目次
インプラントの治療期間はどれくらいか
ということはケースによって異なります。インプラント治療とは、失われた歯の部分に純チタン製の人工の歯根、(それをインプラントと言います。)を埋め込み、その上に被せの歯を取り付ける治療方法です。抜歯したから時間がかなり経過しているのか、抜歯して少ししか経っていないのか、これから抜歯するのか、でも治療期間が変わるのです。このことだけでも期間が異なることをご理解いただけると思います。しっかりした顎の骨に埋入するのが基本です。ですからインプラントをする適切な時期は、抜歯後の骨の成熟が十分に進んだ後になります。抜歯後の骨の回復具合は、上顎と下顎で実は異なります。
上顎
抜歯後の上顎骨の成熟には約6ヶ月から1年程度かかります。もちろん個々の骨の再生の状態や患者の状況によって異ります。
下顎
下顎の場合、骨の密度が上顎よりも高いことが多く、骨の成熟が早い傾向があります。一般的には抜歯後約3ヶ月から6ヶ月くらいで成熟していきます。
氷をイメージしてください。
この期間中に、抜歯した部分の骨は徐々に再形成され、治癒します。かき氷みたいな硬さからだんだん固まっていって、氷柱みたいな硬さになる、みたいにイメージしていただけるとわかりやすいと思います。氷柱にネジを回して入れたらしっかりしていますが、かき氷にネジを入れてもフニャフニャで倒れてしまいますよね。成熟した骨になるまで待ってからインプラントを埋入するか、軟らかい骨にインプラントしておいて骨の成熟を待つか、どちらがよいか。できればしっかりした骨の方がよいと思います。抜歯してから経過している時間が長ければすぐにインプラント治療に取り掛かることができますが、少し前に抜歯した、あるいはこれから抜歯となると骨の成熟を待ちますから全体の治療期間は長くなります。
インプラント治療の流れ
治療計画と準備期間
インプラント手術にとりかかるに当たって、まず詳細な診断、CTやレントゲンの撮影、口腔内のスキャン、治療計画の立案を行います。通常、3~4週間の時間をいただいてます。骨のボリューム、重要な神経との距離の確認、大きな骨の中の空洞との距離の確認、反対側の歯との関係(最後に付ける被せ物をどう噛み合わせるか)のシュミレーション、インプラントの埋入する方向、埋入するインプラントの長さ、太さなどの検討をします。またインプラント手術に用いるガイドという製作物を事前に作成し、適合をみます。(安全なインプラント治療に必要なのです。)
インプラント手術
インプラントを埋入する手術は、通常の局所麻酔で行い、1回で完了します。(普通の歯科治療の麻酔と同じです。)骨がしっかりできていれば、当院では切開せず治療しますので、術後腫れることは今までほとんどありませんでした。一本の埋入では、麻酔時間などを除けば20分前後のことがほとんどでした。術後の注意は、普通の抜歯と同じです。歯ブラシだけは一週間ほど注意していただく必要があります。
骨とインプラントの統合(オッセオインテグレーション)を待つ
手術後、骨とインプラントが統合するまでの期間を待つ必要があります。インプラントが埋入された後、周囲の骨とインプラントが結合するまでの期間です。通常、これには3ヶ月から6ヶ月程度かかることがあります。この期間中、インプラントが骨にしっかりと固定され、十分な安定性を得ることが目的です。
骨とインプラントの結合状態の評価
Ostell(オステル)という、インプラント手術後の骨とインプラントの統合状態を非侵襲的に評価するための装置を用います。(外科処置ではないです。)術後、8週間から12週間程度の間に測定をすることが多いです。具体的には、振動周波数を使用して間接的に骨とインプラントの統合の指標を示してくれます。測定結果はISQ値という数字で示されます。これは0から100までの数字で表され、通常は70以上が良好な統合を示します。難しい言葉がならびましたが、100点満点で70点あれば骨とインプラントがしっかりくっついているので、被せ物を作っても大丈夫という指標になります。70を切るようだと骨とインプラントの結合が今一歩なので、しばらくそのままで経過をみることになります。まだ被せ物にいけない、ということです。
骨の硬さはCTではわからない
Ostellの数値が高くないと前に進めないので、治療期間は長くなります。それはお分かりいただけると思います。インプラントの手術をしている時、インプラントが入るスペースを作っているのですがその時の手ごたえで骨の硬さをある程度知ることができます。(CTでは何となくの骨密度はわかりますがはっきりではありません。)その硬さで測定する時期を前倒しするか、後に繰り延べるかを私は決めています。
人工骨を必要とする場合も期間は延びます。
インプラントするには植え込むだけの骨のボリュームが必要です。ですがインプラントするには骨が足らない場合もあります。
骨の高さ
インプラントが埋入される部位の骨の高さは、少なくとも10mm程度必要です。これにより、インプラントがしっかりと安定し、周囲の骨と十分に統合することができます。わずかに足らない場合には、人工の骨補填剤を用いることがあります。骨の高さが大きく不足している場合は、骨移植などの処置が必要となることがあるので専門医などでの治療をお勧めします。
骨の幅
インプラントが埋入される部位の骨の幅は、少なくとも6mm程度が推奨されます。これにより、インプラントが支えることができる十分な骨の量が確保されます。わずかに足らない場合には、人工の骨補填剤を用いることがあります。骨の幅が大きく不足している場合は、骨移植が必要となることがあります。
自分の骨なら、どこから持ってくる?
骨補填剤を用いる場合、ヒトの骨と融合するまでに時間がかかります。自分の骨なら早いのですが、どこから持ってくるのかということもあります。骨補填剤を用いる場合も用いる量にもよりますが、基本的に治療期間は延びます。
歯周病の方は骨の高さがないことが多い
歯周病は歯を支える顎の骨が無くなって、歯がグラグラして抜けていきます。歯がグラグラして抜けたとか、自然に抜けた、という方の顎の骨は高さが無くなっていて、インプラント治療できません。歯周病の治療はご自身の適切なブラッシングに負うところがほとんどで、天然の歯以上にインプラントは繊細なので、きちんとブラッシングが出来ない方はインプラント出来たとしても、インプラントを永続させるには相当の覚悟と実践が必要です。
人工歯の取り付け
インプラントと骨の統合が確認された後、人工歯(クラウンやブリッジなど)が取り付けられます。インプラントに土台を付けて、いよいよ型取りになります。このプロセスには、歯の形成や調整が含まれ、最終的な審美的な結果を確保するために数週間かかる場合があります。総じて、インプラント治療全体の期間は通常6ヶ月から1年程度ですが、個々のケースによってはこれよりも短い場合もあります。治療のスピードや進行具合は、いままで述べてきたように、患者の骨の状態や治療計画によっても異なります。(全身の健康状態も影響します。)
期間はかかっても、メリットの多い治療法がインプラント治療
これまで述べてきたように、治療期間の目安は述べられますが、様々な状況からどれだけの期間になります、言い切ることはできません。インプラント治療の利点としては、隣接する健康な歯を削る必要がないため、従来のブリッジや部分入れ歯に比べてすべての歯の保存の可能性がかなり高くなりますし、審美的な観点からも自然な見た目が得られることなど、治療期間に勝るだけのメリットが必ずあるといえるでしょう。