今回は、大人の歯並びのガタガタをどう治すかを解説します。同じ悩みの方に説明するのにお口の写真を使わせて良いかをお聞きし、快く承諾を得ました。感謝致します。
22歳女性で、上の正面から向かって左右2番目の歯が内側に入っているのが気になるとのことでした。よく診ると下の前歯もガタガタしています。下の前歯は気にならないとのことでした。
目次
初診時のお写真
上の向かって右側の奥から4番目の歯が被せ物で修復されています。他の同じ歯に比べて少し大きいように思います。レントゲンを診ると親知らずがありました。親知らずがあると、前方に向かって生えようとするので、その力が歯並びを悪くする力がかかります。治療によっては、奥歯を更に後ろに移動させる可能性があるので矯正治療を行うときには、基本的に親知らずは抜歯していただくことになります。この方は親知らずが深い位置にありましたので、口腔外科で抜歯してもらいました。また向かって左下の奥歯に虫歯がありましたので矯正の前に治療を行いました。歯の神経が取ってあって被せ物で修復されている歯が2本ありました。
歯を並べるスペースをどう作り出すか
成人ですので顎を大きくして歯を並べるのは難しいのですが、歯の軸を傾けることで少し歯の並びを大きくすることが出来ます。前歯の歯並びのガタつきを治すのに必要なスペースを考えます。抜歯する矯正治療の場合、大抵は犬歯の一つ後ろの歯を抜歯することが多いのですが、その歯の幅はおおよそ7~8㎜です。1本ということはあまりありません。2本のことが多いのですが2本抜歯すると約15㎜のスペースが出来ます。重度のガタつきや八重歯なら検討しますが、この場合とてもではありませんがそこまで必要ではありません。1㎝って聞くと大した事無さそうですが、口の中ではそれなりの幅です。
IPRという手段
歯は真ん中に歯髄、その周りに象牙質、一番外側にエナメル質とセメント質があります。(セメント質は歯の根の部分の外側になります。)IPR というのは歯と歯の間を少し削ること僅かなスペースを作ることです。わずかというのは、一か所で0.5㎜です。前歯6本なら5か所できるので2.5㎜のスペースができます。天然の歯はなるべく削りたくありませんが、抜歯と天秤にかけると身体への負担はどちらが少ないかは明らかです。歯の幅の左右差、日本人平均とどれくらい乖離があるか、など慎重に検討して部位と量を決めます。ただし被せ物や詰め物のしてあるところはもう既に天然の歯ではありませんから限度はありますが、天然の歯よりも多く削合することが出来ます。
診断と治療方針
この方の場合、抜歯をせずスペース確保はIPRと歯軸の傾斜で行うことにしました。今までお話した内容を伝えて同意を得て治療を行うことになりました。左上と右下の被せ物の入っているところを多めにIPRし、天然の歯のところは必要最低限としました。
治療開始3か月後
歯の表面にアタッチメントという歯を動かすのに必要な材料を、治療開始1か月後、歯の表面に設置しました。そのために歯を削ることは一切しません。歯の表面を清掃し表面処理した後に付けます。このアタッチメントがマウスピースの矯正力を歯に伝えます。その数と場所は人によって違います。症例によっては、また治療期間短縮のために全部の歯に付けることがあります。開始して3か月でだいぶ変わりましたね。アタッチメントの材料はの色が目立ちますが、現在はより白い材料が開発されたので目立たなくなっています。
治療開始6か月後
口腔内写真、顔貌写真、レントゲン写真、CTなどの資料を採らせていただいて、咬み合わせ、歯の軸、など様々な観点から分析して歯を動かす治療を終えることにしました。後戻りしない装置に切り替えることにしました。ほぼ終了ということですね。体は元の歯並びにあった筋肉の動きを覚えています。その筋肉の動きのままだと歯は元に戻ってしまいます。歯の周りの骨もまだ緩んだままなので、最終位置で安定するまでその位置にとどめる装置を装着する必要があります。それを保定装置と言います。成人のマウスピース矯正では動かすマウスピースと保定用のマウスピースはほぼ変わらないので違和感はないと思います。また装着時間も徐々に減らしていきます。少なくても歯を動かした期間だけ保定する必要はあります。1~2年くらい見ていただくとよいでしょう。写真はアタッチメントを除去しています。
治療開始12か月
経過観察をしています。後戻りがないか、噛み合わせに問題がないかを診ています。保定期間になると半年に1回拝見させていただいています。術前術後の横からのレントゲン写真を見ると下唇の下の凹み具合を見比べると唇の突出感が小さくなっています。上下前歯のかぶさり具合も少し変わっています。マウスピースの矯正を行うと下顎が自由に、顎の楽な位置を求めるようになります。体が一番良いところを求めやすくなります。だから顎に問題のある方は大きく変化することがあります。顎関節の症状が改善されてくることが多いです。(大抵は下顎が少し前に行く傾向にあります。)下顎が前に行くと奥歯が当たらなくなりますが、術前に診査診断しているのでそれをおおよそ事前に組み込んだ治療計画を立てます。どのくらい動くかは個人差がありますから、きっちりわかる訳ではありません。でもその理由はわかっているので対応することができます。
遵守事項があります。
治療を計画通り進めていくには患者さんの協力が必須です。
22時間以上のマウスピースの装着
装着時にはチューイーというものを使ってしっかり定位置にマウスピースが収まるように5分程度噛む
着脱する時には無理やり外さず、優しく取り扱う
アタッチメントが取れてしまったら早急に連絡していただき、再設置を行う。(この方は一度、1歯だけありました。)
装着日数の遵守 などなど
ワイヤー矯正では自分では外すことはできません。歯ブラシだけ頑張ってもらえればお任せです。マウスピース矯正ではそうはいきません。外したり付けたりしなければなりません。その度チューイーを使わないといけませんし、外さずに飲んでよいのは水だけです。面倒と言えば面倒です。審美性に優れていますし、痛みもワイヤーほどではありません。清掃性もとてもよいです。現在ではワイヤー矯正とマウスピース矯正、どちらを選んでもその効果に大きな差はありません。ただどちらにもメリットデメリットがあります。マウスピース矯正の利点欠点を知った上で当院ではマウスピース矯正を行っています。診査診断した上で、当院で矯正治療を行うことが難しいと判断することもあります。その場合は矯正専門医やワイヤー矯正を行っている医院の受診をお勧めしています。
中程度の大人の八重歯になると抜歯の検討も必要になります。
今回は前歯のがたつきの有るケースについてお話したのですが、もう少しがたつきがきつい八重歯だと抜歯を検討しなければなりません。抜歯したスペースと、そこに収まる歯の幅がバッチリ同じで、その移動量が少なければ少ないほど治療期間も短く、治療結果も良好なものになります。逆に、歯を抜いてスペースを作っても少し余る。歯を抜かないでIPRだけでは並ぶスペースが逆に足らない。となってくると動かす歯の数が多くなったり移動量が多くなり、治療期間が長くなったり十分な治療結果を得にくくなったりします。診査診断も難しく、治療計画立案も悩み所満載になります。治療期間が延びると患者さんの負担も長くなります。その場合、上顎の骨にアプローチして顎そのものを拡げてスペースを確保するという手技があります。MSEと言います。抜歯を回避しIPRを少なくすることができます。ちょっとした外科処置が必要です。インプラントのミニ版です。またその話は別の機会に。
概要
治療内容
マウスピースを用いた矯正治療で前歯の叢生状態の改善を行っています。
期間・治療回数
約16カ月 9回 (現在保定中 保定期間は約2年をみています。)
費用
858,000円(税込)
検査費、診査診断料、材料費、来院毎の経過観察費、保定装置費
(現在の費用に換算すると968,000円)
副作用・リスク
歯を並べるためのスペース確保のために、歯と歯の間を1か所あたり最大0.5㎜ 3か所削合しています。(補綴修復物の削合を含む)上記遵守事項を守っていただかないと、治療効果を得ることができません。
治療前後