です。